カニです。
「ンジャメナって地名知ってる?」
「知らん。どこ?」
「チャドの首都」
「チャド、どこ?」
ンジャメナすき
そんな感じで、今回はンジャメナの話です。
ちなみにチャドはアフリカの国(知らなくても問題ありません)。
とは言え、都市の文化事情について語るわけではありません。
「ンジャメナ」というワードが、ただただ言葉として好きなので、その理由を書きます。
なのでどんな街なのかはまだ全然知りません(人口100万人超で、物価がわりと高いらしい)。
ンジャメナって言葉エモいよな
ンジャメナの何が良いって、まず「ン」から始まるところ。
日本語にはない形態の単語。初めて知ったときには「こんなのありかよ」と興奮すら覚えた。
人はこうして、ささやかな出会いから言語文化の違いを学びとっていくのだ。
自分の手が届く範囲の文化しか知らなかった子供の私にとって、アフリカンな空気を感じさせる単語「ンジャメナ」が魅力的に響いたのも当然である。
しかも「ん」から始まるという日本語にはあり得ない性質上、ンジャメナは日本語の遊び「しりとり」においてまるでジョーカーのような立ち位置にある。
おそらく日本においてはチャドの首都として言及されるより、しりとりの文脈で話題に上ることのほうが明らかに多い単語、それがンジャメナである。たぶん。
小学生時代、ひとりくらいはこんな奴がいなかっただろうか。
しりとりにおける負けを、俺は「ん」で始まる言葉を知っている、という知識で覆そうとしてくるチャレンジャーが。
「はい、お前『ん』で終わったから負けー」
「はあ? んから始まる言葉いっぱいあるしな! ンジャメナとか!」
だいたい彼らは社会が得意で、地理に詳しかった気がする。おそらく地理の本を読むなかで、ンジャメナやンゴロンゴロ保全地域といったワードを目にしたのだろう。
それって実は、とても面白い現象なのではなかろうか。
日本においてンジャメナは、都市としてそれほど有名ではないはずだ。
にも関わらず、その名がしりとりの特性と奇跡的に噛み合っていたために、言葉としては小学生でも知っていたりする。
あなたがンジャメナをご存知なら、初めてンジャメナという言葉を知ったときの、あのワクワクを思い出してほしい。
地理が得意な同級生から誇らしげに教えられたときの、新鮮な驚きを。そして同時に、裏をかかれたようで少しだけ悔しかったあの気持ちを。
聞いた話を早速他人に自慢したいがために、わざとンで終わる単語を得意げに口にしてみたときの、あの一歩踏み出すドキドキを。
あの、小賢しくも純真だった子ども時代を。
ともすると、社会の授業で地図帳を見てチャドの存在を知る前に、ンジャメナのことだけを知っていた人もいるかもしれない。
そのアンバランスさ、そこはかとなくセクシーではないだろうか。
日本語話者にとっては、そういった理由でちょっと印象深い(かもしれない)言葉「ンジャメナ」。
だが、もしかすると、このエピソードはチャドの人々にとっても印象深いかもしれない。
だって、立場を逆にして考えてみてほしい。
日本から遠く離れた国で、
日本のことを全く知らない子どもたちが行う、
ルールもわからない異国の言葉遊びのなかで、
「東京」が、
ゲームの展開を180度変えるキラーフレーズとして大活躍していたら。
そんなの、良いに決まっている。
だから、ンジャメナすき。