蟹を茹でる

カニ( @uminosachi_uni )のブログです

ミイラ展に行って、研究者の価値観をかいま見た

国立科学博物館で開催中の『特別展「ミイラ」 永遠の命を求めて』へ行ってきた。
ミイラ展の会期は来年2月24日まで。

世界各地のミイラが展示され、地域ごとの歴史やミイラの成立要因などが詳しく解説されていたり、
自分がミイラになれるフォトスポット(!?)があったりと、見て楽しむに事欠かない内容でした。

ミイラってエジプトで作られたものしか知らなかったけど、手を加えなくても自然にミイラ化することもあるんですね。
あと即身仏は言われて見れば確かにミイラだった。



そして個人的に興味深かったのは、展示から見えた学者たちの価値観。

今回はその話をします。


撮影禁止と死者の尊厳

国立科学博物館は常設展示のほとんどが撮影OKでほんとすごいんですけど、ミイラ展に関しては基本撮影禁止だった。

撮影禁止自体は他の博物館でも珍しくないけど、興味深いのがパンフレットや公式サイトの写真。

https://www.tbs.co.jp/miira2019/
一部のミイラの写真が、シルエットになっている。


これは特別展で販売するグッズでも徹底していた。

ミニチュアミイラガチャなる攻めたグッズもあったけど、ミニチュア化されてるのは布でくるまれて顔の見えないミイラ包みや、骨だけになって顔のわからない装飾頭蓋骨。

(……関係ないけど「ミイラ包み」って名前のインパクトすごくないですか?)

顔や体が見えるミイラは写真やグッズでは公開せず、展示でのみ見せるポリシーのようだった。


普通の博物館だと撮影禁止でも図録や写真は公式グッズとして売ってたりして、
撮影禁止の理由はグッズ販売の売上のためかなとか、撮影者のマナーや所有者との権利問題が原因かなとか思うんだけど、ミイラ展は違う。

明らかに、死者の尊厳に配慮するためだ。


言われてみれば、ミイラも元は生きた人間だったのだ。
いくら昔の人とはいえ、プライバシーを無視して写真をばらまいたり勝手にグッズにするのは、尊厳を侵害する行為かもしれない。

でも一方で、ミイラについて人々が知識を得る機会を提供し、研究を推進し、貴重な史料として後世に残すことは必要だ。学術的な目線から見ればそうだろう。

本草学者と研究の未来

ミイラには、ツタンカーメンのように人工的に作成されたものと、自然環境によってミイラになったものがあるらしい。

中でも今回異彩だったのが、日本の本草学者のミイラ。なんとこの人は、自分でミイラになった人だ。


この人は学問的な探求心からミイラの成立要因を研究し、それを自分で実証してみせた。
遺体の腐敗を防ぐため、死の直前に大量の柿の種子を摂取していたという。
(実際、種子に含まれるタンニンには防腐作用がある)

そして、弟子に対して「機会があれば墓を掘り返す(遺体がミイラ化しているか確認する)ように」と言付けて世を去ったらしい。


エピソードめっちゃ渋いな……。

学問的な探求で、自らの身体を使って賭けに出るのがまずすごい。
胃潰瘍の原因を証明するためにピロリ菌飲んだ人*1は聞いたことあったけど、もはやそのレベルも超えている。


結果を未来の研究者に託していったのもアツい。

結果が明らかになったときには自分はもう亡くなっていて、結果を知ることはできない。
それでも賭けられたのは、まだ見ぬ人々が意志を引き継いでくれると信じていたから。
自分の実証が未来の研究の糧になると信じたから。
自分の理論の正しさを証明したい、強い追究心があったから。


そして、賭けにみごと勝っているのが一番アツい。

彼はもはや結果を知る由もないけれど、実証は成功して理論どおりにミイラになれた。
そのミイラは博物館に保存され研究され展示され、後世の学術研究に貢献している。

死後に理論の正しさを証明されるのは、科学が多くの人の手に引き継がれていくからだ。
未来の人々が、その理論を忘れずに受け継いで、研究し続けてきたからだ。


先行研究を踏まえることを「巨人の肩に乗る」って言うけど、肩に乗ってもらうことは巨人サイドにとっても希望の光なんだなと思った。

学術っていいな。


学術調査と異性愛主義

研究者がこれまで常に格好良い価値観を持ってたかといえば、そんなことはない。
昔の研究者の価値観に、うーんと思うところもあった。


それは、オランダのウェーリンゲメンで発見された2体の湿地遺体。
今回の特別展のパンフレットでも、表紙を飾っている象徴的なミイラだ。

この皮膚だけのミイラ2体は腕を組んだ状態で発掘され、当初は大きい方が男性で小さい方が女性と推定されていた。
そのため、当時は「男女のカップル」と言われていた。

しかし、後に小さい方にもあごひげが見つかり、男性と判明。
残念なことにDNAの保存状態が悪いため、2人がどんな関係だったのか・なぜ一緒に埋葬されたのかは不明だという。


……と、さらっと受け入れてしまいそうになるけど、よくよく考えるとナチュラルに異性愛主義かましてるなと気づいた。

大きい方と小さい方が腕組んでる→男女だ!→男女が腕組んでるからカップルだ!
みたいな短絡的な発想でこのミイラが「ウェーリンゲメンのカップル」って呼ばれてたの、発想が思春期の中学生のそれじゃない?

あと、なんで両方とも男性やと発覚した瞬間「残念ながら2人がどんな関係だったのかは全然わからないですね」って急に冷静になるねん。
さっきまでカップカップルって囃し立てとったやないか。



もちろん、現在の研究者の言ってることに落ち度はない。
DNAの保存状態が悪いから、血縁関係の有無もわからない。2人がどんな関係でなぜ一緒に埋葬されたのか、わからないのは本当だ。

カップルだった可能性もあるけど、それ以外の関係だった可能性もある。
わからないことを不用意に言い切らない姿勢は誠実そのもの。


むしろ、昔「カップル」と呼ばれてたのがちょっと怖いなと思った。
男女だとしてもどんな関係かは何も明らかになっていないのに、男女という理由で何の躊躇もなくカップルだと決めつけられてしまっていた。

考古学・史学系の研究者でさえ悪気のない先入観をさらりとかましてしまう。それが学術的な目線にも大きな影響を及ぼしていて、しかもたぶん当人にはその自覚がない。
内面化してる価値観の怖さだと思う。

そういえばウェーバーも、我々は自分の価値観から完全に自由にはなれない的なこと言ってた。うろ覚えすぎる。

だからこそ、自分の持つ価値観を自覚して、できる限りバイアスが掛からないように注意するのが大事だなと思う。


現在の考古学研究では、昔に比べてセクシャルマイノリティとかジェンダーとか、そういう価値観もアップデートされてるんだろうか。
されてるといいな。


おわりに

とにかく見応えがあって、しかもミイラから各地の死生観や文化まで丁寧に考察されてる興味深い展示だった。
近場で興味のある方はぜひ見に行ってほしい。
まだまだ2月末までやってるみたいだし。
https://www.tbs.co.jp/miira2019/ticket/

しかも音声ガイドが大沢たかおさん。大人気。

あと公式グッズの攻め具合がちょうどよくて、エジプト神のかわいいトートバッグもあれば、ミイラ包みのシュールな巾着袋もあって最高。


博物館めっちゃ楽しいなと思ったので、また別の展示も行ってみたいです。

*1:バリー・マーシャル