本の装丁「天アンカット」がちょっと切なかった
このまえ製本所の見学をする機会をいただいて、でかい機械をいくつも通ってギュンギュン本が出来ていく様子を見せていただきました。
超楽しかったです。
そして、その流れで本の装丁に関するお話もしてもらい、これまた面白かったです。
メモとしてブログに残しておきます。
本の装丁の話
本の装丁をあまり気にしたことがなかったんですが、出版社側ではいろいろとこだわりがあるらしい。
重要視される要素はいくつかある。
ひとつは、コストと丈夫さ、本の開きやすさの釣り合いをとること。
もうひとつは、実用性と関係のないお洒落さ(ロマン)の追求。
この製本ロマンの代表格が、「天アンカット」というやつらしい。
アンカット製法とは、冊子の小口(背以外の本の側面三方)を断裁しない製法のことです。
詳しくは以下の記事がわかりやすいかと。
製本豆知識:アンカット製本とは? | 印刷通販プリントコンシェルのスタッフブログ
普通の本では、小口三方の端っこを機械で切り落とし、まっすぐにすることが多い。
そのほうが側面がなめらかに、きれいに見えるメリットがあるそう。
しかし、それをあえてせず、紙を折って製本して生じた誤差(紙同士のずれ)をそのままにするのが、アンカット製法。
そのなかでも「天アンカット」は、小口三方のうち天(本のてっぺん)だけを未断裁にする装丁を指します。
なんでそんなことするかというと、「おしゃれだから」。
ロマンですね。
どうやらヨーロッパでは、産業革命の時代から「アンカットで簡素な表紙の本を買い、読み終えたら自分好みの豪華な装丁に製本しなおして蔵書する」という文化があったらしい。
その名残で、今でも「格調高い本はアンカット」「アンカットが本の本来あるべき姿」という美学があるそうです。
「コンクリート打ちっぱなしのデザイナーズマンション」みたいな美学なのでしょう。たぶん。
そう考えるとロック。
「天アンカット」がちょっと切なかった話
そんな天アンカットなのですが、実は断裁する場合より手間がかかります。
三方をカットする本なら、紙の折り合わせが多少ずれても「まあ最後に断裁で側面きれいに整えればいいや!」である程度許されるんですけど、
アンカットとなるとその帳尻合わせができません。
なので折り合わせの段階から、紙同士がずれたりはみ出したりしないよう、細心の注意が必要。
普通の本を作るのとは、折り合わせの工程が異なってくる。
もちろんそうなると、コストも余計にかかります。
なぜ手間とコストかけてまでそんなことするかというと、「おしゃれだから」。
めちゃめちゃいじらしくないですか?
ロマンのためにひっそりと手間隙をかける。
本当はもこもこのあったかセーター着たいのに、おしゃれのために寒さ我慢して白シャツにジャケット着てる人みたいないじらしさ。
かわいい。
しかも、そんなに手間をかけておしゃれしてるのに、愛書家以外には全然気づかれてない。
いじらしい。
好きな人のためにすごく悩んで洋服選んだのに、完全にスルーされてる人くらいかわいい。
それどころか、
「本の上部だけガタガタだった。切り忘れではないか」
「製本ミスだと思うので交換してほしい」
というクレームまでくるらしいです。
Yahoo!知恵袋でもそういう質問されてる。
これは単なる製本ミス?伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』の文庫本を... - Yahoo!知恵袋
あんなに頑張ってるのに全然報われてない。
かわいい。
ダメージジーンズをおしゃれのつもりで履いていったら、「お前ズボン破れてるやん、恥ず」って友達に言われてしまった中学生くらいかわいい。
かわいいけど切ない。
皆さん、よかったらもう少しだけ、天アンカットに注目してあげてください。
そして、天がギザギザでも「そういうおしゃれしてはるんやな」と温かく受け止めて、クレーム入れるのはやめてあげてください。
天(アンカット)と地(断裁済み)の比較画像。どちらも岩波新書。
こちらが天。よく見ると確かにジャギジャギしています。
こちらは地。スパッと切ってある。
比べてみるとけっこう見た目が違います。