かが屋の『終電逃しちゃった…』、または逃げ恥の魅力
最近、マセキ芸能社のYouTubeでかが屋(お笑いコンビ)のコントを観るのにハマってます。
10本くらい見たけど、今のところ全部面白い。
2人の自然なやりとり、その中で起こる感情の動きが面白くて、つい夢中になる。
特に、『終電逃しちゃった…』が良すぎたので語らせてほしい。
以下、たぶんめちゃめちゃネタバレするので先に動画を観てほしいです。
かが屋の『終電逃しちゃった…』が良すぎる
説明台詞が無いのに状況がすんなりわかる
冒頭。
「んー、『かまれる』かな」
「え? 『さされる』じゃなくて?」
たったこれだけで、2人が他愛もない話をする間柄であること、出身が全く違うこと、親しくなってそれほど長くないことがわかる。
短いやりとりの中に、拾い出せる情報がたくさん込められている。なのにわざとらしくなく、何気ない。
観客への説明に聞こえてしまうフレーズがなく、あくまでも2人のコミュニケーションのために、言葉が交わされていく感じ。
雰囲気や声のトーンを変えるのが上手い
冒頭のゆるやかでほんわかした方言トークは、加賀(黒い服の方)の「時間大丈夫?」のひとことをきっかけに中断される。
賀屋(白い服の方。役名は『まなみちゃん』)は緊張した顔でうつむき、間を置いてから切り出す。
「実は、さっき終電、行っちゃったんだよね」
ここでの空気感の変化、賀屋の声のトーンの切り替えがすごい。
穏やかな反面お互い一歩踏み込めなかったゆるいコミュニケーションから、お互いの本心を探りあう緊迫した雰囲気に。
たぶんかが屋は2人とも、観察力と再現力に優れている。
人のしぐさや話し方、シチュエーションによる表情や声音の違いを的確に表現してくれる。
だから説明がなくても、2人のあいだで何が起きているかちゃんと伝わる。
アンビバレントな感情までちゃんと見えて、やりとりに温度が出る。
賀屋の「(加賀くんが)私と同じこと考えてたらなあ」の部分がすごく良かった。
寂しいときに寂しそうな声を出すのではなく、努めて明るい声をつくる。そのほうがかえって、無理して寂しさを隠していることが伝わる。
コミュニケーションを大切に描く
かが屋のコントで一番好きなところは、コミュニケーションや人の感情を、とても丁寧に精密に表現しているところ。
説明台詞は極力削るスタンスのコント師だが、コント中の登場人物たちは言葉によるコミュニケーションを怠らない。
気持ちを言葉にし、嬉しさも怒りも気遣いながら伝え、やりとりの中で相手の気持ちや互いの距離感を推し量る。
この、手触りを感じるくらい密な関係性が、「興奮して鼻血を出す」ベタな展開に爆発力を持たせている。
朴訥として鈍そうな加賀だが、傷ついた表情の賀屋を見て、思いきって本心を切り出す。
「大切に思っています」
「大切に育んでいこうと思っていたのに鼻血が出てしまった。誤解されるかもしれないけど、そんなつもりはないです」
矛盾する理性と欲求を、格好悪い本音をさらけ出して。
賀屋の気持ちが嬉しかったことも、興奮したことも、これからを長い目で考えていることも、なのに鼻血が出てしまったことも、包み隠さず。
拒否したわけではなく、好きだからこそだと伝えるために。格好つけることより、伝えることの方を優先して。
そんなんめっちゃ、LOVEやん……
最初はあえて核心を言わないでいた賀屋も、加賀の言葉を受けて、気持ちを明かし始める。
自分の意思を言葉で表現して相手に伝えるのは、本来とても労力のいる行為だ。2人は相手のためなら、その労力をいとわない。
そこがきちんと描かれているからこそ、お互いが抱く感情が観客にも伝わる。
だから「鼻血出してくれて嬉しい」なる特殊な感情の動きでも、なぜかわりとスッと受け入れられる。
「加賀くんの人柄が全部わかった気がする」「すごく安心する」という賀屋の言葉に共感できる。
かが屋のコントの、コミュニケーションを諦めないところが好きだ。
ずっと決心が揺らいでる感じ
かが屋は相反する感情の同居を描くのも上手い。
賀屋に「学んで」と言うときの、加賀の嬉しそうな顔!
言ってくれて嬉しいけど、これ以上言われたらかなわない。
「ど、どうする? もう一軒どっか行ったりする? ……嘘! タクシー代出す」
ここの決意のぐらぐら度合いも、格好悪くてリアルで良かった。
大切にしたい、なのに期待しちゃう、もっと一緒にいたい、でもはっきり誘えない、いややっぱり大切に関係を育みたい……
色んな気持ちが絡まりあう。確かに人間の感情って、一度にひとつではない。
他にも、もしものことを考えてお金をけっこう多めにおろしてきたとか、細かい行動のアンビバレントが面白かった。
報連相しっかりしてる恋愛
恋愛もののマンガやドラマを観てると、「あんたら報連相しっかりしてたらそんなすれ違い起こらんかったやろ」と思ってしまう癖がある。
そんなこと言ったら元も子もないけど。
恋する人が簡単には気持ちを伝えられないのもよくわかっているけど。
とかく恋愛ものには、言葉が足りないゆえの問題が起こりがち。
むしろ恋愛ものを魅力的に描くには、言葉が十分すぎてはいけないのか?と思っていた。
『終電逃しちゃった…』はそんな思い込みを裏切ってくれた。
2人はめちゃめちゃ綿密に気持ちを伝え合っているのに、恋のもだもだ感は全く損なわれていない。だからニヤニヤしながら観てしまう。
特に、
「あ、そうか。好きです」
「……言わずもがなです」
このやりとりがすごく刺さった。
伝える順番もムードもしっちゃかめっちゃかで格好悪くて、でも相手を尊重する心、気持ちをきちんと伝える決意だけは揺るぎない。加賀の演じるキャラクターに、不思議と惹き付けられていく。
対する賀屋の返答が、「私も好きです」ではなく「言わずもがな」なのが良い。甘すぎないし、このキャラクターならそう言うだろうな、と思う。
あとなぜか、賀屋がめちゃめちゃ可愛く見えてくる。
女性装もメイクもしていない、長髪を結んだだけの姿なのに、コントを観てるとだんだん可愛く見えてくるのがすごい。
たぶん私は、報連相がめちゃめちゃしっかりしてる恋愛ものが好きなのだ。
ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』にハマって毎週録画して観てたし、年末の一斉放送も見た。
お笑いと社会派恋愛ドラマで全くジャンルが違うけど、かが屋のコントと『逃げ恥』は通じるところがある気がした。
『逃げ恥』を好きなら騙されたと思って、一度かが屋のコントを観てほしい。単純に笑えるし。YouTubeでコントが無料で観られるので……
かが屋の再生リスト(マセキ芸能社)
https://www.youtube.com/playlist?list=PLlxhsVYSJyr2RK3nEqWpPOlMQzBw32lcu
かが屋公式チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCW3V11YgOJ0mz886m0lrXCw/feed