蟹を茹でる

カニ @uminosachi_uni の雑記ブログです。好きなもののこと何でも。

UberEatsで生活変わった

吸血鬼とUber Eats

「吸血鬼がこの社会に実在したら、UberEatsは彼らの暮らしにどんな影響を及ぼしたか」を延々と考えました。全部フィクションです。

吸血鬼像は『吸血鬼ドラキュラ』を参考にしています。夜な夜な人の血を吸い、にんにくや十字架を恐れ、日に当たると焼け死ぬやつです。

※追記
大幅に改稿。「正体を隠して生活してる吸血鬼の増田」という設定にしました。




Uberを使ってみて

UberEatsで食生活が変わった。
家から出ないで色んな店の料理を食える。食べたいときに食べたいものが手に入る。

日中は家に引きこもってるしかない(日を浴びたら死ぬ)吸血鬼から見たら、こんなもん革命でしかなかった。それだけ、以前の生活が不便だったともいえる。


Uber前の吸血鬼

吸血鬼が外出できるのは日が落ちてから。
自炊スキルがあるやつは昼ごはんを作ればいいが、ないやつは冷凍食品や惣菜、お弁当の買い置きに頼るほかない。
最近の冷凍食品は確かに美味しくなった。人間すごい。ありがとうニチレイ。でもどんだけ美味くても飽きるときは飽きる。

「吸血鬼がメシにこだわるなよ」そういう人間目線もあるだろう。わかる。でもいくらメインの栄養源が別にあっても、美味いもんは食いたい。できれば毎日違うものを食いたい。
舌で味わうこと、噛んで飲み込むこと、そこに生の実感がある。人間も同じはずだ。


もちろん前から、グルメに詳しいやつはお取り寄せグルメなんかを使ってた。お前もそういうの駆使しろと思うかもしれん。

だが、それらは家に届くまでに日数を要する。
注文品が届くのを、楽しみに待てる気分ならいい。

でもあなたにもあるんじゃないか?
急に「ハンバーグ食べたいな」と思うとき。お腹がすいたのに家に何も食べ物がないとき。
そういう時にお取り寄せは非力だ。いますぐ決済ボタンを押しても、お腹いっぱいになるのは半月後の自分。

というか、常に買い置きを忘れないのが無理。逆にあれできる人は何ゆえできるの? 転職の自己アピールに使えていいレベルのスキルだろ。

俺はしょっちゅうとろろ昆布食いながら日没を待ってる。とろろ昆布は好きだが、食べたなって感じはあまりしない。


じゃあ日中は寝て夜中に出かけろ? 一理ある。そういう伝統的な生活してるやつもいる。日の出とともに眠り、人々が寝静まってから起きてる。スマホ持つのも禁止らしい。娯楽何なの?

ただ、それで吸血鬼の食生活を充実させるのは厳しい。特に田舎暮らしやと無理。夜中開いてるのはコンビニだけ、むしろコンビニすら夜8時とかに閉まる。

東京に住めば楽園か、というと違う。
だって夜中に開いてる店はジャンルが限定されてる。
ラーメン好きならまあまあ楽しいと思う。東京なら、夜中や明け方まで開いてる店もそれなりにある。居酒屋やバーも。


でも、焼き芋や鯛焼きを愛する吸血鬼はどうか? パン好きは? みんながみんな脂と血の気の多いもん好きなわけではない。
無数の飲食店がある東京でさえ、真夜中にやってる焼き芋屋や鯛焼き屋はほぼない。

グーグルマップで夜間営業の店見つけて、はるばる出向いたら閉まってたとかザラ。
マップを頼りにウキウキして店についたら、シャッター降りてる虚しさよ。*1


チェーンのパン屋なら夜遅くまでやってるとこもある(ありがたい)。でも個人営業だとほぼ夕方に閉まる。
テレビや雑誌で美味そうなパン屋見つけても、自分では行けない。たとえ、遅くに開いてる店に日没後駆け込めても、お目当てのマロンクリームパンに出会えることはない。なぜならそのパンは、開店前から列に並べる人間も狙っているから……。


あと吸血鬼によっては寝過ごす。夜型の人間がいるように、朝型の吸血鬼もいる。人間の大学生が1限に出られないのと同じで、だらしない吸血鬼は夜はやくに起きられない。

0時回って目が覚めたら、テレビで話題のパン屋とか言ってられない。頼みの綱のヴィドフランスも閉まってる。
「冬は日没早いから、早起きして夜7時まで開いてる祖師ヶ谷大蔵のパン屋に行くぞ~!」と張り切ってたのに、ローソンのブランパンをかじって泣いてる。まあそれは俺がだらしないせいか。

でも、だらしない人間も昼間にうまいパン食えてるのに、だらしない吸血鬼はうまいパンを食えない。


あと最近はコロナの影響がやばい。吸血鬼は病気にならんし移さんけど、飲食店の時短営業には影響受ける。せっかく外に出れるのに、日没と午後8時の隙間みたいなタイミングでしか外食できない。困る。5~8月は特にキツい。

でも飲食店は吸血鬼の1万倍困ってるやろうな。


Uberで生活変わった

ひとことで言えば、めちゃくちゃ食生活が充実した。


いつでも家からごはんを頼める。
家にマヨネーズしかない昼下がり。誰しもあるだろう。そういうとき前の俺はマヨネーズ舐めながら水を飲んでしのいだ。
でも今はUberが来るのを待てばいい。うっかりバンパイアでもまともな食事ができる。ありがたい。
買いに行くより割高でも、外に出られない者にはほんまに便利。

あと最低注文金額がない。「どうしてもピザ食べたかったからMサイズとサイドメニューいっぱい頼んだけど、多いな……」と途方に暮れなくて済む*2


しかもこれまでの出前より、圧倒的にジャンルが幅広い。
有名チェーン店からランチ営業のみの個人店まで。
中華料理、ピザ、お寿司とかの王道だけじゃなく、ドイツ料理やエジプト料理も食える。

個人的にはスイーツの群雄割拠がやばい。クレープ、プリン、タピオカ、フルーツサンド……。こういう店はたいがい閉店早いので嬉しい。ほんで焼き芋専門店あるやん! 天才か?
都市圏に住んでたら使わない手はない。


もちろん、テレビで紹介される店みんながUberEatsやってるとは限らん。今でもまだまだ吸血鬼に手の届かない食は多い。

でもこれまでは、家から徒歩3分のカフェのチーズケーキさえ食えなかった。営業時間が11~17時という理由で。真っ暗な店の窓に張られた、美味しそうなケーキの写真を時々眺めるだけで、そこに手が届くことはなかった。

俺は先月はじめてそのケーキを食べた。Uberで。


これまで、昼間しかやってない店のメニューを食べるには「近所の友達に頼んで買ってきてもらう」くらいしかなかった。友達のいない吸血鬼は詰んでた。

コミュ強の吸血鬼さえ、そういうのはけっこう苦労してた。
吸血鬼は日が落ちてから出歩く。必然的にリアルで出会う人間は大抵夜型。それか永遠に起きて動いてるみたいなやつ。休日の日中は寝てるか出かけてるかの2択。おつかいさせるのは気がひける。

それに、自分で買いに行けないもっともらしい理由がいる。本当の理由は当然話せない。毎回風邪引いてるわけにもいかない。

家まで来てもらうのもハードル高い。窓をふさぎカーテンを閉め切り、日光を極端に遮断した我が家。人間が見たらかなり異様。
こっちは下手に詮索されたくないし、余計なことに首突っ込まれたらそいつの身も危ない。


「光線過敏症(日光アレルギー)って嘘ついたら?」と思った人間もいるかもしれないけど、それだけは絶対に嫌。
非当事者が都合良く当事者になりすますとか、下劣すぎるから。チーズケーキのために倫理観捨てたいやつおるか?

「吸血鬼だって『日光を浴びられない』困難は同じ。悪質ななりすましではないし、許される」
そう考えた人がいるなら、たぶん優しくて感情移入しやすい人だろう。


でも、彼らの苦難は吸血鬼のとは違う。そもそも人間は昼行性、夜型でも大概昼過ぎには起きてる。伝統的な吸血鬼の生活リズムには体がついていかないだろう。

何より人間社会は昼を中心にしている。役場や銀行は夕方に閉まる。学校や職場は「夜に通える」を条件に入れると著しく選択肢が減る。
家族や友人も、大概昼型の生活スタイルだろう。一緒に遊びたくても、我慢することがたくさんあるだろう。

夜中に出歩いても、気の合う夜型人間に出会えるとは限らない。ていうか危ない。犯罪被害に遭ったやつを「夜遅くに出歩くからだ」と非難する人間までいる。人間て人間の敵なんか?

吸血鬼には、夜は自由で安全な時間だ。でも人間にはそうじゃない。

昼行性なのに昼に動けない、人間なのに人間のシステムから排除されやすい。夜だって彼らには優しくない。
それはやっぱり、吸血鬼が経験しえない生きづらさだ。


その上、吸血鬼が身にしみてる食生活の不便は、大体彼らも感じてるはず。
家族におつかいを頼めても、「他人の善意に頼らないと、みんなが当たり前にやってることができない」というのは恐ろしく気が滅入る。
しかも彼らにはそれがメインの食事で、食えなければ死ぬ。吸血鬼とは真剣さが違う。

それを「チーズケーキが食べたい」が動機で詐称するのは、いくらなんでも魂の次元がショボすぎる。吸血鬼に魂があるか知らんけど。
絶対やりたくない。もし父親*3がやってたら絶縁する。

そういう意味でも、UberEatsはマジでありがたい存在。チーズケーキと倫理観を天秤にかける必要がなくなったから。




Uberの労働者として

ちゃんと金払って注文してるってことは、ちゃんと働いて金を得ている。意外やと思うけど。

というか、吸血鬼だって暮らしていくにはけっこう金がかかる。
東京23区に住むなら狭いアパートでも6万はする。できればセキュリティがしっかりしてて、隣人との交流が少ないところがいい。昼間に空き巣で窓ぶち割られたら死ぬから。

「家では寝るだけ」タイプの吸血鬼は、家賃節約のために同居しがち。ワンルームに棺が4台並ぶ光景を見たことあるけど、吸血鬼が見ても異様だった。

人間の生活にかかる費用はだいたい吸血鬼にもかかる。人間社会で生きようと思えばそうなる。
安く上がるのは食費と、医療費・保険料。吸血鬼にとって食は大事だが、生命維持には必要ない。
あと医者にはかかる必要がない。すぐ治るとすぐ死ぬの2択しかない。


吸血鬼の労働

吸血鬼が賃金を(まっとうに)得る手段は2つだ。

  • 家から出ずに働ける仕事
  • 夜勤

Webデザインや動画編集なんかができるやつは、元々フリーランス在宅ワークしてた。
そういう技術なかったり、固定収入がほしいやつは夜勤に入ってた。

短時間だけ自由な時間に働きたい、でも専門スキルがないやつには、内職かウェブライターくらいしか選択肢がなかった。


UberEatsで働く

UberEatsの労働、吸血鬼にハチャメチャ向いてた。

  • 面接がない。誰でも働ける
  • ほぼ人と関わらない
  • 都合のいい時だけ働ける
  • 通勤時間不要
  • 専門技術がいらない

特に吸血鬼に上2つは重要。面接で自分の来歴を説明しなくて済み、素性を探られることもない。複雑な手続きも厳密な契約もなく、身分証と銀行口座さえ調達できればOK。

稼働時間を選べるのも嬉しい。日没後なら屋外で活動できるから、夏は遅めに・冬は早めに働きたいし。本業をやりながらUberで働いてる吸血鬼もいる。そんなに働いて何がしたいのかは知らん。吸血鬼にも意識高い個体はいるわけだ。

「通勤時間」が存在しないのも地味に助かる。夜勤だと、勤務開始は日没後だが、仕事場へ通うには夕方に家を出ないと間に合わない……なんて理由で諦める場合もあるから。


技術や知識がいらないのも良い。極論、自転車が漕げてスマホの地図が読めて体力があれば(つまり『若い健常者なら』そこそこ誰でも)できる仕事で、ということは吸血鬼にも向いてる。




よく言われるデメリット

UberEatsでの労働には、さまざまな問題点が指摘されている。

  • 個人事業主扱いで最低賃金が保障されない
  • 天候の悪い日や夜は危険
  • 事故等を起こした際、自己責任とされる
  • 業務で怪我や病気を患っても労災がおりない
  • 働けなくなっても休業保障がない
  • 長距離を走るため、自転車だと相当な体力が必要

人間にとっては重大なリスクだろう。事故を起こせば最悪人生がめちゃくちゃになりかねないのに、まともな保障がないのだ。ちょっとした金で、あまりに大きな自己責任を負わされている。この状況は改善されるべきだと思う。
ただ、これらは吸血鬼には大した問題じゃない。


まず、吸血鬼は人間ほど生活費がかからない。究極的には家賃を払えて、家を追い出されなければ生きていける。老後も、『万一のとき』も、家族ができた場合の人生設計も、吸血鬼にはない。つまり貯蓄の必要が薄い。ずっと若いままだから、将来を真面目に考える必要も本来ない。

そして吸血鬼は人間よりよほど丈夫だ。病気にかかることもないし、トラックに轢かれても数十秒で元通り。事故は怖くないし*4、働けなくなるリスクもない。
体力値もかなり高いので、一晩中自転車を飛ばすくらいは平気。とはいえ夜中には注文がほとんどないが。


もしかすると、UberEatsは労働者を吸血鬼だと思っているのか? ありうるが、それなら吸血鬼が昼間に働けるモビリティを開発してくれ。


とはいえ、もちろん吸血鬼にも困りごとはある。そのひとつは、依頼を受けるまで注文内容(店名・配達先)がわからないこと。配達先は遠くても平気だが、店名がわからないのはかなり困る。
察しはつくだろう。にんにく料理だ。

受けた依頼が中華料理だと少々身構える。店内では息を止めて料理を受け取り、極力素早くバッグに仕舞う。
にんにく料理専門店となると、息を止めようが目にしみて涙が止まらず、店内にさえ入れない。泣く泣く依頼をキャンセルして、案の定評価を下げられる。

UberEatsが人間の労働者保護に動くのが先か、吸血鬼のにんにく問題を解決するのが先か、今後も見守りたい。

※追記
2021年5月より、リクエストの段階でピック先の店名を事前確認できるようになりました。にんにく問題の勝ち。


吸血鬼ならではの問題

一方で、吸血鬼ならではの問題もあった。それが「UberEatsの注文、招待とみなせるのか問題」だ。
実は吸血鬼、家人に招待されないと家に入れない。
UberEatsの普及当初、これが世界の吸血鬼たちに大論争を引き起こした。

注文品を届けるためには、家の庭やマンション内に入る場合も多い。敷地の外にインターフォンがあれば許可を取れるが、マンションだとインターフォンが各戸にしかないことも多い。
敷地に入らず許可を取るために、マンション前でわざわざ電話することになる。人間にとっては不要な手間だ。そこで利用者が応答しなければ、配達を諦めるしかない。そのせいで低評価をつけられる吸血鬼も多かった。

そこでUberEatsで働く吸血鬼から、「UberEatsの注文それ自体を招待とみなすべきだ」と提起があった。許可取りの手間を省けて労働者も利用者もWin-Winだというわけだ。


だが、これには根強い反対があった。吸血鬼による悪用が懸念されたからだ。UberEatsの注文をそのまま招待だとみなせば、悪意ある吸血鬼は注文者の部屋に入り放題。

吸血鬼は高潔を美徳とするだけに、こういう姑息な手口をとにかく忌み嫌う。利用者の善意に頼るより制度設計で不正を防ごうぜ、と考える人たちなのだ。

そもそも人間がUberEatsを使うとき、配達者を家に招こうと考えているはずがない(吸血鬼が注文するときだってそうだ)、人間のプライバシーと安全を守るべき、という意見が出た。


再反論も加えられた。

ひとつは、吸血鬼の権利制限への批判。
人間の安全のために、吸血鬼の働く自由が侵害されていいのか。逐一電話で許可を求めるのは負担だし、低評価が続けばUberEatsで仕事を続けられなくなる。

もうひとつは、悪用は単に「そいつのせい」だから俺たちとは関係ない、という声。
招待を悪用する吸血鬼がいても、「それはそいつだけの問題で、吸血鬼みんながそうじゃない。だから他の吸血鬼が人間のために何かしてやる義理もない」というわけだ。
さらには「悪人は現に侵入しているのに、吸血鬼だけが排除されるのはおかしい」とまで。


別に高潔じゃなくてもいいけど、ここまで無責任で想像力がないのはどうなんだろうな。
吸血鬼と人間では力の不均衡があると、こいつらは考えつかないんだろう。人間がどれほど犯罪を恐れ、気を遣いながら生活しているか想像できないんだろう。

これは個体じゃなく、構造自体の問題だ。吸血鬼全体で悪用を許さない意識を持って、悪用を防ぐ仕組みを考えるべき課題だ。
そして「悪い人間は侵入できる」というのは(それ自体大きな問題だが)吸血鬼の侵入を許す理屈にはならない。


議論は荒れに荒れたが、人間の安全と安心を最大限尊重しながら、できる限り吸血鬼の働く自由を保護する方向にまとまった。本心では不満を持つ者も多かっただろうが、建前では良識的に振る舞うのが吸血鬼なんだろう。

結果、『UberEatsの配達依頼はマンション共用部分に入る許可だとみなせるが、専有部分(私室)への招待とはみなせない』と裁定された。
この運用なら吸血鬼も人間と同様に働ける。一方で部屋に侵入はできず、人間の安全も守れる。この裁定は運輸業にも適用されて、吸血鬼の働く自由はむしろ拡がった。



これを読んでくれた人へ。時々でよいので、吸血鬼の生活を想像してくれたら嬉しい。
聞きたいことがあったらコメントしてくれ。


*1:ちなみに蒲田駅前には早朝5時まで営業している鯛焼き屋さんがあります

*2:最近ではドミノピザが最低注文金額を撤廃しました

*3:生物学的な父親ではないが、吸血鬼としての

*4:実際には相手に怪我をさせると厄介なので、咄嗟のときに自分を犠牲にする覚悟は必要