蟹を茹でる

カニ @uminosachi_uni の雑記ブログです。好きなもののこと何でも。

『根掘り葉掘り』ーー根のバーターとしての葉

「友達に連れてこられた場違いなひと」みたいな言葉が好き。
「仲間みたいな顔してるけど。お前にその意味ないだろ」みたいな言葉。

分かりやすく言うと、語呂合わせで無理やり付け足された言葉のことだ。



その極致といったらやはり『根掘り葉掘り』。葉は掘らないだろ。

ググったらジョジョのギアッチョもキレてたらしい。いや別に私はキレていないが……



逆に聞くけど葉を掘ったことあります?

まあ根はあるよね。野菜を収穫するにもそうだし、雑草を根っこから引き抜くにも根を掘ることはある。

茎もギリあるかもしれない。じゃがいもは茎が変化したものだし。

葉はない。


ダイコンみたいに根から直接葉が生えてるタイプならありうるか……? と思ったけど、ダイコンの葉も全然土には埋まってない。
むしろダイコンは、根がちょっと地上に出ている。こんにちは。


もしかしたらこの広い世の中、葉が変化して土中に埋まってて、掘り出して食べる野菜とかあるかもしれない。

けど、たぶん『根掘り葉掘り』って言葉を生み出した人はそこまで考えてない。



そういえば『根も葉もない』もそうだな。

根はおそらく根拠を指しているが、葉はただの語呂合わせだ。葉拠なんてないので……。

西尾維新の小説にも似たような指摘があったのを覚えている。



つまり、葉は根のバーターとして使われがちなようである。
他にも調べてみたらこんなのがありました。

・根から葉から
→全然。まったく。

・根切り葉切り
→ことごとく。根こそぎ。

・根葉に持つ
→根に持つ。

あるあるじゃなくて「ありそう」を考える

お笑いには長編落語から一発ギャグまで様々なジャンルがあるが、中でも根強い人気なのがあるあるネタだろう。


あるあるネタは短い時間で笑えるし、何も考えずに見られて小さい子からお年寄りまで楽しめる。

しかもネタがシンプルで、モノマネと違って特殊なテクニックが必要ない。
だから芸人さんのネタをマネするだけで、素人でも笑いが取れたりする。


何より共感をベースにしているのが強い。「わかる!」は社会性のある人間にとってかなりの快感なのだ。




だが、あるあるネタを自力で考えるのは意外と難しい。
技術を問われないぶん、ネタの面白さは「目のつけどころ」の鋭さで決まるからだ。

普通すぎるとあるあるじゃなくてただの日常だし、かといってひねりすぎるとピンとこない。


しかも、せっかくいいネタを見つけても、だいたいすでに先達が同じことを思い付いている。
世の中に元から『ある』ものなんだから、数多の芸人が見つけてないはずがない。

あるあるネタのフィールドは、みんなが耕しすぎて連作障害が出まくっているのだ。




ゆえに新参者にとって、あるあるネタは実り多いが修羅の道。

そこで逆に考える。

あるあるネタって、別に『ある』必要なくね?


「わかる!」の感情さえ呼び起こせるなら、実際に体験したかどうかはあんまり関係ない気がする。

つまり、『ありそう』ならなんでもOKなのでは?


ということで、ここからは全然あるあるじゃないけど『ありそう』なシチュエーションを考えていきたい。



ドッキリの『ありそう』

Zoom会議でハチャメチャに怒られが発生したあと、怒った人が立ち上がったら「ドッキリ大成功」って書かれたパンツ履いてるっていうドッキリ


見たことないけどありそう。
自画自賛ですけどめちゃくちゃありそう。

よーく探したらもうやってるYouTuberいると思う。

いなかったとしてもこれからやると思う。

いたら教えてください。「やっぱりな~!」って心の中で言いたい。



スカッと系の『ありそう』

Zoomでミュートかけて悪口言いまくるイヤミな同僚が、スピーカーオフとミュートを間違えて全部丸聞こえだったせいで粛清されるエピソード


スカッと系は『ありそう』とめちゃくちゃ相性が良い。なんなら元から半分くらいありそうな創作なんじゃないか。

時世に適したニューノーマルな懲らしめ方も当然考案されるはずなので、上に挙げたようなネタも出てくると思う。



つぶやきの『ありそう』

マスクを買いに行くために着けるマスクがない


一時期ほんとにこの状況に陥ってた人いるかも。

もしかしたら今でもネタのつもりで言ってる人いそう。*1






あるあるとは呼べないけど『ありそう』なシチュエーションをここまで考えてきたが、「わかる!」と思ってもらえただろうか。

ひとつでも共感してもらえていたら嬉しい。


あと自分でやってみてわかったのは、『ありそう』を考え出すのもけっこう難しいこと。

結局はあるあるネタを見つけ出せる鋭さがないと、良い『ありそう』もでっち上げられない感じがする。

ていうか素直にあるあるを考えた方が実りありそうです。

*1:「服を買いに行くための服がない」はTwitterにおける自虐ネタのテンプレのひとつ

Trick or Treatのはなし

Trick or Treat』

日本語で言うと『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』。

ハロウィンでお馴染みの台詞だ。おどしか?



季節の恒例行事の中では、飛び抜けて厄介な二者択一を迫ってくる台詞。

なまはげやクリスマスなど、
「悪い子のところにはなまはげが来るよ!」
「いい子にしないとサンタさん来ないよ!」
と脅しが使われる例は他にもあるだろう。

だがそういうのは大抵、大人が子どもを脅かす。



ハロウィンではその関係が逆転し、子どもが大人を脅す側にまわる。

「悪いことするとおやつあげないよ!」が、
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」に反転するのだ。

この構造の妙。



しかも「いい子にしないとサンタさん来ないよ!」は道徳的だが、

「いたずらするぞ」宣言、そこには何の正義もない。

脅してお菓子をせしめようとは、なんて野蛮なやり口。



子どもたちのそういった『ずるさ』が許容されるのが、ハロウィンの大きな魅力なのかもしれない。



だが、言われる側の大人たちは、きちんとお菓子を用意してくれていることが多い。

そのためいたずらが実行に移されることは少ない。



お菓子はもらえて、とても嬉しい。

でもいたずらはやっちゃいけない。

なるほどな、『Trick or Treat』って言ったもんな。





いや、本当にそうだろうか?

お菓子をもらいながらいたずらもしたい、そんな卑怯極まりない欲望を叶える方法があるのではないか。

ある。





それでは解説のために、以下をご覧いただこう。

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ベン図である。

高校数学の範囲なので、見覚えのある人も多いはずだ。

上記は、『Trick or Treat』(TrickまたはTreat)の関係を図解したものだ。

青い円が『Trick』の集合、
赤い円が『Treat』の集合を示す。

ふたつの円が重なる部分が『Trick and Treat』(TrickかつTreat)であり、図ではオレンジ色の部分だ。



Trick or Treat』は論理的に言えば、図で着色された全ての部分(青、赤、オレンジ)を含む。

つまり、『Trick and Treat』も包含している。

ということは、お菓子をもらった上にいたずらまでしても、論理的には矛盾していないのだ!

やったね。



面白いことに、日本語の『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』でも、お菓子をもらった上でいたずらする選択肢は否定されていない。



これまた高校数学で履修した、「pならばq」のことを思い出してほしい。

命題『お菓子をくれなかったならば、いたずらをする』が真のとき、
対偶『いたずらをしないならば、お菓子をくれた』も真である。


しかし、元の命題の逆『お菓子をくれたならば、いたずらをしない』は、必ずしも真とは限らない。*1



ゆえに、お菓子をくれたのにいたずらをしても、論理的には矛盾しないのだ!

翻って、お菓子をくれなかったのにいたずらを決行しなかった場合、矛盾が生じる。


道徳的にはお菓子もらっといていたずらする子どもの方が絶対に間違ってるが、

論理的にはお菓子をもらえなかったのにいたずらしない子どもの方が間違っていることになる。

なんか直感に反する感じで良い。



ただ論理学的な言葉使いって日常のそれとはけっこうズレてるから、
お菓子もらったのにいたずらしたら普通にめちゃくちゃ叱られると思う。

キッズのみんなは気をつけよう。

いたずらをするにしても、公序良俗の範囲内にしよう。



逆に大人の立場から言えば、『お菓子かついたずら』という事態を防ぐためには子どもに『Trick xor Treat』と宣言させるとよい。

*1:例えば『20歳未満ならばお酒を飲んではいけない』が真のとき、『20歳以上ならお酒を飲んでもよい』は必ずしも真ではない。体質の問題や医師の制限などで、お酒を飲んではいけない成人も存在しうる

いてる、見てみる、やってやる

大阪弁の『いてる/いてへん』って言い回しが好きです。


意味的には標準語の『居る/居ない』と同義なのですが、わざわざ『居る』に『いる』を重ね着してるのが面白い。
インナーのタンクトップの上にトップスのタンクトップ着てる人みたいだ。

思うに、前の『居る』は「そこに存在する」ことを表しており、
後ろの『いる』は補助動詞として「その状態が今も継続している」ことを表しているのだろう。

そこに今も存在し続けている、その状態を指す言葉が『いてる』なのだ、きっと。

『いてへん』にいたっては、『居る』に『いない』をぶつけているから面白い。打ち消しあって対消滅しそうだ。


大阪弁だけでなく、標準語にも似た構造の言い回しがある。
『見てみる』、そして『やってやる』。

一見意味が重複しているように思えるが、実際には前の『見る』『やる』と後ろの『みる』『やる』は異なる意味で使われている。

「視覚で捉える、確認する」の『見る』と、
「試しに~する」の『みる』。

「何かをする、成し遂げる」の『やる』と、
恩着せがましさを示したり、行為の覚悟を強調するときに使われる『やる』。


違う意味の言葉なんだから組み合わさっても全然おかしくないのだが、ぱっと見だと同じ言葉のように見える。
もしくは同じ言葉を続けているはずなのに、よくよく見れば全く違う。
その構造のややこしさが面白い。


その構造は、お好み焼きをおかずにご飯を食べることにも似ているかもしれない。

ある見方によればそれは「炭水化物をおかずに炭水化物を食べる」、己の尾を噛む蛇のごとき行為である。

しかし別の見方によれば「ふんわり食感とソースのしょっぱさが特徴のおかずを、もっちりとして素朴な甘みの白米と食べる」行為であり、
ふたつは全く別物なのだから、おかずとご飯の関係でも何らおかしくない。


いずれも直感的には違和感を覚えてしまうが、理屈としては通っている。


今、そんなワードの発展形として考え出したのが、
『お亡くなりにならなくなる』という言い回しである。

『ない』が2つ、『なる』が3つあるが、語が持つ機能はそれぞれ異なっている。
ゆえに、若干の違和感はあるものの、言葉として意味は通る。


ただ、これを自然に使えるシチュエーションが、「目上の人が不死身化したとき」くらいしかないのが残念なところだ。
日の目を浴びるまで、まだ数百年はかかりそうな表現である。

キングオブコント2020感想

※本記事はnoteから移植したものです



基本的に全組褒め称えます。採点とかはしません。ネタバレあります。

第一ステージ

滝音

コンビ名はタキオン(超光速の粒子)と掛かってるのだろうか? 今回初めてネタを拝見しました。

最初のやりとりで「不機嫌で無愛想だけど何杯も食べる客」と「いちいち話しかけてくれる店員」の構図でキャラクターや関係性を想像させておいて、
強いツッコミで一気に状況(大食い大会)が明らかになる展開が好きだった。
無愛想で静かな態度から、急にテンションの高いツッコミに切り替わるギャップが面白かったです。

あとは店員の熱い語りが「でも餃子に気持ちはないからどうでもいい」に終結した所と、それに対する「着地点見ながら喋って」ってツッコミも好き。


GAG

中島美嘉をあの感じで描いてくるのヤバい。

入れ替わりってかなりベタな設定だと思うけど、「本人たちは入れ替わりに気づかず、観察者だけが気づいてあたふたする」方向性はトリオならではだと思った。

最後キャラクターがごちゃごちゃになって、フルートと入れ替わったおじさんが全然音出てなかったの笑った。


ロングコートダディ

「筋肉すごいですね」「俺バカだから」のやりとりがだんだん効いてくるのが好き。
最初は全然成立してない会話に思えるし、「筋肉バカ」的な偏見の話をしてるのかと思いきや、
先輩の行動を見てると「本当にバカだからムキムキになった」という因果関係が明らかになってくる。これトリックとしてはかなり高度では?

先輩が「ABCDという順番なのは俺だってわかる!」と激昂するところや、「DがAなら良かったのにな」と呟くところもめちゃくちゃ良かった。要領の悪さの表現としてあれを思い付くのがすごい。

後輩が箱を持ち上げられないオチも、シンプルだけどうまい。先輩があの要領悪さでも働けてることに合点が行くし、バカにしてたけどあの先輩が結構凄かったとわかる。

単純な構造のネタに見えて、分析してみると結構技巧的な気がする。意外と風刺ネタとかもできるのでは?


空気階段

霊媒師自体はよくある設定。でもよく考えたら、なんで「霊媒師に再会を依頼する」とかいうほとんど誰も体験しない状況がベタなんでしょうね?

よくあるのは霊が降りてこないとか別人を降ろしちゃうとかだと思うんですが、これはラジオと混線する設定。一瞬Spotifyの広告が挟まったのかと思った
スマホよりおじさんが早いとか、断片的な会話の内容が気になるとか、長いステッカーのボケが後から回収されるとか、細かいラジオネタの使い方が上手くて面白かった。

後半の、自分の声がラジオで流れる→おじさんも共鳴する→怖くなって電話を切る、の流れもすごい。入れ替わったみたいで怖くなる若者の気持ちもわかるし、ラジオのファンなのに電話できなかったおじさんにも同情できる。
声を完全に合わせるのも相当シビアだったろうな。本番では絶対失敗できないし。


ジャルジャル

ジャルジャルのネタは、ベタなようで見たことない設定なのがすごい。ゲーム性があるというか。

売れない歌手、陳腐な歌詞、うさん臭い事務所の社長、ヤジ、演技とガチ、など要素自体は既視感があるのに、
それらが合わさった結果「鹿沼さんとしてなのかおじさんのヤジとしてなのか迷う」という独特の論点に至るのが面白い。

鹿沼さんのコンパクトな悪口3点セットとか「どうせ届けんねやろ!」って曲を知ってる人のヤジとか、細かいボケも良かった。


ザ・ギース

賞レースでハープ持ち出して弾き始めるのほんとに意味わからない。好きすぎる。
個人的には大好きな展開だしハープが弾けてこそ成立するので他の人にはできないネタだと思うが、これをキングオブコントにかけたのがすごい。

ベタな「バンドマンと元舞台俳優」に見せかけて「ハープ奏者と切り絵師」という裏切りはインパクトがあって見やすいし、2人のリアクションもはっきりしてて分かりやすかった。

ボケ自体は突然ドンキホーテのテーマ弾き始めたり小田和正のジャケ写だったり、つながりや伏線回収は意識せず、ほんとに自由にやってた印象。楽しそうな感じが好きだった。


うるとらブギーズ

陶芸の師匠が作品叩き割るベタな設定。これもなんでこんなコアな状況がベタなんでしょうね?

良い作品まで割っちゃうとか、弟子にけなされてへこむとか、展開自体も変わったものではないんだけど、うるとらブギーズがやってると雰囲気がすごく良い。

本当に楽しそうに見えるんだよな。ネタやってる2人が楽しそうなのはもちろん、コントに出てくるキャラクターたちが楽しみながら会話してる感じが伝わる。


ニッポンの社長

「ボーイミーツガールで歌を歌い出す」という構造に全振りしていく潔さ、相当な胆力の証だと思う。ボケの手数増やせないし途中で調整が利かないネタをあえてやる強さ。個人的にはかなり好きだった。

なんでケンタウロスミノタウロスがこの世に生まれたのか、なんでふたりが恋に落ちたか、なんでキスすると声が入れ替わるのか、よく考えたら何も説明されてないんだけど、
ビジュアルの強さと恋のパワーで無理やり説得してくる感じが良い。


ニューヨーク

どんどん余興の内容が大がかりになって、結婚式の趣旨から外れていき、周りの人が引いていく。シンプルだけどシンプルだからこそ力強い展開。

ボケ数は多くなくても個々のボケの絵面に力があるし、ボケもツッコミも分かりやすい。
ネタの構造とはっきりした強めのツッコミがよくマッチしてるなと思った。

ジャングルポケット
「秘密を吐かせるために子どもを引き合いに出す」という始まりこそベタなものの、そこからの展開が多彩で面白かった。

娘のことを調べすぎて父さえ知らない情報が出てくる、知らない人の不倫関係が気になる、唐突に一旦暴力に戻る、相関図に現れた謎の留学生。
それぞれ方向性の違うボケなのに、流れとしてきれいに繋がっている。

追っ手が帰ったあともこの人は「あの2人不倫してるのか……」「アンドリューって誰なんだ……」と気にしながら生活することになるんだろうな、と想像できる余韻も好きだ。

個人的には3人とも息が合ってると思えたし素直に笑えたので、設楽さんが指摘したズレは気にならなかった。むしろ客数の少ない(笑い声が小さくなりやすい)環境で、ハイテンションなネタに挑んで実際面白くてすごいと思った。
ただ、現場にいてこそ、プロだからこそわかる違和感もあるんだろうと思う。


ファイナルステージ

空気階段

恋に落ちる瞬間を描いたシンプルな構成だが、設定が定時制高校。キャラクターにあれを持ってきたのはズルい。あんなの見たことない。

高校生同士の甘酸っぱい青春を素直に描くのだが、何喋ってんのかわからない強烈なおじさんの存在で全てが違って見える。人生でそこそこ色んなことを経験してそうな女性のキャラクターも良い。

最初はおじさんのヤバさで笑わせるキワモノ系のネタかと思ったが、だんだんおじさんの礼儀正しさや愛嬌あるキャラクター、作曲を頑張る一面などが見えてきて、女性がこの人に恋した理由に納得がいき始める。

それとともに、おじさんが喋ってる台詞がだんだん『聞こえる』ようになる構成も見事。「教えなーい」とか「俺が好きなのは、お前」とか、確かに聞こえたんだよな。
最後のほうはマジでちゃんとしたラブストーリーとして成立してた。あれは本当に、恋の尊さを描いたネタなんだと思う。


ニューヨーク

髪を切りすぎて帽子を脱ぎたくない男と、帽子を脱がせて髪型を見たい男。どっちもタイミングを逃して引くに引けなくなり、帽子を脱ぐ脱がないをめぐって張り合う。

帽子を脱がずに引っ張ったために(変な髪型のハードルが上がって)余計脱げなくなる、
言い出した手前帽子を脱がせるまでは諦めない、という両者の力動は共感を誘うあるあるだが、
その緊張関係をやくざ者の命の張り合いになぞらえたのがすごい。

確かにそういう「引っ込みのつかなさ」、やくざと相性が良い。髪型が全然普通なのも良かった。


ジャルジャル

府る泥棒2人組のネタだが、全然見たことない展開をする。

空き巣やるのにタンバリンと笛を持ってきたり、金庫開けたらタンバリン2個と鈴だけが入ってる大ハズレの会社だったり、冷静に考えるとかなり不条理な状況が生じている。
にもかかわらず、なぜかすんなり飲み込めてしまう。変な状況なのに全く浮いてない。

福徳さんの役割が舞台装置めいてるところもすごく良かった。すぐ「絡まってる!」とパニックを起こしてタンバリンを鳴らし始めるけど、抱きしめたら止まる。スヌーズ機能つきの目覚まし時計だ。

やってることは単純な天丼に見えるのに、繰り返すほど的確に面白さが増していくのがすごすぎる。勘所が確実に掴まれている感じ。
これを、コロナでネタやる機会の少なかった今年に仕上げてくるのがヤバい。真性のお笑いフリーク。

最後の「自分だけでも逃げようとしたけど弟子を置いていけず、パーティー感を出しながら逃げる」ってオチがめちゃくちゃ好きだった。
あの弟子、アホやけど絶対素直でかわいいやつなので……



全組面白かったです。

『しはる』、それは万能の尊敬語

関西弁には『しはる』という言い回しがある。
動詞に接続し、動作主への尊敬を表す助動詞だ。

こいつは本当に便利な存在である。
何でもかんでも尊敬語にしてしまえる。

・見はる
・来はる
・出来はる
・togetherしはる

ルー語もたぶんいける。ルー語を尊敬語にする必要があるかはわからないが。たぶんない。



この『しはる』、関西弁では非常によく使われる。
どんな動詞も一律で尊敬語にでき、汎用性がえげつないからだ。


ふつう尊敬語には、それぞれ独自の動詞を用いなくてはならない。
「見る」なら「ご覧になる」、
「来る」なら「お越しになる、いらっしゃる」、
「知っている」なら「ご存知である」などだ。

こういった動作ごとに異なる尊敬語は、ひとつひとつ形を覚えていかなくてはならない。

しかも各動作には個別の謙譲語もあり、尊敬語とも混同しやすい。
例えば、「食べる」の尊敬語のつもりで「いただかれる」と言ってる人に出会ったことはないだろうか。
(※「いただく」は食べるの謙譲語)
そのくらい扱いが複雑で難しいのだ。


一方、『しはる』ならば話は簡単だ。
元の動詞の連用形に『~はる』を付ければいい。
しかもなぜか、五段活用なら未然形に付けてもOK。「行かはる」「行きはる」どちらでも通じる。なんで?



私はこの『しはる』を関西弁トップクラスの大発明と信じているので、何なら全国に普及すれば良いと思っている。

例えば日本語の敬称「~さん」が、その汎用性の高さゆえ英語圏にも波及したように。*1



私の『しはる』への信頼は揺るぎないものだが、とは言え同郷の関西人のひいき目、欲目が含まれているかもしれない。

そこで今回、『しはる』を他の汎用系尊敬語と戦わせてみることにする


対戦相手は東京外国語言語モジュールの日本語の項を参考に、「~れる/られる」「お~になる」の2つとした。
参考URL: http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ja/gmod/courses/c02/lesson48/step2/explanation/092.html


対戦カードをトーナメント図にしたのがこちら。

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尊敬語万能選手権(トーナメント方式)


第1試合 しはるvsれる/られる

初戦の相手は「~れる/られる」。
動詞の未然形に接続でき、動作主への尊敬を表せる。
色々な動詞と結び付けられる助動詞であり、強敵と言っていいだろう。

ファイッ


・第1セット「書く」

○書かはる
○書かれる(×書かられる)


・第2セット「起きる」

○起きはる
○起きられる(×起きれる)*2

「れる」と「られる」の正しい使い分けが必要だが、今のところ両者とも相手に劣らない汎用性を誇っている。


・第3セット「する」

○する
○される

「~れる/られる」は「する」に結び付くときのみ、例外的に「される」の形をとるので注意が必要だ。


・第4セット「できる」

○できはる
×できられる

「できる」「わかる」および可能形の動詞は、「~れる/られる」の形をとらない。
×わかられる
×食べられられる
どうやら少し差がついてきたようだ。


・第5セット「殴られた」

○殴られはった
×殴られられた

そもそも「~れる/られる」は尊敬以外に可能・受身を表すためにも使われるので、尊敬の「~れる/られる」と重複させることができない。
こんな場合でも『しはる』は問題なく使用できる。

5-3で『しはる』の勝利


第2試合 しはるvsお~になる

続いて立ちはだかるのは「お~になる」。動詞の連用形に接続する。
これも、さまざまな動詞に結び付くことができる。尊敬語万能選手権の優勝候補だ。

ファイッ


・第1セット「読む」

○読まはる
○お読みになる


・第2セット「わかる」

○わからはる
○おわかりになる

「~れる/られる」で鬼門だった「できる/わかる」も、「お~になる」の形はとることができる。ただし、動詞の可能形に付けると不自然。
○おできになる
×お会えになる


・第3セット「する」

○しはる
×おしになる

語幹が1音節の動詞の一部については、「お~になる」の形をとらない。
×お来になる
×お見になる
無理やり嵌めるとかなり不自然なのがおわかりいただける……わかってくれはると思う。


・第4セット「蹴られた」

○蹴られはった
×お蹴られになる

受身形の動詞の場合も、基本的に「お~になる」の形をとらない。
かなり戦況が明白になってきた。


・第5セット「知っている」

○知ってはる
×お知っていになる(○お知りだ)

「~ている」にほぼ無条件で接続できるのも、『しはる』ならではの強みだろう。
「お~だ」の形でなら取れるパターンもあるが、動詞によってはやや変に感じるものもある。
○変わってはる
△お変わりだ

5-2で『しはる』の勝利



これで、『しはる』の万能性を関西人以外の皆さんにも示せたのではないだろうか。
比較的フランクに、どんな場面でも使える万能の尊敬語として、『しはる』の良さを覚えてもらえたら嬉しい。


☆捕捉☆

今回は『しはる』の利点である汎用性の高さに注目してそれぞれを比較したが、汎用性の低い尊敬語が劣っているわけでは決してない。

むしろ、独自の尊敬語(ご覧になる等)は自在に使い分ければ知性をアピールできるメリットがある。また、あえて覚えるコストの高い尊敬語を使うことで尊敬の念を示しているとも考えられる。


料理で言えば『しはる』はどんな食材にも合い、誰が使っても美味しい料理ができる万能調味料。

対して様々な尊敬語を使い分けられる人は、「俺のキッチン、塩だけで15種類あるねん」と語る料理好きのようなものである。

どちらが偉いとか正義とかは無いものと考えている。



参考:
http://blog.livedoor.jp/veritedesu/archives/2010207.html
https://r.nikkei.com/article/DGXLASJB17H11_X10C15A6AA1P00?s=6

*1:英語の「Mr./Ms./Mrs./Mss.」とは異なり、日本語の「~さん」は性別・未婚既婚に関係なく使用できるため

*2:可能を表す場合は俗に使用される場合もあるが、尊敬の意ではら抜き言葉にならない

た行って仲良いのかな

た行ってメンバー同士、ちゃんと仲良くやれてるのかな? そんなことを今日は考えました。
もちろんた行というのは、「たちつてと」のた行のことです。



いやもちろん、五十音の行に仲良いも悪いもないことは百も承知。
でも五十音のうち、メンバー同士の相性が気になる行を挙げろって言われたら、強いて言えば絶対た行。

だって他の行は基本的に1種類の子音プラスあいうえおの組み合わせで成立してるのに、
た行だけ子音が3種類くらい交ざりあってるもんね。

t音……た、て、と
ch音……ち
ts音……つ



さて、この場合仲が良いのは誰と誰?

子音が同じ「た・て・と」チームか? 少数派同士のよしみで「ち&つ」のコンビが仲良かったりするのか?

あるいは隣合っていて、なおかつ画数が一画どうしの「つ&て」は割と良いバディになるかもしれない……。

熟練の関係性オタクなら、た行に無限の可能性を見い出せそうな気がしてきました。
どのコンビを推すかで良い派閥争いができそうですね。



仮にた行を5人組とすれば、この5人は元々仲の良かった3人と、それぞれ出自の異なる2人で構成されてるわけです。

単純な4対1でもなく、3対2よりも複雑な、3対1対1。この、メンバー構成の絶妙なバランス。



なんか、中学時代の部活の団体戦にこういうチームいた気がしてきた。
たぶんこの競技は5人揃わないと団体戦に出場できないんですけど、T中学校の五十音部は部員が3人しかいないんだと思うんですよ。
それで、同じく部員が1人しかいないCH中学校とTS中学校と合同チームを組むことになった。

初めはきっと、メンバー同士よそよそしい雰囲気だったと思います。所詮は人数合わせのためのかりそめのチーム、そんな意識もあったでしょう。
それでも1年間さまざまな大会で顔を合わせ、相談し合って戦略を立て、ともに戦ううち、徐々に絆が芽生えていった可能性も捨てきれません。
次年度にはそれぞれの中学校に新たなメンバーが加入し、合同チームを組む必要はなくなるかもしれない。一抹の寂しさを胸に抱きつつも、今度はライバルとして団体戦でぶつかる三者……

普段の学校生活では出会うことのない、他校の仲間という独特の関係性。
優れた創作者が真剣に描いてくれたらふつうに推せそうですねこれ。



もしくは、アイドルグループで考えてもいいかもしれない。

「一緒にデビューしよう!」と誓い合って下積みを続けてきた3人。
しかし、デビュー間近のタイミングで、事務所の社長に新メンバー加入を伝えられる!

明るい性格で天性の華がある「ち」と、クールなビジュアルと高いパフォーマンス力を持つ「つ」。
社長の強引な決定に反発するあまり、最初は新メンバーを白眼視していた3人。だが、2人の優しい気遣いやストイックな努力を目の当たりにするうちに一目置くように。

かくして名実ともにひとつの『アイドルグループ』となった5人は、そのチームワークと多様性を生かし、群雄割拠のアイドル業界で確固たる地位を確立していく……

こちらは探せばありそうですね。見たい。
そんな関係性のアイドルグループ、ご存知でしたら布教してください。



???
た行の話でしたよね???

なんで私は架空のアイドルグループの話を、あんなに熱心にしてたんでしょうか?

今となっては理由がよくわかりませんが、きっとた行は仲良くやれてるに違いありません。