サ行変格活用はセクシーである。
NAKATAもそう言ってた。
そもそもサ行変格活用とは何か
その説明もちゃんとしますね。
そういうのわかってるよ! 国語得意だったよ! という方はここ読み飛ばしてください。
コトバンク収録のデジタル大辞泉では、「サ行変格活用」は以下のように説明されてます。
動詞の活用形式の一。語形が、文語では「せ・し・す・する・すれ・せよ」、口語では「し(せ・さ)・し・する・する・すれ・しろ(せよ)」のように、文語では五十音サ行のシ・ス・セ三段の音で、口語ではサ・シ・ス・セ四段の音で語形変化する類例のない活用。
この活用をする動詞は、文語では「す(為)」「おはす」、また、中古の「います」、口語では「する」だけであるが、和語・漢語・外来語や、名詞・副詞など他の品詞の語について、多くの複合動詞がつくられる。「恋す(る)」「啓す」「熱する」「びくびくする」「ドライブする」など。「甘んずる」「応ずる」などザ行に活用するものも含む。
説明が充実してるぶん、若干分かりにくいかも?
つまり動詞というのは、後ろにつく助動詞によって形が変化します。
例えば「買う」。未然形(後ろに「ない」「う・よう」がつく)なら「買わ」「買お」になるし、連用形(後ろに「ます」「た」)なら「買い」に、終止形と連体形(後ろに名詞)なら「買う」、命令形と仮定形(後ろに「ば」)なら「買え」、に形が変化するわけですね。
この変化を『活用』と呼びます。
活用の仕方は動詞によって異なっていて、いくつか種類があります。
今の日本人が日常的に使う口語では、『五段活用』の動詞が一番多い、ベーシックな形。さっき挙げた買うも五段活用です。
何が五段かというと、活用の仕方が、アイウエオの五段あるからなんですね。
買「わ」ない、買「い」ます、買「う」、買「え」ば、買「お」う。買うの場合、活用形がワ行で、五段ありますね。この場合、ワ行五段活用と言います。
活用の仕方は他にもあって。
見る、に代表される『上一段活用』は、「み」ない、「み」ます、「みる」、「みれ」ば……と、ずっと「み」で活用形が変化します。のでマ行上一段活用。
寝る、などの『下一段活用』は、「ね」ない、「ね」ます、「ねる」、「ねれ」ば……と、ずっと「ね」で変化。この場合はナ行下一段活用。
どっちも一段なんですけど、イで変化するなら上、エで変化するなら下。
余談ですけど、なんか表現が面白くないですか? 今まで生きてきて、アイウエオを「段」で数えたことないな。それに、イが上でエが下だな……って考えたことがあるの、文字で萌えられる腐女子と国語学者くらいだと思う(個人の偏見です)。
基本的にはほとんどの動詞って、今まで挙げた3つのどれかに当てはまるんですけど、例外的な活用をもつものもある。
それが、『カ行変格活用』と『サ行変格活用』。
見てくださいこの名前。すでにちょっと一筋縄では行かない感じが出てますね。変格……!
『カ行変格活用』は動詞の「来る」のためだけに存在する活用です。ひとつの動詞のためだけにあるなんて、ロマン感じません?
「こ」ない、「き」ます、「くる」、「くれ」ば、「こい」、「こ」よう。
どうです? 今までの3つとは一味違う、エキセントリックな活用を見せつけてきますね。技巧派ドリブルって感じです。
『サ行変格活用』は動詞「する」のためだけに存在する活用です。実際には古語では「おはす」とかもあったんですけど、現代の口語では「する」一択です。
「し」ない、「し」ます、「する」、「すれ」ば、「しろ(せよ)」、「し」よう。
大体なんとなくサ行変格活用活用が何なのか、わかってもらえたと思います。とりあえず「する」の変化の仕方をそう呼ぶと思ってもらえばよいです。
もっと詳しく知りたい方はWikipediaで調べよう。
なぜサ行変格活用はセクシーか
サ行変格活用はセクシーである。
NAKATAも昔言ってた。(NAKATAというのは筆者の推しの中田敦彦さんを指します)
彼がセクシーな理由など枚挙にいとまが無いのですが、皆さんにも彼のセクシーさに気付いていただきたいので、ひとつずつ語っていきたいと思います。
(彼とはここではサ行変格活用のことです。中田敦彦さんではないです。もちろん中田敦彦さんはセクシーです)
まず、もう命令形が「しろ」と「せよ」の2つある時点でちょっとずるいよね。ダブルフェイスかよ。普段日常生活で見せるラフな人格としての「しろ」と、クールで近寄りがたく神々しい人格の「せよ」を併せ持つ男。皆さんそういうの好きでしょう(個人の偏見です)。
デジタル大辞泉の説明文にも、サ行変格活用の隠しがたい魅力が出ちゃってますよね。
口語ではサ・シ・ス・セ四段の音で語形変化する類例のない活用。
「類例のない活用。」ですよ! 皆さん! 「類例のない活用。」!!!
あんな男は他にはいない、と。他の誰でも、彼の代わりになることはできない、と。デジタル大辞泉さんが太鼓判を押しちゃってくれているんですよ皆さん。
デジタル大辞泉さん、サ行変格活用の女じゃん
(デジタル大辞泉さんこんなことを言って本当に申し訳ありません、問題あったら消しますので今後ともよろしくお願いします。)
それだけでなく、彼の無二の相棒「する」も最高にクール。
「する」と言えばレペゼン動詞、動詞の中で最も基本的な存在。単独でも頻繁に使用され、「する」というだけで様々な意味を表すことができる。
彼一人でもメインを張れる実力と華やかさ、色んな場面で求められた役割をこなせる器用さ。
藤森慎吾だな……。(何にでも藤森慎吾を見いだすシステム)
単独でも汎用性のある「する」ですが、彼の真骨頂は他のことばとコンビを組んだ時にこそ見られる。
デジタル大辞泉さんにも以下のようにあります。ありがとう、デジタル大辞泉さん。
和語・漢語・外来語や、名詞・副詞など他の品詞の語について、多くの複合動詞がつくられる。「恋す(る)」「啓す」「熱する」「びくびくする」「ドライブする」など。「甘んずる」「応ずる」などザ行に活用するものも含む。
そう! 「する」の最大の魅力は、他の様々なことばと複合動詞をつくれるところにあるのです!
和語とも……(例:涙する)
漢語とも……(例:応援する)
外来語とも……(例:フリーズする)
名詞だけでなく、副詞とだって……(例:どきどきする)
しかも、彼は相手に合わせるために、自分のスタイルを変えることさえある…….(例:動ずる)
あれほど確立した人気を築いていながら、仕事相手を選ばない腰の低さ。名詞に限らず副詞にも「動詞化」という彼にしかない能力を提供する懐の広さ。その上相手のためにザ行にも姿を変える優しさと自由自在さ。
藤森慎吾じゃん!!! (錯乱)
失礼いたしました。
絡む相手も「恋する」などの身近で甘酸っぱい名詞から、「睥睨する」なんて日常ではあまり使わない言い回しまで。人気者からニッチな奴まで、誰とでも組めるフレンドリーさを持つ。
「いいねする」なんていうのもありますよね。生まれたての赤ちゃんのようなことばにも、活躍の場を与えてくれる。マジで格好いいよね。
しかも彼、グローバル人材やで。「ドライブ」とか「カット」とか、英語圏からいらっしゃった名詞とも一緒にお仕事できるんですよ。これからのソサエティ5.0において求められるキーコンピテンシーだよね(意識高そうな言葉)。
そして!
そんな「する」がバディとして選んだのが!!!
サ行変格活用なんですね!!!
めっちゃ良くないですか?
動詞のメインストリーム、人気者でニュートラルな彼が選んだ相棒は、他に『類例のない』尖った語形変化をするサ行変格活用だったーー。
それはもう、それはさすがに、もはや運命やん。
明るい人気者と尖ったクールな天才肌の組み合わせ、それは古来からエンタメとして人々を魅了してきた……。
あの「する」がサ行変格活用をとるっていうのが凄くいい。
それは逆説的に、あの「する」だからこそサ行変格活用をとれるってことでもあるんです。
ことばには『類推』というシステムが影響してきます。
ことばは日常生活の中でアドリブ的に使われるもの。だから大抵の人は、喋る前に活用形をいちいち調べたりはしない。
例えば英語なら、goの過去形がwentだと知ってる人は正しくそれを使います。でも、知らなかったらどうするか? 「ふつう、過去形は現在形の語尾に-edをつけるもの」というルールから『類推』して、goedとやってしまう。
goは日常でよくよく使う動詞だから、wentという形を耳にする機会はたくさんありますし、それがgoの過去形だってことも会話の流れでわかります。だからwentという、特殊な変化が時代を越えて保たれてきた。でもかなりニッチで、周りの人も特殊な変化形を知らないような動詞なら? 使う人がみんな『類推』で-edを過去形として使うと、特殊な変化形は淘汰されてしまいます。そうして、あたかも-edが正しい変化形として使われるようになる。
ちなみに日本語でもこの『類推』による活用の淘汰が起きたとされています。
古語では『下二段活用』と『下一段活用』の2種類が使い分けられていました。ちなみに、今の下一段活用の動詞たち、殆ど元は下二段活用。下一段活用だったのは「蹴る」だけでした。しかし、まず「蹴る」が類推で五段活用*1にされてしまいます。そのあと、「二段に活用するの面倒くさくね? 一段に統一しちゃおうぜ」という考え……なのかはわかりませんが、下二段活用の動詞がまとめて下一段活用になっちゃいました。
だいたいそんな感じです。
つまり、誰もがめちゃくちゃよく使う「する」という動詞でなければ、サ行変格活用なんていう特殊な活用は忘れ去られてしまっていた。
滾りますね。
だってみんな知ってるんだよ? 「する」のバディがサ行変格活用だってこと。あの有名な「する」のバディはサ行変格活用だけだって、それ以外にはないって、みんなが知ってて認めてるんだよ?
これはすごいことですよ。刑事ドラマやヒーロー物だったらさ、だいたい、前の相棒の姿がちらつく展開があるじゃん。相方の亡くなった元のバディの話を主人公が聞かされて苦悩する場面とかあるじゃん。主人公にも別のメンバーと組むように打診があったりするじゃん。「お前にはこんなくたびれた奴じゃなくて、もっと実力のあるバディが相応しいよ」みたいな展開あるじゃん! それでも2人は乗り越えるんだけどね! それはそれで最高!
でも「する」とサ行変格活用の絆は、そんな揺らぎやすい儚いものじゃない。不変の絆で固く結ばれてる。誰もがそれを認め、邪魔しようとしない。
これはもうね、愛です。愛。
でもきっと、ここまで揺るぎない絆を築く過程には、いろいろ困難もあったと思うんだよ。
~某大手事務所にて~
社長「残念だがね、する君。サ行変格活用くんにはマネージャーをやめてもらうことになった。彼は君のマネージャー以外には全く向かないからね。」
する「サ変がやめる……?」
※「する」はサ行変格活用のことサ変ってあだ名で読んでると思います。親友だから
社長「ああ、今後はベテランでやり手の五段活用くんがマネージャーとして君をサポートするから安心してくれたまえ」
する「……なら、俺も事務所やめます」
社長「なんだって!? 何を言ってるんだ! 駄々をこねるんじゃない!」
する「わがままなんかじゃありません、俺は本気です」
社長「そんな……早まらないでくれ」
する「そもそも俺はあいつと約束したんです。ふたりで一緒に動詞界のトップになろうねって。俺はその約束を果たすために今までやってきた。あいつとバディを解散するなら、この事務所でやっていく意味はない」
社長「いま君に辞められたら、我が事務所は……」
する「なら、今まで通りサ変とさせてください。あいつの給料分出しても有り余るくらい、稼いできた自負はあります。今後はもっと仕事します。社長が言ってた海外進出の話も受けます。それなら文句ないでしょ」
社長「君がそこまで言うなら構わないが……」
する「俺のバディには、サ変しか考えられないですから」
「する」、格好いい~!!!
最高じゃないですか? 最高の男じゃないですか? ていうか性別とかどうでもよくて、最高の人じゃないですか!?
サ行変格活用のバディであるために、動詞界の一線で活躍し続けてきた「する」。そして、そんな「する」のためだけに存在するサ行変格活用。
これが運命じゃなくて逆に何なんですか?
そう思いませんか? 皆さん。
最後まで読んでくれる人いるのかなこれ。
いたとしたらあなたも変態です。ありがとうございました
「する」とサ行変格活用のバディが好きな人、たぶんオリラジとかヒプマイの一二三と独歩も好きだから、よかったら。
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*1:追記:下一段ではなく五段活用とのご指摘がありました!