蟹を茹でる

カニ( @uminosachi_uni )のブログです

『ユーモア解体新書 笑いをめぐる人間学の試み』

読みました。

ユーモアの解体学は、新たな人間学である

本書はユーモアと笑いをめぐる11の論考から構成されている。それらの論考を貫く探究テーマはただ一つ、「人はなぜ笑うのか」という古くて新しい問いである。

知的好奇心をそそる書き出しで、この本は始まる。硬派な文体ながらも論旨は明快。専門的な内容の研究書だが、できる限り身近な言葉で、わかりやすい説明がなされている。簡潔にまとめられた文章のうちに、「ユーモアの革新的な専門書をつくる!」という決意が見えて、まえがき好きとしては推せるやつ。



引用の通り、この本には笑いとユーモアに関する11の論文が収録されている。
面白いのは、そのジャンルが多様なこと。執筆者みんな専門がバラバラ。当然笑いに関するアプローチも考え方もそれぞれ違う。

1章では哲学者が『現存在の各自性』を説きつつ「ショーペンハウアーは嘲笑の笑いしか理解できへんヤツなんや!」みたいなこと言い出したり*1
かと思えば、現時点での笑いに関する研究動向を丁寧にまとめてくれる論文もあったり。

後半の章では、かなり応用的な分野の論考も入る。
レッド・ツェッペリンとユーモア
・パロディ漫画と二次創作(やおい)
アリストテレスが下ネタをどう捉えたか
そうそうたる顔ぶれ。

これだけ幅広いと、たぶんどんなタイプの人でもひとつは気に入る論考、役立つ知見が含まれていると思う。


入門的な内容で読みやすいのもよい。さすがに小説や実用書ほどではないけど、個人的には新書よりサクサク読めた。
それでいて、専門的な議論の概要も知ることができ、引用・参考文献も論考ごとにきちんと載っている。気になる先行研究をどんどん辿っていけば、さらに知識が拓けていくと思う。


ユーモアの学問がなんとなく気になる人、笑いを研究してみたいな……と迷ってる人にはおすすめできる。「笑いの研究ってこんなに自由で色々あるんだ……」と視野が広がる本だった。



以下は、各論考の簡単な解説と感想。

1章 笑いを研究して何が得られるか 仲原孝

笑いを研究することの困難さを、哲学者の視点から語る。笑いの多義性、各自性、言語の問題といった観点は、他の分野の研究でも重要になりそう。
ユーモアの研究書で初っぱなから「他者の笑いを研究するのって無理じゃない?」と論じるアグレッシブさが面白い。
著者の主張も所々トリッキーでウィットに富む。
特に、動物の笑いの研究者に対する熱いdisが印象に残った。


チンパンジーの子供は母親に「高い高い」をされると笑う、との研究に対し、著者はこう反論する。

それは「恐怖」の表情なのだとか(中略)理解するのは間違っている、と、なぜ断定できるのか。恐怖を感じているなら逃げ出すはずだ、と考えるのは、「人間に当てはまることは必ずチンパンジーにも当てはまる」という自己投影的思考法の帰結である

人間においてすら、母親から虐待されて母親が怖くて仕方がないのに他人が母親から保護しようとしたら母親にしがみついて離れようとしない子供はたくさんいるではないか。

投影してるやん!!
人間に当てはまることをチンパンジーに当てはめてるやん!!
さっきそれ反論の材料にしてたやん!!
めっちゃフリとオチ使ってくるやん!!

……いや、「必ず」と思ってなければいいのか?
でもそれを言ったら動物行動学や比較認知の研究者とて、チンパンジーに人間の全てを当てはめてるわけないし、笑いについても人間と完全に同一のものだと言ってるわけではあるまいし……。

あえてユーモラスな構成にしてるのか、「貴殿方にも分かる様、敢えて自己投影的思考法で言うと」って趣旨なのか、マジでやってるのか。読み手にはわからない、飄々とした論理展開である。

2章 笑いとユーモアの探究はどんな眺望をひらくのか 片岡宏仁

副題に「探索ガイドマップ」とあるとおり、笑いを学ぶ上で道標となる先行研究を多く示している。初心者たる自分にとっては、ここが一番役に立った。解説は親切だし、観点もさまざまで興味深い。前提知識を得るにはもってこいだと思う。

特に興味深かった点は以下。
・笑いの普遍性
→笑顔や笑い声は文化を超えて共通する
・笑いの生得性
→ヒトは赤ちゃんのころから、学習しなくても笑う
デュシャンヌの笑い
→作り笑いと自然に出る笑いには様々な違いがある
・笑いの社会性
→人は人といるときの方が(滑稽な内容でなくても)よく笑う
・ユーモアとおかしみに関する代表的な理論
→不一致理論、不一致解決理論など

笑いには社会的地位も絡んでくる、というのも面白かった。確かに権力持ちのおじさんが言うジョーク、なんも面白くなくても若手は気を遣って笑うもの……

3章 ユーモアの価値はどのように割り引かれるのか 小原漱斗・佐伯大輔

笑いの共有が価値認識に及ぼす効果(価値割引)を、行動分析学の観点から精神物理学の手法で実験する。
……と説明すると難しそうな論文だが、全然心配はいらない。行動分析学とは、精神物理学とは何なのか? どんな考え方で、どんな実験・調査方法をとるのか? そんな基本的なことから、門外漢にもわかりやすく書いてくれているからだ。

「価値割引」には様々な種類があり、それぞれ研究が重ねられている。
イメージしやすいのは遅延割引(10年後にもらえるショートケーキは、いまもらえるショートケーキより価値が低く思えるなど)、確率割引(半々の確率でもらえる10万円は、確実にもらえる5万円より敬遠されるなど)だろう。

この論考で扱うのはその一種、社会割引。他者と共有することで価値認識がどう変わるか、が主題。大ざっぱに言うと、「知らない人と共有する10万円は、独占できる5万円より価値が低く思える」みたいな話。
ふつう、報酬は他者と共有すると、主観的価値が減る。親しい人より知らない人と共有する方が、そして共有する人数が多い方が大きく減る。
その結果には納得がいく。「この100万円を知らん人らと100人で協議して分け合ってください」って言われるの、ぽーんと1万円もらえるのの100倍ややこしそうだし。

しかしユーモアの場合、共有した方が主観的価値が増える場合がある!
これを明らかにした実験内容、ふたつの実験結果の違いに関する分析、そこから導き出される結論、どれも意外性と納得感が両立していて読みごたえがあった。

4章 ユーモアはなぜ愉快なのか 佐金武ほか

まさにタイトルのとおり、ユーモアが愉快な理由を丁寧に解きほぐし、解き明かしていく論考。

「まず、ユーモアの発生条件と、ユーモアが引き起こす心的状態と、ユーモアの進化的な存在理由は分けて考えないとだめじゃん」との指摘には目から鱗が落ちる思い。議論の的確で明快な交通整理、これが研究者の技術……!
ユーモア理論の代表的な類型について比較検討し、分析する手つきは鮮やか。無駄のない包丁さばきで魚が三枚におろされてるのを見てる気分になる。学びの初歩に適した内容だと思う。

それらの類型について有用な部分を取り出し、説明不足なポイントを指摘し、反論に再反論して著者らは『優越説』をブラッシュアップしていく。
何かを見下すのではなく、「◯◯すごい!」と思うかたちの優越感もある、との主張が目新しく感じた。

5章 ユーモアは不道徳だとつまらなくなってしまうのか 太田紘史

不道徳さがユーモアの愉快さにどう影響するか、これまでの代表的な議論を取り上げ、著者の主張につなげていく。個人的には著者の結論は自明な気がしたが、そこに至るまでの論理の組み立て方は見ごたえがあった。

不道徳さを表現することと是認すること、面白いか(事実)と面白がってよいか(規範)の違い、合理的規範性と道徳的規範性の区別、反応依存性や主体相対性といった概念。どの議論も刺激的で、考え方の枠組みは他にも援用できそうだ。
賞レースの審査についても言及されている。

6章 自己卑下による笑いは損なのか得なのか 新居佳子

いわゆる自虐ネタやおもしろおかしい失敗談の効能を探る。著者は、社会構造のタイプによってそのはたらきが変わると主張する。
後半はサムライとあきんどの文化差から、関西人の生態の話にスライドしていくのがかなり面白い(おかしみを感じる、という意味も含めて)。

最後の結論はひとことで言うと「自虐ネタ can change the world.」みたいな感じで、正直ちょっと話がデカすぎるんじゃないか……と思う部分はあるものの、楽しく読めると思う。
自虐ネタや関西芸人が好きなら読んでみてほしい。

7章 ヒトはなぜおかしいものを笑うように進化したのか 山祐嗣

笑いの源泉を適応的意味から解き明かす、つまり進化のうえで笑いが持っていた役割を考察する。集団形成や「心の理論」、順位制との関連などが取り上げられていて、社会集団や進化心理学を知ってみたいなら役に立ちそう。

ざっくり言えばヒトがおかしいものを笑うのは、「集団の維持と集団内での地位向上に適応的だから」なのだが、そこにはヒトの認知機能や個体間の関係など、多数の要因が複雑に絡みあっている。

「笑い」と一口に言っても、種類の違い(同調の笑い/嘲笑)や主体の地位(上位者が下位者を笑うのか、下位者が上位者を笑うのか)によって目的や地位が変わる、と進化的側面から説明しているところなど、興味深かった。

8章 音楽のユーモアはどのように鑑賞されるのか 源河亨

レッド・ツェッペリンの『デジャ・メイク・ハー』のユーモア、という極度にピンポイントなテーマの論考だ。だがそこから議論が広がっていき、普遍的なユーモアの性質を理解するにも有用な内容になっている。

「ユーモアのおかしみを感じるには前提知識が必要」、そして「ユーモアの面白さは鑑賞の仕方によって変わる」という一見当たり前な考え方を、美学的に裏付けていくところは見事。レッド・ツェッペリンを全く知らなくても、この論考から得られるものはたくさんあると思う。

メロディーラインに込められたユーモアが主題なので、「言語的な内容もなく、滑稽な演奏でもない(ふつうに演奏はうまいのに笑える)ユーモアの形とは?」という鋭い問題提起がなされているのも特長。

9章 パロディは笑えるのか 石川優

パロディ漫画といわゆる二次創作の違いはどこにあるのかを、原作との向き合い方や創作の目的などに着目して考察する。
パロディ漫画にも、原作を批評する機能のものと、原作ファンに親しみを感じさせる役割のものがある。両者は作風も、原作に与える効果もかなり違っている。

二次創作について著者は、コメディ的な内容の「オールキャラ」と恋愛関係がメインテーマの「やおい」に大別し、それぞれの目的の違いを分析している。実在するアンソロジーを取り上げての詳細な調査分析には圧倒された。
ちなみに二次創作って商業流通しにくいので、厳密な手順にのっとって調査するのは大変らしい。

10章 なぜアリストテレスは「下ネタ」を許容したのか 田中一孝

もう章タイトルがユーモラスである。「そ、そうなんだアリストテレス……」と思わせてくれる。
もちろん中身は非常に知的な話。アリストテレス政治学』の教育論のなかで語られる、「アイスクロロギア(恥ずべき語り)」について論じるものだ。アイスクロロギアの響きもやたら格好良いな。

アリストテレスの教育論について先行研究を参照し、ときに反論しながら、アリストテレスがなぜ理想の都市国家で「性的な恥ずべき語り」=下ネタを許容したのかを読み解いていく。

国家として市民の性を倫理的に統制しながらも、性を称賛する祭礼を残し、あるいは喜劇や共同食事における年長者との交流を通じて、一種の性教育を行おうとしたのではないか? と筆者は考える。国家を維持するうえでは、節度を保ってもらう必要もあるが、人々が性に消極的すぎても困るからだ(誰も子供を持とうとしなくなるので)。

現代の価値観からすると、国益のために個人の倫理や行動を直接統制しよう、との意見はかなり受け入れがたいものの*2アリストテレスのバランス感覚は面白いと思う。

11章 20世紀転換期のアメリカ帝国主義において諷刺はどのように利用されたか 金澤宏明

20世紀初頭のアメリカにおける諷刺イラスト・諷刺漫画をテーマに、当時のアメリカに広まっていた価値観を考察する。ちなみに当時諷刺画が載っていたような媒体の多くはアメリカ主流派(いわゆるWASP)向けだったため、主に白人男性の見方が反映されている。

イギリス本国の圧迫に対する諷刺や、アメリカ自体への自己批判的な諷刺があった一方で、少数派である黒人や有色人種を揶揄するような諷刺もあった。その二面性がアメリカにおける諷刺の特質だという。

これらの諷刺からは当時の白人男性が持っていた人種観だけでなく、ジェンダー観も見てとれる。
アメリカや帝国国家は大人の男性として描かれることが多い一方、アメリカ外の島嶼領土(ハワイやフィリピンなど)は子供や女性の姿で多く描かれたという。

まとめ

分野横断的かつ入門向けということで、初心者にもかなりわかりやすく、最後まで好奇心を持って読める本だった。ライトな読み口だが学術的な内容を扱っており、ユーモア研究を知る第一歩によいだろう。
ただ値段が7000円くらいするのが気になるところ。良質で難しすぎない研究書なので、図書館にリクエストするのも良いんじゃないかと思う。もちろん個人で購入されればもっと良い。

*1:もちろん原文は大阪弁ではないが

*2:現代でももっと異常で人権侵害的な主張をする人間はごまんといるが

男性ブランコの公式チャンネルほぼ全部見た

男性ブランコの公式YouTubeチャンネルに上がっている動画、全部見ました。(2020年1月末時点)
公式チャンネル↓
https://www.youtube.com/channel/UCJu3mFiERByz2CupSdurYUA

登録者数1000人(収益化の条件の1つ)到達したみたいです! よかった!
以下備忘録として、面白かったコントの感想を書き残します。


ライト兄弟

目のつけどころが良いなあ。冒頭のスタイリッシュさがフリとして効いてる。
愛すべき人間のダメさだ。

紙飛行機

平井さん演じる女の子のキャラクターが良い。喋り方がレトロ。
中盤の、「思いついた脈絡のないボケをただ言う」みたいなパートが面白くてめちゃめちゃ笑った。こういうネタもっと見たい。

赤い実はじけた

これも女の子のキャラクターが劇的に強烈。
前半の設定はベタなんだけど、中盤以降女の子が放つセンテンスの純粋な強さで全部持っていく。ストロングスタイルすぎる。

スライディー

ザ・バカバカしいコント。それでいてネタにちゃんと変化がついてる。こういうの大好き。

マチコちゃんと花

この動画だけ飛び抜けて再生回数が多いと思ったら、オモコロで漫画化されてるみたいです。
https://omocoro.jp/kiji/169939/

やたらと俯瞰でものを言うマチコと、マチコの「なんで」に答えるお兄ちゃん。やっぱりセンテンスのパワーがすごい。
こちらは『消しなさい!』とは違い、世界観とストーリーの転換点が一致しているシンプルな構成のコント。オチが衝撃的だった。

豆もやしのマメモ!

タイトルや扮装からは到底想像つかない視聴感を提供してくるコント。イロモノだと思ってたら見事に裏切られた。
マメモのアイデンティティをどこに置いていいんだかわからん感じ(ドラえもんへのコンプレックス)がけっこう好き。妖精なら確かにそう思うよな……。

ふざけたコントなのに、「ただそばにいてくれることの価値」とか、「成長速度が異なるゆえのすれ違い」とかにも思いを馳せられて興味深い。

おばけなんていなーい

ヤバい人そっちなんだ。

ドン引きしながらの「ここ便所の床だから」にめちゃめちゃ笑った。浦井さんのフリーダムなボケが光る。



たくさんネタ見て思ったけど、ボケ役とツッコミ役を切り替えられるコンビって強いな。関西弁×東京弁の組み合わせも珍しい。

男性ブランコ『消しなさい!』に胸打たれた

フォロワーさんにオススメされた、男性ブランコYouTubeチャンネルを観ています。
https://www.youtube.com/channel/UCJu3mFiERByz2CupSdurYUA

まだ全部は観られてないんですが、すごく印象的なコントがあったので語らせてほしい。

 

『消しなさい!』

単独公演「えんがわサイケ」で披露されたネタ。再生数は少ないけど、クオリティは非常に高い。もっと多くの人に観てほしい。

お父さんの共感できるダメさ

登場人物は高校生の男の子と、そのお父さん。塾から帰った息子と父は仲良く会話するが、父が改まって切り出す。
「実はお前にちょっと話がある」

真剣な空気。深刻な話が始まる予感の中、父が打ち明ける。

「実は父さん、お前がちゃんとしすぎててプレッシャーがすごい」

そこそこだらしないお父さんは、優秀で気遣いもできる「ちゃんとしすぎた息子」にエグいプレッシャーを感じていたのだった!


気持ちはわかる。
息子は父に似ず、賢く謙虚でしっかり者の努力家。自分より数倍は人格者の息子に圧倒されて、父は余計に自分のだらしなさを自覚してしまう。

でもそれ息子に直接言う?? 正直すぎひん? それ言うのが一番威厳なくならへん? そんなところがこの父の愛すべきダメさだ。

お父さんらしくないお父さん

父は威厳を獲得すべく、息子に「お父さんらしいこと」をしてみせようとする。欲しいものを買ってあげようとしたり、父親らしく叱ろうとしたり。中でも私が一番好きなのがここ。

「父さん的にはどうしたいの?」
「怒らせてくれ」
「怒ってるやん」
「これは理不尽に怒ってるやん!」

理不尽を自覚しながら理不尽に怒ってる(しかもそれを正直に言う)人、傍から見るとめちゃめちゃ面白い。
この父の考える「お父さんらしさ」って、たぶんエゴグラムでいうCP(支配的な親)だと思われる。
このCPについて、Wikipediaの説明は以下の通り。

厳しい心。自分の価値観を正しいものと信じて譲らず、責任を持って行動し、他人に批判的である。この部分が低いと、怠惰な性格になる。

お父さん、実際にはこの支配的な親と全部逆の行動を取ってるので笑う。
自分の主張が正しくないのを自覚してるし、父親らしいことできてないし、息子をずっと誉めている。怠惰な性格らしいことも描かれている。
エゴグラムでいうなら、むしろFC(自由な子供)が強そうなキャラクターだ。

でも、この父はそんなにダメな父親じゃないし、悪い父親でもない。
定職に就いてて課長職を務めてるし、息子ともよくコミュニケーションを取ってる。プレッシャーで理不尽に怒りはするけど息子の言い分も聞くし、正直息子の方が正しいことも認めている。
お父さんらしくはないかもしれないけど、それでもなんだかんだいいお父さんだ。だから、息子はそんなお父さんのことが好きなのだろう。

現実とファンタジーのふしぎな接続

コントで印象的だったのが、2人でゲームを始めるシーン。
「父さんの得意なゲームで父としての威厳を示す」ために父が提案し、息子は「1回だけやで」と端末を取り出す。

ここで、ふしぎなことが起きる。息子が端末を操作して、画面とコントローラーを現実世界に送信する。何もない空間から、物質が現れる。
その描写について特に説明はなく、2人はいつも通りの様子でゲームを始める。見ている側は一瞬「ん?」と思うが、2人があまりに自然な様子なので、そういう世界観なのかと受け入れてしまう。

今まで現実世界にいたつもりだった私たちは、いつの間にか近未来SFの世界に迷い込んでいた。

ここの描写は今までの流れからかなり飛躍しているが、「当人たちが気にも留めない当たり前のこと」と描くことで違和感なく成立していた(と思う)。ストーリーの焦点は変わらず「威厳を見せようとするお父さん」でつながっていたので、断絶を感じずスムーズに世界観を飲み込めた。
世界観の転換点を、ストーリーの転換点とはずらしてあるのが上手い。作劇の上でも非常に参考になる。

アイデンティティの危機

父は得意なゲームで息子に勝つが、全然納得しない。

「すごないわ! これが何になんねん!」
「(威厳が)秒で削れていってるわ」
「息子の勉強妨げてまで」
「もう自分が嫌いや」

厳格なお父さんらしさをアピールしようとして悪ガキみたいにゲームで喜んだり、息子にお父さんらしいことをしてやろうとして息子の勉強を妨害していたり。お父さんの行動は矛盾だらけだ。
そもそも息子のために「お父さんらしいことをしてやりたい」が動機なのに、逆に世話をしてもらってしまっている。

この父にとっては、「息子のお父さんであること」「お父さんらしい行為をしてあげること」がアイデンティティだった。
だが、もはや息子は優秀で気遣いもできる人になった。成長するにつれ父と遊ぶ機会もなくなり、父が何かを教えたり叱ったりする必要もなくなった。父は、自分の存在意義だと感じていた「お父さんらしいこと」をしてやれなくなってしまった。

父の感じる強いプレッシャーは、そして父の理不尽で矛盾だらけの怒りは、おそらくアイデンティティの危機から生じている。
単に息子が自分より優秀だからプレッシャーなのではなく、自分がもう必要ないと感じるからプレッシャーなのだ。


ここが、非常に興味深かった。ふつうアイデンティティの危機といえば思春期~青年期のイメージだと思う。だが、このコントで扱っているのは青年期の息子を持つお父さんの危機だ。

エリクソンのライフサイクル論でいえば、この父は成人期後期の課題である「世代性←→自己停滞」の拮抗に直面しているのかも。
(男性ブランコのおふたりはそんな難しいこと考えてないとは思うが)

息子の成長を見届ける

もはや息子は独り立ちができるくらいちゃんとして、だらしないお父さんがしてやれることはなくなった。息子にとってもう自分は必要ないのだと知った父は、アプリを消すように求める。

「だらしないお父さんアプリは、もうお前に必要ない」
「何言うてんねん。必要やって」

渋る息子に、父が声を荒らげる。

「消しなさい!」
「いつまでもアプリの父さんに頼ってたらあかんねん」
「ちゃんと自分の目でリアルと向き合わなあかんねん、お前にはそれができんねん!」

アプリの父が、息子に現実を突きつける。息子のためにそうすべきだと信じて。成長した我が子なら、自力で現実と向き合えると信じて。父を乗り越えてゆけと、息子を叱る。
「ようやく、父親らしく怒れた気がするわ」
初めての父親らしい怒りの内容が、自分を消すよう命じることなのは、あまりにも悲しい。でも、それが最後に息子にしてやれる、お父さんらしいことなのだ。

父の言葉を受け入れた息子は、父を抱き締める。
父は自分が消えることで、息子の成長を見届ける。
「ほら、苦しいときこそ」

ただ居るだけが要る

ラストまで見て、自分でもふしぎなくらい胸打たれていた。しばらく読後感に浸ってから、もう一度『消しなさい!』を見直した。
すると、何気なく見て楽しんでいたボケまでも、違った意味を持って見えてきた。

例えば息子の、なんか深みのありそうなそれっぽい言葉。

「父親であることがもう、既に父親らしいと思うで」

妙に格言めいた難しいことを言う高校生だが、これは紛れもない息子の本心だろう。思うに息子はただ、お父さんにいてほしかったんじゃないだろうか。「お父さんらしいこと」をしてもらおうなんて思ってはいない、ただお父さんとして存在していてほしかった。

受験に部活に忙しくなって一緒にゲームする機会がなくなっても、お父さんに頼る必要がなくなっても、自力でちゃんとできても。ただいるだけで、心強かったんじゃないかな。
欲しいものを尋ねられて「受験も近いから参考書」と答えるほど実用性と必要性を重視する息子が、ただ居るだけのお父さんを必要としていたのがもう、泣くかと思った。

でも父はアプリだから、お父さんらしくあろうとした。起動されてメモリを使用している以上、役に立とうとした。
自分が必要なくなるまで息子の成長を見守ることが、そして自分をアンインストールさせることが、アプリの存在意義だったのかもしれない。

父は、「要らなくなってもただ居る」ことを自分にも息子にも許さなかった。消えることで父らしくあろうとした。それはとても正しくて、厳格なお父さんらしくて、でもやっぱりすごく寂しい。

寂しいからこそ、こんなに胸打たれたのかもしれない。

かが屋の好きなコント31選

※本記事はnoteから移植しました


かが屋にハマりました

『終電逃しちゃった…』からハマりました。

せっかくかが屋のネタ動画を見漁っているので、備忘録として面白かったコントをまとめておきたい。ハマりたてのひよっこのうちに、新鮮な気持ちを。直接的なネタバレはなるべく避けますが、保証はできません。ご注意ください。

1.面白い男の人が好き 改

かなり好きなコント。前半と後半で空気の重さが全然違う! かが屋は雰囲気のコントロールが抜群に巧い。

賀屋さんの演じるまゆちゃんが良すぎて、ちょっと癖のあるとこまで含めて猛烈に可愛い。こんな友達がいてくれたら絶対楽しい……!

私はこのコントに「コミュニケーションを諦めない」というコンセプトを勝手に見いだし勝手に感動していた。もはや「あなたの勇気が、空気を変える。」ってACジャパンのCMになってもいいレベル。それはさすがに言いすぎか?
そして、オチがかわいい。

2.大事な話って……

ふたりの関係性が二転三転するのが面白い。こういう関係かなーと予想して見ていたら、続く展開で大きく裏切られる。その度に、これまでのやりとりってそういう意味だったのか!と驚かされる。伏線回収の快感が何度も味わえる良質な裏切り。

見え方が何度も変化するので、見たあとに頭の中で反芻したくなるコント。もう一度最初から見返したくなるコントであり、展開を知ったうえで見返したときにニヤニヤできるコントでもある。動画で上がってて、何回でも再生できるのがありがたい。

加賀さんと賀屋さんの激しい動きが新鮮。語彙があんまりない反論も含めて、思わず声出して笑ってしまう。当人はわりと本気っぽいんだけど、あんまり殴り合いとかしたことなさそうなふたりなので、ちょっと可愛く見えるんですよね。
そして、オチがかわいい。


ちなみに同タイトルの別バージョンもあるのだ。
https://youtu.be/XC6T0yu-Xb4

「同じ冒頭から違う展開に派生していくやつ」大好き。両方見比べると全く違う読後感が得られるのが楽しい。

3.シャーロンの日記

落語っぽい、いわゆる「粗忽者」な感じの登場人物が面白い。善良なんだけど軽率で、ミスを取り返そうとしてわやくちゃになっていく。加賀さん、ネタによってこんなに喋り方や雰囲気変わるのか……。
ネタは、オタクっぽい人が見れば「それな」と共感できて3割増しで面白いので、何かしらのオタクは見てください(本でもお笑いでもジャンルは問わない)。自分がうっかり者でオタク気質な人間なので、どっちのキャラの気持ちもわかる。

そしてかが屋のコントは、見えない人がそこにいるように思えてくるからすごい。ふたりの視線や表情、返答から、その向かいに座る人の影が浮かび上がってくる。賀屋さんの連れ合いがどんな表情をして何を喋っているのか、説明がないのに見えてしまう。

たぶん、観客の理解力や想像力とのキャッチボールが上手いのだ。見ていてだんだんわかる状況なら説明しない。でも置いてきぼりにしないよう、状況や展開を読み解ける要素は揃える。バランスが絶妙。

4.合コンの誘い

私がこれまでに見たネタは劇場ライブ中心だからか、お客さんの想像力を高めに見積もったコントが多い気がした。

例えば『合コンの誘い』。
かなり会話が進むまで、何の話題か直接的なワードが出てこない。観客側があるあるを想像して初めて理解できる。ただし後のほうにキーワードを入れることで、答えにたどり着かなかった人にも上手くフォローを入れている。

わざわざライブを観にきたり、ネタ動画を探したりするお客さんを信じてるからこそ、この構成にできるんだと思う。お客さんもちゃんと早めの、たぶん狙い通りのタイミングでウケてるのですごい。TVで披露するネタだと時間の制約もあるし、またチョイスが違うのかもなーと思った。

5.数学の授業

加賀さんが男子中学生、賀屋さんが数学の先生。コントとしてもちろん面白いし、ほぼ賀屋さんしか喋ってないのに生徒たちの性格まで見えてくる凄い完成度。

しかもこの先生、教師として優れてる! 生徒まんべんなく当ててるし、不正解も「製作者がしてほしい間違い方、つまり考え方は合ってる」とフォローするし、さっき不正解だった子に再度チャンスをあげてる。
生徒みんなに目を配って、生徒の行動や反応をよく見ている。生徒がどこまで辿り着いて、どこにつまずいてるかを把握してるから、的確なヒントを出せる。
思春期の中学生に恥をかかせないことの重要性を理解しているし、的確なリアクションでよいフィードバックを与えている。生徒は安心感を得られそう。
だからこそ「たぶん数学があまり得意じゃない生徒でも、積極的に挙手する」という状況が自然に感じられる。技量の演出が、設定に説得力を持たせている。

6.合唱

この空気めっちゃわかる……。ちゃんとやり過ぎて裏目に出てる人、誰でも一度は見たことあるのでは? 中学生ってなぜか、斜に構えてる方がかっこよくて真面目にやってる方がダサい的なノリだったよな。

恥ずかしくていたたまれない感じで進むかと思いきや、展開は予想外の方向に! コントなのに思いっきり心揺さぶってくるところが好き。

7.文化祭

情動の描き方が本当に見事。加賀がなぜ悲しそうな顔をしているのか、一切説明はないんだけどちゃんとわかってくる。
孤独と不安におびやかされてる間は他のこと目に入らなかったのが、安心を得た瞬間周りがよく見えるようになる。なんならふざける余裕も出てくる。めっちゃわかるなその情動。
感情の移ろいのコアを捉えてわかりやすく表現しているから、リアリティとコミカルさが両立してる。

あと賀屋がめっちゃいい子……クラスの空気とかひとりひとりの性格をよくわかってて、さりげなーく上手くいくようサポートしてくれる人。絶対加賀の親友じゃん……。このタイプがクラスにひとりいると、クラスの空気がめちゃめちゃ良くなるよね。

 
かが屋の学校ネタ、思春期の学生たちの「恥ずかしい思いをしたくない(でも、それは大人から見るとほほえましい)」がベースにあるのかな。
だからこそリアリティがあるし、見ていてちょっと懐かしくなる。現役の中高生が見てもあーわかるって思うんじゃないだろうか。

8.プレゼントの話

隣の席の2人組が、プレゼントの話をしている。イヤホンの音量をさりげなくめっちゃ下げるとこ大好き。現代の聞き耳の立て方って確かにそれだ……

そして加賀さんのキャラが良い。困惑してるのかと思いきや、案外はっきりダメなことはダメって言う。たぶんこの人お人好しなんだろうな……。賀屋さんほぼそのままなのに、動作と喋り方で大人の女性に見えるのですごい。
「そんな展開になる?」って意外さを、細かい描写のリアリティがうまいこと「ありそう」なラインにしている。

9.喫茶店 (2018.7ver)

これは自分も経験あるやつだ。押しボタンが席にないタイプの飲食店あるある。調子のいい店員さんが他のお客さんと喋ってたりすると、なおさら呼べないよね。
このなんとも言えないオチが好き。いろいろな感情がこもっている。

10.定食屋

アド街を見た」から始まるコント。始まりの設定自体はよくあるものかもしれないけど、展開はかが屋ならではだと思う。誰にも何の悪意もない、むしろ善良だったり親切だったりするのに、何事もままならない感じが良い。

途中の流れがめちゃめちゃ切なくて笑った。好き……。登場人物は「そりゃそうするよな」と思えるような理に適った行動を取ってるのに、勘違いや認識のずれのせいで切なくて笑える展開になっていく。

11.ガム踏んだ

この、全然争いたくはないのに引くに引けなくなっちゃった感、傍で見てるとニヤニヤしてしまう。これがニューヨーク(お笑いコンビ)なら最終的に人死にが出るやつだ。
そんな中で、加賀さんのアンガーマネジメントはさすが。一歩引いて冷静に状況を見直してみたり、「絶対いい一日を過ごす」と宣言したり。見習いたい。

かが屋のコントって、見てると人間関係の勉強になりそうなレベルのが多々ある。『終電逃しちゃった…』しかり『面白い男の子が好き』しかり。
コミュニケーションが上手い人、というかコミュニケーションを諦めない人が出てくるコントが多いからかな。彼女ら・彼らは辛抱強くやりとりすることで、場の空気を変えてみせる。ささやかな勇者だ。

12.しりとり

誰も何も悪くないのになんかよくわからないことになる」という物悲しさを書かせたらトップクラスの芸人、かが屋。慣れてないのにひねったことしすぎて、双方「?」ってなっちゃうのがかわいい。

13.友との別れ

友達が上京してしまうのが主題なんだけど、冒頭の「ビネガーじゃねえ」が独特すぎてずっと頭から離れない。
加賀さんの役、こういう対応の仕方しちゃう気持ちなんとなくわかるな……。照れ隠しってよく言うけど、人間はそれ以外の気持ちを隠すためにもふざけることがある。

友人への見栄や意地が素直な寂しさの表現を邪魔するんだけど、最終的にはそんなものより友達が大事なんだと伝わる。これもコミュニケーションを諦めなかったから、最後の展開にたどり着けたんだな。

15.イヤホン

2人のやりとりがめちゃめちゃ良い。賀屋さんの張り切り方も、加賀さんの口悪いけど親友大好きなところもかわいらしい。絶対仲良いよこの2人。
オチも良いよね……大変良いものを見た。

『友との別れ』で勝手に上京を決められたのが許せなくて寂しくて、つい過剰にからかってしまうのとか、『イヤホン』で賀屋さんが感傷的なことを言うと「キモい」と返してしまうのとか、加賀さん演じる男子のホモソーシャルっぽいノリがリアルだ。感情や感傷を表に出すのが恥ずかしいから、泣くのは格好悪いと思ってしまうから、「寂しい」って素直に言えないんだよね……。

そんな人が、ありのままの感情をあらわにするシーンにジンとくる。自分がダサく見えるかどうかよりも、相手に思いを伝えたい気持ちが上回ったのだ。「男だから」とか「格好悪い」とかそういう気持ちを乗り越えて、生身の心で、友達のために泣く。寂しい気持ちを相手に打ち明ける。ともに感傷にひたる。
相手にほんものの感情を共有できてほんとによかったね……って、見ていてやわらかい気持ちになってくる。

かが屋のネタは、登場人物の関係性が素晴らしいものが多いなーと思いました。

16.今から家行っていい?

とにかくスマブラをやりたい2人。裏事情を全然隠せてない加賀さんと、そのとばっちりで切ない目に遭い続ける賀屋さんが面白い。
加賀さんは賀屋さんのこと純粋に友達だと思ってるけど、電話の向こうにはそうじゃない人もいる……という構図が良い味である。

17.ポテトチップ

深刻な場面なのにお菓子が気になっちゃって仕方ないこと、確かにある。
そういえば自分も、真剣な会議の場でお菓子用意されてると「これどのタイミングで食べていいんだろう……?」ってめっちゃ考えてしまう。

18.大富豪

賀屋さんの優しい「鍵とかは締めんよ」が好きです。心がきゅんとする。
初めての彼女ができて調子乗りすぎるというあるあるを、こんな温かい、心打つコントに仕立てられるセンスに脱帽。

そして、友達同士の関係性の違いを描いてるところが興味深い。この人たちには人間関係が表面的で一辺倒なものじゃなく、繊細で復層的なものとして認識されているんだろう。
最近できた友達とどれだけ仲良くても、昔からの友達とはまた違うものね。

19.兄の秘密

こちらは兄弟の話。中高生~! 思春期~! なつかしい青臭さだ。そしてオチの賀屋さんのリアクションが良い。かなりかわいい。
~amazing kawaii brothers~

20.呼ばれ方

これめちゃめちゃ良かった……

未来の「呼ばれ方」を相談する2人。ハッピーで安心できて優しい世界で、見ていてあたたかい気持ちになる。2人の関係性がとても良いし、これからもっと幸せになっていくんだろうな。

台詞にも好きなものがたくさんあった。
珍しく(?)加賀さんも賀屋さんも地元の言葉を使っているのだけど、とても効果的だと思う。生身の言葉を使うことで、自然体でほんわかした空気が生まれていた。
観て絶対に損はしないので、優しい気持ちになるコントが好きならぜひ観てください。

21.バイトのシフト

これは良質な切なさと愛おしさ……
賀屋さんの喋り方や動作を見てると、なぜ加賀さんがみきちゃんを好きになったのかなんとなくわかるし、加賀さんの表情を見てると、どれほどみきちゃんを好きなのか、一緒にいられて嬉しいのかわかる。
具体的な言葉はない。でも期待を持たせる言い回しとかわいい喋り方で、あるいは豊かに変化する表情とそわそわした動作で、2人の性格と関係性がどんどん見えてくる。

そして、コンビニの什器の位置を完璧に把握してるのが何気にすごい。ここに時計があり、タバコの棚があり、食品用のショーケースがあり……と配置がだんだん見えてきて、想像上のコンビニが強度を増していく。
コンビニならではの設備を活かして笑いを取る、しかも全てマイムで設備は実在しない。そう考えると、かなり特別なことをやってる。お客さんの想像力を信じてるからこそできるネタだと思う。

何より好きなのはラスト。みきちゃんの何気ない言葉が加賀さんに刺さりまくるのがすごく良かった。オチの台詞の良質な切なさ……。

しかも何気に「向こうから告白されて」って打ち明けられてるのもつらいな……、これ「自分が勇気を出していれば、その座に自分がいたかもしれない」って事実を突き付けられてるってことでしょう。
あり得たかもしれない(訪れなかった)幸せを見せつけられてる男、最高に不憫でかわいい。好き……

22.自転車

シンプルな理由でこの場に巻き込まれた加賀さんの、なすすべの無さが面白い。こんなことになっちゃったら、もうそわそわしながら待つしかないよね。
賀屋さんを憐れんだせいで図々しめのお願いをされる加賀さん、まさに「庇を貸して母屋を取られる」お手本のようだ。
にしても誰かに・何かに巻き込まれてるときの加賀さんって、最高に輝いてるな。

23.電車にて

前半と後半における賀屋さんの態度、ギャップがえぐい。どっちにしろ「電車にいるヤバイ奴」には変わりないのに、ヤバさのニュアンスがめまぐるしく自在に移り変わっていく。演出うまいなあ……
しかもこのコントの賀屋さん、無表情になると本当に「そういうご職業の方」にちゃんと見えてくるのですごい。髪型と表情(と襟つきシャツ)だけでこんなにイメージ激変するものなのか……

途中の賀屋さんの「無」な感じもまたヤバい。冷静で常識的っぽい話し方なのに内容ひとつも筋通ってないところとか、喋ってるうちに勝手にオーバーヒートするところとか、制御できないヤバさだ。
そしてやっぱり、いやおうなく巻き込まれた加賀さんは光ってた。

24.待ち合わせ

こんな色んな要素が複合的に組み合わさったコント、どうやって思いつくんだ。どうやって作ったんだ。ワンアイデアでボケを変えていくのではなく、「笑いのコアとなるアイデア」自体が変遷していくところがすごい。
これたぶん、コンビふたりで話し合いながらネタ作ってるんじゃないかな。ひとりで台本書く方式ではこうならない気がする。いまの自分には到底作れない、というか真似することもできない形式のコントで嫉妬すら覚えた。


賀屋さんって、いわゆる「恋に恋する男性」を演じるのが上手い。キングオブコントのネタでもそうだったと思う。相手を好きすぎて周りが見えてない演技や、感情が昂って突っ走っちゃう演技が上手いからだろうか。
一方で加賀さんの演じる恋する男性は、「相手のことが好きだ、相手と一緒にいる時間が楽しい」という純粋な気持ちをベースに動いているように思われる。(ただし『大富豪』はわりと恋に恋してる感じだった)

同じ「恋する男性」でも、2人の生み出す人物像が全く違うのが面白い。かが屋のコントはあの配役だからこそ成り立っていて、2人の役を入れ替えたら別物のネタになってしまうだろう。その代替不可能性が、お笑いコンビによるコントの最大の特徴であり、長所だと思った。

25.シャンプー

先輩に向かってギリギリ許される悪口のボーダーラインを探るところが面白い。自分の例や比喩を駆使しながらうまいこと断ろうとするのだが、言葉のチョイスが絶妙に失礼で笑ってしまう。

先輩後輩の関係性がよくわかる。正面きっていじれるほど気さくな先輩ではないが、一緒にドラッグストアに行くくらい仲は良く、やんわり逆らえるくらいには言い分を聞いてくれる先輩なんだろうな。そしてたぶんこの人、後輩からほんのり舐められてるんだろうな。

26.遅刻

こちらは『シャンプー』と先輩後輩が逆。観客は全てを知った上で、この気まずさを俯瞰でニヤニヤ眺められる。
実際自分にこの状況が起こったら、楽しめるか引いちゃうかは人によって分かれそう。そう考えると、このコントの加賀さんはめちゃくちゃ良い先輩だな。

そして賀屋さんのヤバイ奴っぷりがとことん振り切れてて面白い。

27.お化け屋敷のバイト

正確に言えば雇い主とバイト。この2人の、なんともいえない力関係が面白い。
「週6~7で入ってくれるバイト」が相手だと確かにそうなるか……。雇い主側の葛藤を描いてるところが好きだ。
やんわりバイトを導こうとする気遣いの賀屋さん、加賀さんの「自分が出してると思ってたのと全然違う」あるある、ぽろっと漏れてしまう雇い主の本音。

これクレームが入るまでは施設サイド誰も気づいてなかったんだな……と思いつつ、お化け屋敷に入った客の気持ちを想像してみると笑えてくる。
「なんか今かわいいやついたぞ!?」


コントに出ない場面にまで想像を膨らませていけるのが、かが屋のコントの良さかもしれない。関係性の強度のおかげだ。

28.なんで?

別名「年金を払っていない女」。設定がパワフルすぎる。
カップルの間に突然「現実」が割り込んでくるインパクトがすごい。どれだけメルヘンに取り繕ったとしても、現実の重力からは逃れられない。将来の不安も年金未払いも消えてはくれない。(年金はたまに消えるけど……)

みきぴょんの「返ってくる保証なんてどこにもない」「80歳まで引き上げになるかもしれない」などの叫びは強烈で面白いけど、そこには生身の20代としての不安も反映されてる気がする。
対する彼氏の反論も「でもおじいちゃんおばあちゃんはそれで暮らしてる」といった方向。
ほんとは2人とも、年金制度を信じてないのがめちゃくちゃ生々しい。返ってこないかもと思いながら年金払っている20代、現実でも過半数じゃないだろうか……。

コントはコンプラ的に当然「年金を払うと決意する」流れになるのだけど、その論拠がわりとアクロバティック。よく考えたら、最後まで年金制度そのものに対する不信・不安は全く解消されてないのだ。でもこれは風刺の意図でやってるんじゃなくて、若者の価値観をナチュラルに反映した結果かもしれない。

ゴールが「根本的な不安は何も解消されてないけど、2人が話し合った結果みきぴょんが納得する」なのが面白い。どうにもならないことに折り合いつけなきゃいけないときって、確かによくあるよね……

29.シューティングゲーム

※現在は動画非公開
「2人がシューティングゲームをしてる」ことだけがわかっているスタートから、だんだん詳しい状況が判明していく。2人の関係性がわかってから改めて見ると、確かにそうだ……と思わされるゲーム中の細かい伏線。

この2人の関係の不安定さ、すごく印象に残った。一見何の問題もない順調な生活のようで、2人は常に不安を抱いたまま生きている。
「今はなんとか上手くいっているけど、ひとつのきっかけで何もかも喪うかもしれない」緊張感がずっとつきまとう。2人には、セーフティネットがないのだ。

そんな綱渡りみたいな生活に消耗して、いっそのこと日常よ崩れてしまえと思う臆病な切迫感も胸に刺さった。
この描き方、やっぱりすごいな……。2人のあいだの関係性だけじゃなく、2人と周囲(社会)の関係性も視野に入れて作ってるところ。

あと全然話変わるけど、めちゃめちゃ腰引けてる方が案外強いの笑ってしまう。

30.演技指導

コントの中で芝居をする、二重構造のコント。俳優と演出家。

わけわかんない設定だけどどっかの劇団では確実にやってそうなシーン、絶妙に既視感のある詰め方など、「見たことないけど、ありそう」の表現が上手い。
演出家は精神論に終始するかと思いきや、意外に演出方針が的確。ブレイクスルーのヒントも出すし、役者が要求に応えれば高く評価する。罵倒一辺倒じゃないのがリアル。この演出家、変にカリスマ性ありそう。

そして賀屋さんの演技がひたすらにヤバイ。演出をつけられるたび、どんどんヤバさを増していく。振り切れてるなあ。
シーンを繰り返すたび、じわじわと現実と虚構の境界線がぼやけていく感じにぞわぞわした。見ていて不安になってくる、この独特な視聴感が良い。

31.外では言えないこと

メタ的な発想のコント。お笑いコンビだからこそできるやつ。

しつこく「外では言えないこと」を話そうとする加賀さん、やめようとなだめるものの実は同感な(むしろ加賀さん以上に熱い)賀屋さん、両方かわいい。
加賀さんが熱く語ってたのは不安の裏返しだったのか、賀屋さんのフォローで安心した瞬間正気に戻るところが好きだ。

おわりに

以上で「かが屋で好きなコント」紹介を締めます。最後までお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。

やっぱりかが屋のコント、大好きだ。

かが屋の『終電逃しちゃった…』、または逃げ恥の魅力

最近、マセキ芸能社YouTubeかが屋(お笑いコンビ)のコントを観るのにハマってます。

10本くらい見たけど、今のところ全部面白い。
2人の自然なやりとり、その中で起こる感情の動きが面白くて、つい夢中になる。


特に、『終電逃しちゃった…』が良すぎたので語らせてほしい。
以下、たぶんめちゃめちゃネタバレするので先に動画を観てほしいです。


かが屋の『終電逃しちゃった…』が良すぎる

説明台詞が無いのに状況がすんなりわかる

冒頭。
「んー、『かまれる』かな」
「え? 『さされる』じゃなくて?」

たったこれだけで、2人が他愛もない話をする間柄であること、出身が全く違うこと、親しくなってそれほど長くないことがわかる。

短いやりとりの中に、拾い出せる情報がたくさん込められている。なのにわざとらしくなく、何気ない。

観客への説明に聞こえてしまうフレーズがなく、あくまでも2人のコミュニケーションのために、言葉が交わされていく感じ。

雰囲気や声のトーンを変えるのが上手い

冒頭のゆるやかでほんわかした方言トークは、加賀(黒い服の方)の「時間大丈夫?」のひとことをきっかけに中断される。

賀屋(白い服の方。役名は『まなみちゃん』)は緊張した顔でうつむき、間を置いてから切り出す。
「実は、さっき終電、行っちゃったんだよね」

ここでの空気感の変化、賀屋の声のトーンの切り替えがすごい。
穏やかな反面お互い一歩踏み込めなかったゆるいコミュニケーションから、お互いの本心を探りあう緊迫した雰囲気に。

たぶんかが屋は2人とも、観察力と再現力に優れている。
人のしぐさや話し方、シチュエーションによる表情や声音の違いを的確に表現してくれる。

だから説明がなくても、2人のあいだで何が起きているかちゃんと伝わる。
アンビバレントな感情までちゃんと見えて、やりとりに温度が出る。

賀屋の「(加賀くんが)私と同じこと考えてたらなあ」の部分がすごく良かった。
寂しいときに寂しそうな声を出すのではなく、努めて明るい声をつくる。そのほうがかえって、無理して寂しさを隠していることが伝わる。

コミュニケーションを大切に描く

かが屋のコントで一番好きなところは、コミュニケーションや人の感情を、とても丁寧に精密に表現しているところ。

説明台詞は極力削るスタンスのコント師だが、コント中の登場人物たちは言葉によるコミュニケーションを怠らない。

気持ちを言葉にし、嬉しさも怒りも気遣いながら伝え、やりとりの中で相手の気持ちや互いの距離感を推し量る。


この、手触りを感じるくらい密な関係性が、「興奮して鼻血を出す」ベタな展開に爆発力を持たせている。

朴訥として鈍そうな加賀だが、傷ついた表情の賀屋を見て、思いきって本心を切り出す。
「大切に思っています」
「大切に育んでいこうと思っていたのに鼻血が出てしまった。誤解されるかもしれないけど、そんなつもりはないです」

矛盾する理性と欲求を、格好悪い本音をさらけ出して。
賀屋の気持ちが嬉しかったことも、興奮したことも、これからを長い目で考えていることも、なのに鼻血が出てしまったことも、包み隠さず。

拒否したわけではなく、好きだからこそだと伝えるために。格好つけることより、伝えることの方を優先して。
そんなんめっちゃ、LOVEやん……


最初はあえて核心を言わないでいた賀屋も、加賀の言葉を受けて、気持ちを明かし始める。

自分の意思を言葉で表現して相手に伝えるのは、本来とても労力のいる行為だ。2人は相手のためなら、その労力をいとわない。
そこがきちんと描かれているからこそ、お互いが抱く感情が観客にも伝わる。

だから「鼻血出してくれて嬉しい」なる特殊な感情の動きでも、なぜかわりとスッと受け入れられる。
「加賀くんの人柄が全部わかった気がする」「すごく安心する」という賀屋の言葉に共感できる。


かが屋のコントの、コミュニケーションを諦めないところが好きだ。

ずっと決心が揺らいでる感じ

かが屋は相反する感情の同居を描くのも上手い。

賀屋に「学んで」と言うときの、加賀の嬉しそうな顔!
言ってくれて嬉しいけど、これ以上言われたらかなわない。


「ど、どうする? もう一軒どっか行ったりする? ……嘘! タクシー代出す」
ここの決意のぐらぐら度合いも、格好悪くてリアルで良かった。

大切にしたい、なのに期待しちゃう、もっと一緒にいたい、でもはっきり誘えない、いややっぱり大切に関係を育みたい……
色んな気持ちが絡まりあう。確かに人間の感情って、一度にひとつではない。


他にも、もしものことを考えてお金をけっこう多めにおろしてきたとか、細かい行動のアンビバレントが面白かった。

報連相しっかりしてる恋愛

恋愛もののマンガやドラマを観てると、「あんたら報連相しっかりしてたらそんなすれ違い起こらんかったやろ」と思ってしまう癖がある。

そんなこと言ったら元も子もないけど。
恋する人が簡単には気持ちを伝えられないのもよくわかっているけど。

とかく恋愛ものには、言葉が足りないゆえの問題が起こりがち。
むしろ恋愛ものを魅力的に描くには、言葉が十分すぎてはいけないのか?と思っていた。


『終電逃しちゃった…』はそんな思い込みを裏切ってくれた。

2人はめちゃめちゃ綿密に気持ちを伝え合っているのに、恋のもだもだ感は全く損なわれていない。だからニヤニヤしながら観てしまう。


特に、
「あ、そうか。好きです」
「……言わずもがなです」
このやりとりがすごく刺さった。

伝える順番もムードもしっちゃかめっちゃかで格好悪くて、でも相手を尊重する心、気持ちをきちんと伝える決意だけは揺るぎない。加賀の演じるキャラクターに、不思議と惹き付けられていく。

対する賀屋の返答が、「私も好きです」ではなく「言わずもがな」なのが良い。甘すぎないし、このキャラクターならそう言うだろうな、と思う。


あとなぜか、賀屋がめちゃめちゃ可愛く見えてくる。
女性装もメイクもしていない、長髪を結んだだけの姿なのに、コントを観てるとだんだん可愛く見えてくるのがすごい。

 

たぶん私は、報連相がめちゃめちゃしっかりしてる恋愛ものが好きなのだ。
ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』にハマって毎週録画して観てたし、年末の一斉放送も見た。

お笑いと社会派恋愛ドラマで全くジャンルが違うけど、かが屋のコントと『逃げ恥』は通じるところがある気がした。

『逃げ恥』を好きなら騙されたと思って、一度かが屋のコントを観てほしい。単純に笑えるし。YouTubeでコントが無料で観られるので……


かが屋の再生リスト(マセキ芸能社)
https://www.youtube.com/playlist?list=PLlxhsVYSJyr2RK3nEqWpPOlMQzBw32lcu

かが屋公式チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCW3V11YgOJ0mz886m0lrXCw/feed

うるとらブギーズ『迷子センター』こんなん絶対笑う

YouTube、お笑いライブの公式動画がいくらでも出てくるので最高。無限に時間をつぶせる。芸人さんに広告費も入る。Win-Winだ。

面白いネタやチャンネルがたくさんあるので、ちょっと紹介させてほしい。


うるとらブギーズチャンネル

うるとらブギーズは、キングオブコント2019で準優勝した実力派芸人コンビ。
調べてみたら吉本所属でオリエンタルラジオと同期らしい。意外。なんか勝手に吉本っぽくないと思ってたし、オリエンタルラジオより先輩だと思ってた。

中でも『催眠術』はキングオブコントで披露されたので、見たことあるお笑いファンも多いのでは。

単純に笑える上に、見たことないギミックが出てくる。そんな設定どうやって思いついたの!?と思うのにすんなり状況がつかめる。絶妙。

個人的にめちゃめちゃ笑ったのが、『迷子センター』。

これはなんていうか、言葉では説明しようのないやつなのでぜひ観てほしい。5分くらいのネタ。

特殊なギミックとかはないけど、ひたすら笑える。純粋に、ただただ笑える。たぶんいつ観ても面白い。
迷子の父親(佐々木さん)の言動の迫力よ。
真剣な場面で思わず笑っちゃう感じもめちゃめちゃわかる。

『催眠術』にせよ『迷子センター』にせよ、ちょっと変わった人が真剣に生きてて、結果なぜか面白くなっちゃう感じの表現が上手い。

たぶん本人は真面目にやっているんだろうな、と思わせつつ、突拍子もない展開にどんどん進んでいく。

設定はわりと変でバカバカしいのに、人物としてはものすごくいそうなのが良い。子供とはぐれて焦るお父さん、みんな多少はああいうテンションになるのではなかろうか……

クイズの魅力って何だ? 初心者が本気で考えてみた

布教のうますぎる友人の影響で、最近QuizKnockの動画をよく見ている。
そしてQuizKnockの影響で、早押しクイズアプリ『みんなで早押しクイズ』を始めた。

そう、私は人の影響をべらぼうに受けやすい女……
まあそのおかげで色んな楽しみに出会えたからいっか! そういうことにしとこう。

というわけで(というわけで??)
最近クイズに絶賛ハマり中なのである。


クイズの魅力って何だ?


そして、自分は好きなものを詳しく分析して長文を書きたがる厄介なオタクである。
これはたぶん生まれ持った性質で、好きになる対象にかかわらず発動してしまう。

ポケモンでいうと、
好きになる対象=覚えるわざ
「好き」のあり方=とくせい
みたいなもので、覚えるわざは変えることができても、自分のとくせいは変えることができない。

そしてとくせいはオタクのプレイスタイルに大きな影響を与える。

そう、人の影響を受けやすい私はさながら、だいたいのわざマシンでわざを覚えさせることができるタイプのポケモン……
こう例えると案外使い勝手良さそうに聞こえていいな。物は言い様。

でもそいつ、ひでんわざをいっぱい覚えさせる要員にされそうな気がする……フラッシュ・いわくだき・いあいぎり・かいりき……(世代がバレる)


話がそれたので戻そう。

私は好きなものを分析して長文を書きたがるオタクなので、
以下「クイズの魅力とは何か?」を分析してあほみたいな長文を書きます。(宣言)

あほみたいな長文は、「あほみたいに長い」かつ「あほみたいな文章」を指すダブルミーニングである。


これまでのあらすじ(つまりカニのスペック)

カニです。最近クイズアプリの『みんなで早押しクイズ』(通称みんはや)にはまっています。
最近一瞬だけSランクになり、すぐにボコボコにされてAランクに戻される。クイズ力のレベルはだいたいそんな感じ。

『みんはや』の競技性については短い文章を以前書いていますので、ご興味があれば見て!
みんはやSランクの壁|カニ@蟹を茹でる|note

学校の勉強は一応真面目にやってきた方だと思います(国立大学の文学部卒)。でも競技クイズは全くの未経験。



こんな奴がクイズの魅力なんか語っていいのか?
ガチクイズプレイヤーとか、QuizKnockの大ファンとかに怒られないか?

私が考え付いて言葉にできる魅力なんて、クイズ沼の住人がとっくに気づいて語り尽くしてるんじゃないか?
もちろんそれは考えた。



でも、おこがましくも私はクイズの魅力を書きたい。

なぜなら自分もオリラジ沼で、「いま、『オリラジ沼に新しくハマった人の感想』をいただきました! こんなんいくらあってもいいですからね(ほんとにいくらあってもいい)」をたくさん経験してきたから。

沼に落ちたての人間のフレッシュなパワーからしか摂取できない栄養素があるのだ……

ハマりたての未熟者の感想やけど、少しでも「ハマりたての未熟者ならではのフレッシュな熱意と、これからクイズを知っていけることの喜び」が伝わる文章を書けたらいいな。

以下、クイズが与えてくれる快楽の要因を、3つの観点から考えてみたい。


正解する気持ちよさ!

クイズで一番嬉しいのって、やっぱり問題に答えられたときではないだろうか。
ぱっと答えがひらめいて、早押しに成功して、華麗に正解を決める快感!

その嬉しさは一方で、クイズに答えられない悔しさと表裏一体だ。

知識不足で答えがわからない。
聞いたことあるはずなのに答えが思い出せない。
答えがわかっているのに押し負ける。
早押しに成功したのに、答えを間違えてしまう。
クイズをやっていれば、どんなに強いプレーヤーでもそれらを経験することがあるだろう。

あとほんの少しで!正解にたどり着けなかった悔しさが、もっと強くなりたいという意志を育てる。


しかも、クイズにおいてはその意志が報われやすい。少しでも強くなれた!という実感が得られやすいのだ。

知識をひとつ増やしたら、答えられるクイズがこの世にひとつ増える。
解けなかったクイズを覚えたら、次に出会ったときには「解けるクイズ」になる。
手も足も出ない速さで押し負けたら、「達人はこのポイントで答えを確定するんだ!」と学べる。

もちろん元々の知識が多い人、記憶力が良い人、物事に打ち込める人の方が有利ではあるけど、そうでなくとも自分のペースでちょっとずつ力をつけていける。
一歩一歩成果を積み重ねていけて、強くなってる過程が見えやすい。だからやる気が出るし、熱中してしまう。

言うなればこの世の森羅万象を扱う進研ゼミみたいな感じ。
「あっ! この問題見たことある! わかる!」となる感覚はかなり気持ちよい。


勝利の喜びと敗北の苦さ、そして上達の実感が、私たちをクイズに駆り立てるんだと思う。
そういう意味ではソシャゲとも共通してるかもしれないな。努力と実力が重要だけど確率要素もあるし……


得意ジャンルが見事に刺さる気持ちよさ!

前項を読んだだけだと、「言うてもクイズって勉強できる人の方が強いし、もの覚え良い人じゃないと楽しくないんちゃう?」と思われたかもしれない。

でも意外とそんなことないのだ! そこがクイズの面白いところ。

というのも、クイズってジャンルがめちゃめちゃ多岐にわたる。物理学や世界史の問題も出るけど、宗教や金融、料理や文学、スポーツや芸能、果ては最近の流行まで。

だからどんなに勉強ができる人でもクイズが強い人でも対策しきれない苦手分野があるし、勉強が苦手な人でもクイズ初心者でもめちゃくちゃ強い分野があったりする。

世間で言われてる賢さだけで勝負が決まらないし、初心者がクイズ王を刺すジャイアントキリングが本気で狙える、そこが熱い!


誰にでも人より詳しい分野がひとつはあるものだ。そして、たいていの分野はクイズにされている。
例えば「競馬好きやから最近の強い馬知ってる」とか「仕事で扱ってて印刷には詳しい」とかは、特定ジャンルですごい強みになる。
自分の得意ジャンルに当たると、無双できちゃうのが気持ちよい!


しかも、クイズやってると意外な自分の強みに気づくことあるよね。

だいたいの人って自分が簡単にわかることは当たり前すぎて意識してない。そして、業界の常識はみんなも普通に知ってるもんやと思いがち。
(周囲にもっとできる人や詳しい人がいるので、自分のことはまだまだだと認識してしまう)

でもそういうのって他ジャンルの人には全然当たり前じゃなく、「すごい! 何でそんなニッチなこと知ってるん!?」と感心する内容だったりする。


ダルゴナコーヒーは常識っていうかもう古いやん、リブニットなんかファッション雑誌で絶対見るやん、と思う人がいる一方で、そんなん初耳……という人もいる。

人によっては認知的不協和や選好注視が初歩的だったり、マルコフ連鎖モンテカルロ法が常識だったりするのだ。(マルコフ連鎖モンテカルロ法のことは難しすぎて本当にわからん。わかる人すごい)

強敵相手のクイズで自分以外答えられないと、「あっこれ意外とみんな知らんねや……」と思えて新鮮である。そして嬉しい。


自分語りになってしまうが、私の場合は
『2014年には新訂10版』
日本十進分類法!」
と答えて無双したときが嬉しかった。意外と版表示だけでもわかるものだな。本が好きなので……


クイズが現実世界につながる気持ちよさ!

クイズをやってるメリットって、実はクイズをやってない間にも得られる。
というか自分的には、一番の収穫がこれだ。

クイズで得た知識に、現実世界で出会えたときの面白さ。
「あっ! クイズで言ってた◯◯ってこれのことか!」とピンとくる瞬間。いわば逆・進研ゼミである。

これがあると、普段の生活が学びの場になって俄然輝きを増す。特に散歩やお出かけがめちゃめちゃ充実する。
日常にちょっとした気づきがあるだけで、気持ちはかなり上がるものだ。


さらなるメリットもある。
クイズを始めてから、現実世界で疑問に思ったことを調べる癖がついたことだ。

パンの袋とめるプラスチックのアレの名前とか、前からあったものの呼び名が後発の影響で変わる現象(例:固定電話、第二次世界大戦)の名前とか。

今までなら見逃してたようなささやかな疑問を捕まえられるようになったし、「これクイズになりそう!」と興味を持てるようになった。


なんか、恋みたいな感じ。

好きな人がいると、普通に生きてても「あっ、あの人が好きって言ってた歌だ」「あの人と出掛けた映画館で見たな」とか「これ、あの人が好きそう。教えたら喜ぶかな」「今度一緒に行こうって誘ってみようかな」と思うものだ。

そうすると、会ってないときもちょっと幸せな気持ちになれる。
恋すると世界が輝いて見えるというのは、そういうことなんじゃないだろうか。

恋の相手がクイズだと、それが「あっ、あのクイズで言ってたやつだ」「これクイズに出そうだな」「クイズにしてみようかな」になる。



つまり、クイ研のメンバーって全員リア充なのでは……?