蟹を茹でる

カニ @uminosachi_uni の雑記ブログです。好きなもののこと何でも。

NIRVANAでのオリラジMCの回し方の違いについて

10/2に開催されたRADIOFISHライブ2019『NIRVANA』はもちろん歌もダンスも構成も最高だったわけですが
やはり「なぜかメンバーに芸人がいる」特性ゆえにMC部分もめっちゃ楽しかったわけです。

このブログはRADIOFISHライブのMCについて、オリラジ2人の回し方の違いに注目して書きたいと思います。


藤森慎吾のMCは司会であり、ツッコミ

藤森慎吾さんのMCにおける働きは、まさにマスターオブセレモニーのそれ。

メンバーの話を引き出し、場の流れをコントロールするバランス感覚がすごい。
例えば『神様Disco』の話題を振って収録時のエピソードを話してくれたり、リヒトの話を引き出したり、メンバーの反応を拾ったり。

リヒトの真摯な解説(すごく考え抜かれてることがわかって「おーっ」て言ったけど、よくよく思い返すと意味がわからない)、
そのカオスで真剣な思想が中田さんにもたらしたひらめき、
リヒトのエピソードに関するへい様の生き生きとした饒舌さ、
メンバーそれぞれの個性的な、でもちょっと珍しいリアクションを引き出していた。

かと思えば、返す刀で
「でもshow-heyだってそうだからね! "You and you and you and you and you're a dangerous girl"って何!?」とへい様にツッコミを入れて、『神様Disco』以外の新曲にも話が及ぶようにしていた。
格好良い曲調だから気づかなかったけど、確かに冷静で考えると自由すぎる歌詞だな……
(流れ星・ちゅうえいさんのオリオン座のギャグ思い出した)
へい様によると「べっぴんさん、べっぴんさん、ひとつ飛ばしてヤベー女」の古典アレンジの意らしい

……どういうこと?

優秀な司会の慎吾さんが場を発散しないようまとめ、メンバーの語りを拾ってツッコんでくれていたので、スキマスたちの自由さが光っていた。

あっちゃんからもshow-heyさんからも、「慎吾さんならボケたらツッコんでくれる」という信用を感じた。
(たぶんリヒトさんはボケてるつもりないと思うけど)
包容力と対応力のあるツッコミがいると、安心してのびのびボケられるので、演者としては楽しいですよね……


また、曲中ではボーカルとしてお客さんを煽ってくれる場面もあった。
あんなにハイトーンだったり高速だったり難易度の高い曲を歌い上げながら、観客の様子に目を配り、煽りで空気に巻き込んでくれる技術がすごい。プロフェッショナル性を感じた。


さらに最高なのが、中田さんとのやり取り。
あっちゃんの行動をとらえて容赦なくツッコミを入れるところに、芸人としての力量と、オリラジの15年の積み重ねを感じる。

説明しづらいけど、他のメンバーへのツッコミ方とあっちゃんへのツッコミ方、微妙に言い方のニュアンスが違う気がして
そういうところにオリラジの絆を見いだしてしまう。
中田さんも他のメンバーに対してはツッコミ寄りなのに、慎吾さん相手だと嬉しそうにボケるから好きすぎる。

真っ先に水を飲む中田さんにツッコむ慎吾さんと、「ダンスの量じゃない、プレッシャーがすごいんだ!」と反論する中田さん。
中田さんがボケたりお客さんをいじったりしたら、即座に乗ってくる慎吾さん。
これがオリラジだー! RADIOFISHファンであると共に、オリラジファンである身としてとても嬉しい。


特に好きだったのが、『東京大革命』が終わったあとも風になびき続ける中田さんの「これ、すごく涼しい」と、慎吾さんの「おい! 降りてこい!」のやりとり。
あの場面、慎吾さんは曲終わりにまず客席やメンバーに注意を向けたので、中田さんに気づくまではけっこう間があったと思う。

それでも中田さんが優雅に風に吹かれ続けられるのは、「慎吾なら必ず、ツッコんだり乗っかったりしてくれる」と本気で見込んでいるからだと思う。
ツッコミが入るまで無言でボケを続けるって、やってみると相当勇気いりませんか? それをたぶんアドリブでできるのって、やっぱり芸人コンビのふたりだからこそだと思う。


中田敦彦のMCは世界を創る神、共同参加型

NIRVANA』での彼はNAKATA=御神体としてもあっちゃんとしても中田敦彦としても輝いていた。

個人的に芸人としての柔軟なアドリブセンスを感じたのが自己紹介の場面。
スキマスのフリーダムすぎる好きなもの紹介と、自分らしさを示しながらボケた慎吾さんの流れをくんで、
「清武と美代子が好き!」というボケに集約したところ。あれで、あんなに発散しまくっていたボケがなんかキレイに落ちた感じになったのがすごい。

おそらく彼には、即座に物事の構造をつかみとって面白い言葉にする冴えがある。だからこそ『中田敦彦YouTube大学』であんなにわかりやすくダイナミックな解説ができるし、アドリブのボケだとこういうところに活きてくる。

さらにその構造把握力は場の雰囲気や流れをくんで、破壊力抜群のひとことを放つことにも役立っていた。
例えば『Bitter Coffee』後のアンニュイな空気をがらりと転換した
「みんな、軽減税率ってどう思う?」
ファンタジック・追憶・恋愛の『Bitter Coffee』に対して現実・時事・政治の消費税を即座に持ってくる適切な発想力がすごい
(ボケの構造を論理的に解説するって、何かとても残酷なことをしている気がしてきた)

お客さんのリアクションを拾ってオークションノリを始めたり、ペンライトを消せなかったファンをいじったりするおちゃめさもある。もちろん慎吾さんも即座に乗っかって、息ぴったりのオリラジが見られるのもお得。

特にひとことの爆発力がヤバかったのは、やはり誕生日祝いのとき、ファンの言葉を受けた「あっちゃんに戻るね」
彼を愛する者たちの呼び声によって現れた、まろやかな慈愛に満ちた笑顔も相まって、夢を見ているみたいだった。
慎吾さんの「あっちゃん! そこにいたのか!」という嬉しそうな声も印象的。

民衆からの切実な求めによって現界するさま、めちゃめちゃ"神"じゃないですか? 中田敦彦……


中田さんのボケで、また異なる神らしさを感じたのが電気ビリビリゲームのとき。
ゲームに参加してリアクションをとる側じゃなく、それを見ながらゲームマスターとして場を回す側に立つのが中田さんらしい。へい様ありがとう……

彼のボケの良さ、参画型なのに参加しない余地を残しといてくれるのが好きなんですよ。

カイジっぽい地下ギャンブルの悪徳主催者」という、世界観強めだけど乗っかりやすい設定を用意してくれる。
これ、乗っかる場合はギャンブラーっぽいキャラを演じればいいのでスキマスはそれほど難しいことやらなくてよいし、
みんなが乗らなくてもあっちゃんひとりまたはオリラジふたりでノリを成立させられるので、「振られたのに乗れなかった」とか「うまく入っていけない」って感じにならない。
実際、わりとみんなバラバラなノリやリアクションなのに、「みんな好きに楽しそうにやってる」というグルーヴ感があった。

この、乗っても乗らなくてもいいよ、という手法が素晴らしい。
世界、創造しといたけど、どう生きるかはみんなに任せるよ。このやり方、なんか高次の存在っぽくないですか?

面白くて安全に成立する世界観を選べる知性と、プロダンサーであるスキマスへの尊重が合わさってる。プロ芸人がプロダンサーと組んで作ったユニットだからこそ産み出される世界だと思う。
中田さんの芸人力と、スキマスがことバラエティにおいてはオリラジに全幅の信頼を置いてるのがわかるので、好きな場面だった。


そしてやっぱり、一人語りが熱かった。
喋りが上手くて流暢で展開練られてるのに、同時にアドリブのような臨場感がある。決して原稿を読んでいない。

しかも聴衆のこっちは話聞いて頷いてるだけなのに、なぜなのか『参加している』感がすごい。グルーヴ。ひとりひとりに話し掛けられて相槌打ってるような、聞いてて思わず気持ちが動いてしまうような。
あれです、すごいカリスマの歴史的な演説にある、「私たちは歴史的な瞬間に立ち会っている」の軽いやつだった。

中田敦彦(2018)『僕たちはどう伝えるか』に、こんな一説がある。

プレゼンとは話し手の「作品」ではない。聞き手との「共同作業」である。(『僕たちはどう伝えるか』p76)

どんな答えが返ってくるかが問題なのではなく、聞き手に参加している感覚を与えることが大切なのである(『僕たちはどう伝えるか』p83)

彼の喋りはまさにそれを体現していた。
場をコントロールしてお客さんを満足させるというより、世界観を創り上げ、人々を共同参加に導いていた。
天才だと思う。そんな天才が、武装を解いて嬉しそうにわちゃわちゃできる慎吾さんも、天才なんだと思う。