蟹を茹でる

カニ @uminosachi_uni の雑記ブログです。好きなもののこと何でも。

ネコはなぜこんなにかわいいのか? 『知りたい!ネコごころ』

読書記録です。

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著者はネコの心理の研究者である高木佐保さん。本書で紹介された論文で、京都大学総長賞も受賞されています。
ネコの記憶能力(エピソードを思い出すことができる!)、推理能力(ネコも物理法則を理解している?)、飼い主概念を検証するために行った心理学実験を、分かりやすく解説した本です。
心理学に興味があるネコ好きにおすすめ。

この最終章で読んだ内容が興味深かったので、読んで得た知識をまとめます。

ネコはなぜかわいいのか

ネコってなんであんなにかわいいのか。
なぜヒトはネコをあんなにかわいがるのか。

ネコ好きに聞いたら百者百様の答えがありそうな問い。著者の専門は比較認知科学なので、ネコの進化やヒトの認知に絡めて答えてくれる。

ネコは【赤ちゃんに似ている】からかわいい?

ヒトは赤ちゃん的な特徴をもつ生き物を目にすると、自動的にかわいがりたい、守りたいと思ってしまうようにできている。
(そのほうが未熟なヒトの赤ちゃんを守り育てる上で都合がよく、子孫を残す上で有利だから)

ネコのビジュアルの魅力

ネコはとにかく顔がかわいい! 大きな目、低い鼻、広い額、丸い輪郭……愛らしさをこれでもかと詰め込んでできている。
そしてこれらの愛らしい顔の特徴は、ヒトや動物の赤ちゃんに共通する特徴でもある。

参照↓
赤ちゃんがかわいいのはなぜ? | 日本心理学会

動物行動学者コンラート=ローレンツは,ヒトだけでなくイヌやトリなど多くの生物に共通する赤ちゃんの形態的・行動的特徴を調べています。
その特徴とは,「体に対する頭の大きさの割合が大きい,顔より頭蓋のほうが大きい(大きい額),目が大きく丸くて顔の中の低い位置にある,鼻と口が小さく頬がふくらんでいる,体がふっくらして手足が短くずんぐりしている,動作がぎこちない」というものです

こうして見ると、ネコの形態ってかなり赤ちゃんですね……

  • 体に対して頭が大きめ(ネコは頭が通る穴ならくぐり抜けられる)
  • 頭蓋が大きく、顔より額のほうが広い
  • 目が大きくて丸い(瞳も大きい)、顔の低い位置にある
  • 鼻と口が小さい
  • 頬がふくらんでいる

つまりネコとは、手足がシュッとしてすらっとして動作が俊敏な赤ちゃん……!? スタイリッシュ赤ちゃん……

また赤ちゃんの形態的特徴を考慮すると、太っちょネコやマンチカン(手足が短い)が「かわいい~」と言われるのも納得。
ふわふわの被毛をもつネコちゃんがあんなに魅力的なのも、癒される手触りだけでなく被毛のおかげでふっくら、手足が短く見えるからかも。

ネコの鳴き声の魅力

ネコはかわいく「ニャー」と鳴いてくれるが、実はあの声はネコ同士だと「仔ネコが母ネコの注意をひくとき」にしか発せられない特殊な鳴き声。
なので成猫が他のネコに向かって「ニャー」と鳴くことは基本的にない。ヒトの注意をひくためにあの声で鳴いている。

わざわざ人間とコミュニケーションをとるために、赤ちゃんのときに使ってた声で鳴いてくれる……そりゃかわいいに決まっている!

しかもネコの声は、ヒトの赤ちゃんの声に含まれる周波数域の発声だという。ヒトは赤ちゃんの泣き声によく気がつくようにできているので、ついついネコの鳴き声を無視できずに構ったりごはんをあげたりしてしまうのかもしれない。
ヒトのプログラムの脆弱性を突いてネコが望む行動をとらせる、なんて恐ろしい小悪魔なんだ。下僕を自称する人間がいるのも納得である。

ヒト側もネコを赤ちゃん扱いしがち?

ネコが赤ちゃんに似た振る舞いをするだけでなく、ヒトもネコを赤ちゃん扱いした行動をとりがちだ。

赤ちゃんに対応するときの発話、いわゆる赤ちゃん言葉を「対乳児発話」という。言葉づかいがやさしくなるだけでなく、声が高くなったり、抑揚が大げさになったりするあの話し方だ。
これはペットをかわいがるときの「対ペット発話」とも多くの共通点があるという。

言われてみればネコに赤ちゃん言葉で喋りかける人間、いる。「アーネコチャン! カワイイネ!」あれもネコが赤ちゃん的魅力を兼ね備えているからということか。

ネコはかわいく【進化】した?

ネコの祖先はリビアヤマネコ。中近東やアフリカ北部に生息するヤマネコで、約1万年前からヒトと共生を始め、次第に今のネコになっていったという。

顔は元々かわいかった

ネコはヒトと暮らすうちに、ヒト好みに(ヒトがかわいいと感じる姿に)進化していったのだろうか。
いや、どうも祖先種のリビアヤマネコの頃からかわいかったようだ。
リビアヤマネコ - Google 検索

リビアヤマネコの見た目はほとんどネコと同じ。オオカミとチワワやダックスフントで見た目がまるで違うのとは対照的だ。

ネコは他の家畜と違い、ヒトにとって都合のよい特性の個体を選別して繁殖させることがあまりなかったらしい。そのためネコは今でも野生の特徴を残している。
つまり、ヒトと暮らすうちにヒト好みに見た目を変えてきたわけでなく、元々かわいかった。そしてかわいいまま今に至る。

ヤマネコが(穀物の貯蔵庫を狙う)ネズミ目当てにヒトに近づいてきたとき、ヒトは「なんやあのいきもの……かわいい!」と思ったかもしれない。
ヒトのかわいがりたい欲はかなり強い。ヒトはかわいいヤマネコを追い払わなかっただけでなく、積極的に餌付けしたり庇護したりしただろう。そうしてヒトとネコの共生が始まった。

ネコの声はヤマネコの声よりかわいい

本書でネコの声に関する、ある実験が紹介されていた。
ヤマネコの「ニャー」とネコの「ニャー」、2種の鳴き声をヒトの実験参加者に聞かせて評定させたところ、ネコの「ニャー」のほうがヒトにとって心地よいことがわかった。

つまり、ネコの声はかわいく進化してきた!?

先ほども書いたとおり、ネコはヒトがあまり繁殖をコントロールしておらず、自由に子孫を残してきた。
とはいえ、ヒトはかわいい声で甘えてくるネコに弱いもの。声のかわいいネコのほうがヒトにたくさん餌をもらえ、子孫を残しやすかった可能性はある。
そうしてかわいい声のネコが生き残ってきたのかもしれない。

性格もかわいくなった(※個人差があります)

ネコと、他の家畜化されていないネコ科動物の遺伝子を比較すると、「ヒトへのなつきやすさ」に関連する特定の遺伝子変異がネコにだけ見られるという。代表的なのはオキシトシン受容遺伝子。

ネコはヒトとの共生のなかで、ヒトになつきやすく進化してきたのかもしれない。
ただし、ネコのなかにもなつきやすい遺伝子をもつネコと、もたないネコがいる*1

知らない人にもフレンドリーなネコがいるかと思えば、人見知りで飼い主だけに心を許すネコや、飼い主にも甘えないクールなネコもいる。
これはネコの遺伝子の違いと、環境や経験の違いによるもの。それぞれに個性があるのもネコの魅力のひとつだ。

ネコは【思い通りにならない】からかわいい?

ネコ好きがイヌ好きによく言うやつ第1位(独断)、「ネコは思い通りにならんからかわいいんやん!」
言うことを聞いてくれないのが逆にかわいい、そんな魅力についても考えてみよう。

ネコは「半家畜化された」動物

ネコは太古よりヒトに飼われていたものの、他の家畜と違ってあまり繁殖をコントロールされてこなかった。自由恋愛、自由繁殖。ネコは昔から自由にしてきたいきものなのだ。

そのためネコは「半家畜化された種」ともいわれ、今でも野性的な一面を残している。

自力で虫を狩るハンターの一面*2
知らない人を警戒し、安心できる場所に立てこもる臆病な一面。
人と群れず、勝手きままに行動する単独生活者の一面。

かと思えば喉をゴロゴロ鳴らしながら赤ちゃんネコのようにスリスリ甘えてくる。
そんな二面性がネコの大きな魅力だろう。

純血種のネコちゃん

しかし近年の純血種のネコでは、少し事情が違ってきている。

ネコの品種ではそれぞれ理想とされる姿(スタンダード)が決まっていて、スタンダードに近いネコはキャットショーで表彰され、箔がつく。
キャットショーでは審査員がネコの体を眺めたり触ったりして評価するため、いい評価をもらうには知らない場所で知らない人に触られても大人しくできる必要がある(威嚇してしまうと失格になるらしい)。

ブリーダーはよりスタンダードな、より望ましい個体を選んで繁殖させていく。将来的には純血種のネコは、知らない場所や人を怖がらないフレンドリーな個体ばかりになっていくかもしれない。

将来のネコのすがた

反対に、野良ネコはもっとヒトを寄せ付けない存在になる可能性がある。

近年では飼いネコは完全室内飼いが推奨されているし、責任感ある飼い主は(子供を生ませる強い意思がなければ)去勢・避妊をする。
野良ネコについても、人懐っこいネコは保護されて飼われたり、地域ネコとして去勢されたうえで見守られたりする。

すると野良ネコは、人に見つからない場所でひっそり生きていたり、捕獲用トラップにかからない警戒心の強い個体ばかりが残る。
将来的には、野良ネコはヒトを恐れ近づかない、野生動物化したいきものになっていくかもしれない。





ネコのこれまでとネコの未来を広く見渡していて、興味深い内容でした。ネコを飼ったことがあると経験と知識が結び付いてより楽しく読めると思います。

他の章も「ネコも思い出をもつのかな? 実験で検証してみよう!」
「ネコにも推理能力があるに違いない! どうすれば証明できるだろうか……」
という発端の疑問から、ネコ研究ならではの苦闘、心理学実験の考え方、今後のネコ研究の見通しまでが盛りだくさん。

『岩波科学ライブラリー』シリーズは、気鋭の研究者が執筆していながら、初心者向けで前提知識が必要ないのも嬉しいです。

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ネコの進化についてもっと知りたくなったので、次は『ネコがこんなにかわいくなった理由』を読みます。
ネコがこんなにかわいくなった理由

*1:他のネコ科動物は皆なつきやすい遺伝子をもたない

*2:ネコが獲物の虫をプレゼントしてくれるのは、親ネコが狩りの下手な仔ネコに獲物をあげる習性のためかもしれない