かみさまは中学二年生
「中二病」がテーマのショートショートです
実在の人物団体作品等とは一切関係ありません。
かみさまは中学二年生
少年は同級生と、横並びに座っている。
同級生は前を向いたまま、少年に話しかける。
「お前さあ、なんであんなこと言うたん? お母さんめっちゃ驚いてたで」
「うん……」
「なんかあったん?」
尋ねられた少年は首を横に振る。
「……なあ、僕が変なこと言っても馬鹿にせん? みんなに言わん?」
「馬鹿にせんかはわからんけど、他人には言わんけど」
少年はその答えに少しだけ笑う。
一瞬、ためらうような表情を見せるが、少年は口を開く。
「僕さあ、神様って中学二年生やと思うねん」
同級生は驚いて少年のほうに振り向く。
「は? 何の話?」
「あ、ほんまにどっかの中二が神様やと思ってはないねんけど、神様って中二病やと思うねん」
「何が?」
同級生は話の要領が飲み込めず、とんちんかんな疑問詞を返す。
「『神様は自分の姿に似せて人間をお作りになった』とかいうのあるやん」
「それは、神話とか宗教とかの話?」
「うん。それで思ってんけどさ、人類って繁栄してるやん」
「順序立てて喋ってくれん?」
「うん。えっと」
少年はわたわたとジェスチャーらしき動作をしながら、口をぱくぱくしている。話したいことをまとめられない様子。
「あーもういいよ。好きに喋って」
同級生は少年をなだめる。
「うん。人類って繁栄してて、他の種を力で制圧したり、絶滅させたり、世界中に広まったりしてるやん」
「そうやな」
「で、世界を作ってるのがほんまに神様やとしたらやで。神様が自分に似せて人類作って、自分に似てるキャラを繁栄させたり最強にしてるんやったらさ、神様ってめっちゃ中二病じゃない?」
「それはあれ? メアリー・スーとかいうやつ? やたら最強で天才のスーパーマンキャラが主人公になって活躍するみたいな」
「うん。なろう小説で、異世界転生チート主人公が俺TUEE無双するみたいな」
「は? お前変な言葉知ってるな。もっかいゆっくり説明つきで言って」
少年は同級生の要求を無視する。
「だから神様がそういう中二病の作者やとしたら、神様が成長したとき僕ら人間って黒歴史になるやん」
「そもそもお前の中では神様って成長すんの?」
「だって小学生のときは恐竜に夢中になってたやん」
「ジュラ紀のとき小学生やったん?」
「恐竜に飽きたあと哺乳類に力入れて、自分に似てるキャラを無双させはじめたんやと思うねん。でも今後神様が高校一年生になったらやばくない? 僕ら」
「まあ、『あー!!! 恥ずかしい恥ずかしい!!! 黒歴史すぎる!!!』って言って全員消されるかもしれん」
「もちろんそのときは僕もう死んでると思うから関係ないんやけど、いつか人類滅ぶかなあと思ったらめっちゃ虚しくなってきて。とにかく誰かに聞いてほしかってん」
「お前、だからって『おかん!!! 人類滅ぶ!!!』って叫んだらお母さんびっくりするやろ。お母さん、お前がネットで変な陰謀論にはまってると思ってんぞ」
「それはあとで謝っとく……」
「それに、まだ滅ぶかわからんで」
同級生は少年を励ますように、背中を叩く。
「黒歴史でも、自分に似てるキャラには愛着あるかもしれんやろ? 繁栄しまくったり他の種を滅ぼしまくったりするのやめて、もっとまともで現実的なキャラ設定になって存続するかもしれん」
「それもそうやね……」
「そやろ? だから人類が滅ぶかは五分五分ちゃう?」
「しかも今時、大人になっても60代なっても俺TUEE小説書いてる人いてるもんな!」
「いやだから何? それ。そこの事情は俺よくわからんけど」
「だから意外と人類もさ、これからもずっと無双していくかもしれんよね。ウナギとマグロ食べ尽くす! とか」
「それ無双なんか?」
「だって滅ぼそうと思って武力で頑張って滅ぼすんじゃなくて、『人類が異世界で他種族を食い尽くす~ウナギとマグロ、俺がちょっと本気出して狩りしたら滅んじゃいました~』やで? めっちゃ俺TUEE無双やん。中二病すぎやわ」
「いや知らんけど。そういうの知ってるお前が言うんやったらそうかもしれんけど」
同級生は少し呆れた顔。
少年は立ち上がる。
「わけわからん話聞いてくれてありがとう。すごいすっきりした」
「ほんまにわけわからんかったわ。別にいいけど」
「あ、お礼にうちでペヤング食べへん?」
「お前の家行くん嫌やわ。お前まだお母さんに陰謀論者やと思われてんねんで」
「そうやった」
「今度、食堂の唐揚げおごって」
中学二年生のふたりは食べ盛りだ。人類の滅亡のことも、食堂の唐揚げが売り切れてしまうことも、同じくらい心配している。
ふたりが大人になったとき、このことを思い出して、恥ずかしく思うのだろうか。
それともいい思い出だと懐かしむのだろうか。
おわりです