ハンドメイド「原価」とよく呼ばれているのは実のところ「直接材料費」でしかない
Twitterで定期的に揉めますよね、ハンドメイドの「原価」問題。
「原価安いんだから値下げして」
「原価は安いけど他にもいろいろ掛かってる、そのぶん手間賃がかかるのは当然」
の応酬。
そういえばひと昔前は、ファストフードの「原価」についてやんややんやしてた。
どうやら、両者とも「原価」を材料費の意味で使っている。
しかし実際のところ、その使い方は会計における「原価」の意味とはズレがある。
簿記をちょっと勉強したので、「原価」とは何なのか整理しておきたい。
「売上原価」とは何か?
製品をつくるための原価には、以下の3つが含まれる。
- 材料費
- 労務費
- 経費
簡単に言うと、
材料費=製品の材料や、製品をつくるのに使う道具など
労務費=製品製造や管理に関わる人の賃金・給与など
経費=それ以外で製品製造にかかる諸々の費用
そのそれぞれに、「直接費」と「間接費」の2種類がある。
各製品の原価として、直接的に消費されたとわかるものが「直接費」、
複数の製品の製造に関わっていて、特定の製品の原価に直接振り分けるのが難しいのが「間接費」。
例えば棚をつくって売るとする。
棚をつくるための板、ガラス、釘などは、「その棚をつくるためにどれだけの材料を使ったか、いくら使ったか」が明確に計算できるので直接材料費。
板を切るノコギリ、釘を打つトンカチや接着剤などは、「その棚をつくるためにどれだけ消費したか、いくらかかったか」がわかりにくい。
(この棚をつくるためにノコギリの刃が何%摩耗したか? とかいちいち計測するのは無理がある。)
なので、間接材料費。
働く人に支払う賃金・給与も同様。
製品製造をする人に支払う賃金なら、どの製品にいくらかかったか計算できる。
例えば「時給1000円の人が2人、2時間かけてクロワッサンを200個作った」なら、1000×2×2を200で割れば、1個あたりの労務費を割り出せる。
こういうのが直接労務費。
でも、オーブンや生地捏ね機を整備する人の賃金は、その方法では計算できない。
その人の仕事内容はクロワッサンともあんパンともフランスパンとも関係しているから、どのパンの原価に賃金のうちいくらを原価として振り分けるか? は全体を見据えないと計算できない。
工場の経理事務職に支払われる給与や、ボーナス、退職金などもそう。
これらは間接労務費。
経費のほとんどは間接費。
ただし、特許権使用料と外注加工賃は直接経費。
足袋Aを製造するために特殊なシルクを使用し、特殊なシルクの特許権使用料を支払う場合、もちろん足袋Aの原価になる。
足袋Aの縫製を他の工場に外注して代金を払う場合も、その代金は足袋Aの原価に含まれる。
その他、工場の運営にかかる水道光熱費や通信費、固定資産税、機械にかかるお金(減価償却費)、修繕費など、他にもいろいろある経費は全て間接経費。
「売上原価」に含まれるのは、本来この6つ。
しかし材料費以外は想像しにくいためか、一般的に「原価」というと直接材料費だけの話になりがち。
いわゆる原価厨は完全に直接材料費のことだけを指して「原価」と言っているし、
なぜかついついクリエイター側も「原価は安いけど~」と、直接材料費のことを原価と言いがちな気がする。
実際には、道具にかかる費用も人件費もその他もろもろの経費も原価に含まれるのだ。*1
ハンドメイドの場合
ハンドメイドのアクセサリーの場合、まず素材類が直接材料費になる。
ハンドメイドには道具類も必要になる。
接着剤や編み棒、ルーペやデスクライト、作業専用の椅子や机なんかが間接材料費にあたる。
楽曲作成なら楽器、機材、編集用ソフトウェアなどが間接材料費、または間接経費になる。
ハンドメイドの製造に直接かけた時間×単価が、工場でいう直接労務費にあたるだろう。
材料の調達や、製品の管理、出品・発送などにかけた時間×単価は、間接労務費と考えていいのではないか。*2
デザインを考えるための費用は実質「新製品を開発するための費用」なので、企業でいう研究開発費だろうか。これは売上原価には含まれないが、一般管理費(後述)のひとつ。*3
ハンドメイドで他の人の特許権使ってる人はあまりいない気がするが(いたらごめんなさい)、外注ならしてる人もいるかもしれない。
ちょっと違うが著作権使用料を払ってる人は、コンテンツ系のクリエイターには多いのでは。
水道光熱費、通信費、スタジオ代、場所代なども、間接経費として原価に含まれる。
副業でやってる場合だと、自宅で作業している人も多いから切り分けにくいと思うが。
こうして見ると、「原価って言ってもいろいろあるな」と思ってもらえるのではないか。思ってほしい。
原価厨におかれましては、そのへん踏まえたうえで原価のことに言及してくださるとありがたい。
クリエイターの人たちも、原価のシステムについてわかっていただいて(既に私より余程わかっている人も多いと思うが)、
直接材料費だけを「原価」って言う風習は改めていきましょう。
ちなみに「総原価」とは
上で説明したのは、売れた製品を製造するのに掛かった「売上原価」ですが、ものをつくって売るための費用は他にもあります。
それらの費用もひっくるめたものが「総原価」です。
- 売上原価
- 販売費
- 一般管理費
大きく分けるとこれらの3つ(細かく分けると項目が死ぬほどあります)。
販売費は製品を販売するのに直接かかる費用。
広告宣伝費や、販売手数料が当てはまります。営業社員の人件費もここに含まれます。
一般のハンドメイド作家さんで有料広告出してる人はそんなに多くないと思いますが、販売手数料は身近なんじゃないでしょうか。
メルカリとかラクマに納める商品売れたときのみかじめ料的なアレがそれです。
自分で販売業務や売り込みとかしてるなら、それも販売費にあたると思います。
一般管理費は、会社全体の管理活動にかかる費用。
間接部門にかかるもろもろの費用、租税公課(法人税や消費税など)や、さっき言った研究開発費も含まれます。
工場の労務費は売上原価に含まれ、営業の人件費は販売費になるのに対して、
例えば本社の人事部や総務部の人件費が一般管理費に含まれます。
売上から、この「総原価」を引いた差分が、晴れて利益となります。
めでたしめでたし。
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また、このブログはあくまで簿記を勉強している素人が書いた、簡略的な解説です。
責任はとれませんので、会計処理について知りたい方は専門家にご相談ください。