本のまえがきを読もう
こんにちは。カニです。
最近、本をまえがきを読むことにハマっています。これが以外と面白いので、あと役に立つので、本のまえがきの良さを語りたいと思います。
本のまえがきを読もう
そもそもまえがきとは
ていうか本のまえがきって読みます?
まえがきとは文字の通り、本の前のほうに書いてある序文のこと。大抵は目次よりも前にあり、著者が書き下ろしていることが多いです。
アンソロジーや雑誌連載をまとめたものだと、本文は既刊からの再掲で、まえがき・あとがきだけ書き下ろしだったりもします。
しかし思うのですが、まえがきの注目度、あとがきに比べて圧倒的に低い。低すぎると思う。
まえがき愛好家初心者として、このことに異論を示したい。
だってみんな、あとがきのことは時々ネタにしたりするじゃないですか。「こんなことが書いてた」とか。
アマチュアの人がネットや同人誌で小説書くときも、あとがきはやたら充実しがちじゃないですか。こう、あとがきにキャラが唐突に出てきて作者に文句を言う、みたいな。このキャラは芸能人の誰々さんをモデルにして作ったんです!みたいな。偏ったイメージだけど、あるあるじゃないですか。
それに比べて、みんなまえがきに注意を払わなすぎだと思う。小説にはまえがきの文化があまりなく、代わりにあとがきが充実しているから、というのもあるんでしょうか。
そういえばネット小説でまえがきがあるやつって見たことない。
(※世界観説明や登場人物紹介は、まえがきとはまた別物です)
新書ならほぼ確実にまえがきはありますが、いきなり目次本文から読み始める人も意外に多いんじゃないかと。
確かに本文全部読めば、まえがき読まなくても本の内容はわかるもんな……。
以下、そのような方や、「そもそもまえがきって何が書いてあんの?」という方に向けて、まえがきについて説明したいと思います。
まえがきには何が書いてあるのか
大きく分けて3つのタイプがあると思います。
そのうち、1つのタイプだけに当てはまるまえがきもあれば、すべてのタイプの混合になっているまえがきもあります。
タイプ1 本の内容
最もよく見る気がする。
本をこれから読む人のために、または、立ち読みで本を手に取って買うか迷っている人のために、
「この本では以下の内容を取り扱っています」と簡潔に説明するタイプです。
「○○について、先行研究に基づいてこんな実験をしました。するとこのような結果が出ました。考察および今後の課題はこうです」
のような、論文の要約(abstract)に近い形式のものもあれば、
「本書は1~3章では○○の基礎について説明し、4,5章では○○に関わる時事問題について解説しました。6章では未来予想をしました」
のように、章ごとの内容をひとことでまとめてくれているものもあります。
個人的には、このタイプのまえがきだと「○○入門」「よくわかる○○」系の本を推したい。
そもそも本書で取り扱う分野はいったい何なのかーーが、端的にわかりやすく説明されているからです。
例えば経済学入門の本なら、経済学って何? どんなことをやる学問なの? 何の役に立つの? といった内容を、まえがきでざっくり説明してくれていることが多いです。
なので私は、全く詳しくない分野の本を読むときまずは入門系の新書を買い、まえがきをよく読むようにしています。ふんわりざっくり全体のイメージが掴めるのでおすすめ。
タイプ2 想定読者層
これも、まえがきでは重要な要素。
はっきり言葉で、「本書はこんな人を対象にしています!」と書いてくれてある本も多いです。
例を引用してみます。
そこで本書では、経済数学はもちろんのこと、経済学もよく知らないという読者を想定して、経済数学を学ぶと、どんな良いことがあるのかを説明することにしました。
みなさんはこれから、満腹を超えてパンを食べさせられたり、坂を自転車で駆け下ったり、お金が足りなくてぜいたくな暮らしを諦めたり、最貧国の苦闘を応援したりしながら、微分、偏微分、最適化問題、差分方程式、動的計画法など、経済学に登場するさまざまな数学に出会います。
(いずれも、田中久稔『経済数学入門の入門』岩波書店2018年刊より)
- 作者:田中 久稔
- 発売日: 2018/02/21
- メディア: 新書
どんな読者を想定して説明するつもりなのか、はっきり示してくれています。
内容の説明を見ても、数学の公式や理論の解説というよりは、「具体的に経済学のどんな場面で数学が使われるのか」の紹介だとわかりますよね。
もしこれが「経済学を専門とする学部生および大学院生向けに、経済数学への理解をさらに深めてもらえるよう構成しました」と書いてあったら、初心者には歯が立たない内容だとわかるわけです。
このようにまえがきには、読者と本のレベルのミスマッチを防ぐ役割があります。
また、はっきり想定読者層が言葉で書かれていなくとも、まえがきの難易度から、本のおおよその読者層を推測することもできます。
ちょっと乱暴にいえば、まえがきを読んでも意味がさっぱりわからない本は、現状その読者には難易度が高すぎるといえます。
本文が読みやすくて簡単なのに、まえがきだけやたら気取っていて難しいってことはなかなかありません。まえがきは基本、本をこれから読む人に向けて書かれているので、そこでやたら難解にして読者をふるい落としたら損だからです。
まえがきが難しい本は、内容も難しいことを親切に教えてくれている、と考えてよいかと思います。
まえがきのテンションも大事な要素です。
まえがきのテンションが高めの本は、ほぼ確実に本文のテンションも高めです。
まえがきの文章が堅ければ本文もそうだし、まえがきに癖があるなら当然本文はもっと癖が強いと思ってください。
ヤツらはまえがきでは多少抑え目にしてくれてますが、本文では本気を出してきます。
内容はともかくとして文体が極端に読みにくいなら、その本はしっくりこないかもしれないです。
タイプ3 本の成立経緯
娯楽としては、このタイプのまえがきが一番おもしろい。
ベーシックなものでは、
「昨今、IT技術の重要性が様々な場面で増大してきている。ITは今や、一般の人にも身近なものとなった。そこで、本書ではIT技術について主要なトピックを扱うことにした」
みたいに、昨今の情勢を成立経緯ふうにまとめてくれているものがあります。
「初版は2000年に出したが、その後法律の改正があったため、今回改訂版を出すこととした」なども、その亜種といえるでしょうか。
また、「本書は第1回から第8回の、○○学領域会議で取り扱った内容をまとめたものである」とか、
「雑誌連載だったのだが、編集部の誰々さんの薦めで単行本を出すこととなった」とかのように、
もっと実務的な成立経緯を書いているものもあります。
個人的におもしろいと思うのは、「私はこういう理由でこの本を書くことにした!」という、気持ちのこもった成立経緯のまえがき。
この分野はおもしろい! そのおもしろさをわかってほしい! という著者の愛に溢れていて、こちらにまでおもしろさが伝わってくる。
特に、まえがきで何かにぶちギレている人、個人的に大好きなんですよね……。
コンラート・ローレンツ『ソロモンの指環』(早川書房1998年刊)なんて最高。
最近の動物に関する一般向けノンフィクションがひどい! スズメバチが口を開けてブーンと鳴き声を上げて威嚇したりしている! もうこうなったら私が正しい動物の生態に基づいた一般向けノンフィクションを書くしかない! (大意)
……みたいなキレ方をしている。
ノーベル生理学・医学賞取るような動物行動学者が、その高い学識に基づいて、雑な一般書にキレてるというのがたまらないですね。専門性への愛と誇りゆえの怒り。
好きなまえがきを紹介する
せっかくなので私が個人的に好きな本のまえがきをご紹介したい。
- 作者:コンラート ローレンツ
- 発売日: 1998/03/01
- メディア: 文庫
ローレンツ、めちゃめちゃおもしろいんだけど、絶対に家族にはなりたくないタイプの人です。
- エーリッヒ・ケストナー『飛ぶ教室』(岩波書店 岩波少年文庫 2006年刊)
- 作者:エーリヒ ケストナー
- 発売日: 2006/10/17
- メディア: 単行本
「彼らは、子供というのは始終楽しくて悩みがないと思っている! 自分が子供のころに悩んだことを、すっかり忘れてしまっているのだ! きみたち読者には、自分が子供だったときのことを忘れずにいてもらいたい」(大意)的なことを熱弁していておもしろい。児童文学作家ならではのキレ方。
- スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー』(新潮社 新潮文庫 1987年刊)
- 作者:スティーヴン・キング
- 発売日: 1987/03/25
- メディア: 文庫
こちらのまえがきキレてはいませんが、キングならではのエピソードでおもしろい。
「昔、2作目を出すときは、ベテラン編集者に『ホラー小説ばかり書くと、色物作家だと思われるぞ。別のを書けないのか?』と言われたものだ。しかし今回ホラーではない中編小説を書きたいと私が言ったとき、若い編集者はこう言った。『困ったなあ、ホラーじゃないのか……。なんとか、霊が取りついて暴れる車とか出せませんかね?』」(大意)
ちょっと細かい部分まで正確に記憶してないので大意ですが、読んだときすごく笑いました。たぶんキングしか体験しないエピソードだ……。
記事を見てくれている方で、おもしろいまえがきをご存知でしたらコメント等で教えてください。すごく喜びます。
中田敦彦『僕たちはどう伝えるか』 前書き全文公開中らしいよ
ここからは中田敦彦の話をするぜ!
全然宣伝とか頼まれてもないのに、ファンだから勝手にダイレクトマーケティングだ!!
というわけで前書き全文へのリンクを貼っておきます。よかったら見てね。
https://ameblo.jp/nktathk/entry-12398850361.html
この記事の良いところは3つ。
①前書き全文公開という発想自体が理にかなっていて素晴らしい
先程も言いましたが、まえがきは基本、これから本を読む(かもしれない)人に向けたもの。立ち読みで本を吟味する人に買ってもらうためにも、まえがきは大事なわけです。
まえがきをしっかり読むタイプの人にとっては特に重要。そこが自分に合っているか、おもしろいかどうかで、購買意欲も変わります。
だったら、予約購入したい人や、ネットで本を買う人にもまえがきが読めたら?
その本がどんな本なのか、自分が必要としている本なのか、すごくわかりやすくなるはず。購買意欲も高まるんじゃないでしょうか。
②著者の文体や論理運びがよくわかる
一部を引用してみます。
この本を読めば、思い通りの人生を生きていける。
それはなぜか?
今から40秒だけ使って簡単に説明しよう。われわれ人類は、超能力をすでに持っている。
しかしそのことに気づいている人はほとんどいない。
初手からインパクトでぶん殴ってくる。
「思い通りの人生」「超能力」など、パワフルで引っ掛かりのあるワードに加えて、『40秒』。
それはパズーがドーラから支度のために猶予された時間。短い時間で何かをやり遂げることの代名詞ともいうべき秒数。
そこから、論理が以下のように繋がっていきます。
「人間は、頭がいいから勝った」と理解している人が多いがそれは厳密ではない。
単体で言えば、生きる知恵にたけた動物なら他にもいるだろう。
人類は「連携できたから勝った」のである。
仲間を作る。組織を作る。すると人類は単体の数千倍の力を発揮する。人類は地球最強の「群体生命体」なのである。
誰もが人間関係に悩むのは心が弱いからではない。
それが、もっとも重要な「生存競争」だからだ。
一般的な解釈を批判して、独自の視点を示す。
『人間関係に悩むのは、それが生存競争において重要だからこそ』という視点に、はっとさせられる。
実はこの主張、動物の生態から見てもわりと当たっている。ヒトって、霊長類のなかで、飛び抜けて1集団の個体数が多いんです。
ひとつのグループに150個体もいることもある。しかも全く類縁関係でない人たちが同じグループにいる。これはチンパンジーにもゴリラにも見られない、ヒトならではの特性。*1
大きなグループを作り維持できるから、つまりはたくさんの個体間で連携できるから、これだけ繁栄できたという考え方は、あながち外れじゃなさそう。
まえがきをじっくり読めば、著者のテンションや、論理の運び方の癖が見えてきます。
おそらく著者は、最初にインパクトの強いワードで、はっきりと主張を言い切る。
それから少々強烈なその主張を、論理立てて、具体例も出しながらわかりやすく解説していく。
そうして聞いてみると意外と理にかなっていて、ときどきはっとするような視点を示してくれる……
という論理運びをしそうですね。
読みやすさ、強烈さ、面白さの点では良い本だと思われます。逆に、学術的な専門書を所望しているとか、淡々とした堅い文体じゃないとだめとか、結論を先に持ってこられると泣いちゃうとか、そういう場合には合わない可能性もある。
もしも、読みやすくて刺激的な本を探しているなら、きっとこの本をおもしろく感じると思う。
③成立経緯がアツい
読むとよくわかるが、かなり情熱的なまえがきです。
これはぜひ読んで感じてほしいやつ。
技術の進歩やグローバリゼーションにより、多様な価値観の人々が混じり合う時代がやってきたと、著者は指摘する。
目まぐるしく変化する時代のなかで、様々な人々と交流するためには、「以心伝心」ではやっていけない。背景となる常識も価値観も、人によって違うからだ。しかもそれらは、刻一刻とアップデートされていく。
そんな時代を生き抜くための最大の武器が、伝達能力、ひいては「プレゼンテーション」だというのが、著者の主張。
この本を読めば、必ず「人に伝わる話し方」ができるようになる。
そして必ず、自分らしく人生を生きることができる。
アツい。そして頼もしい。
プレゼンテーションの力を身に付けたい人、自分の意見をちゃんと伝えられるようになりたい人にとっては、きっとおもしろくて役に立つ本だと思う。
……と、ファンゆえにどうしても褒めがちなので、客観的にみてマイナスになりそうな点も挙げておきます。
- たぶん、学術的な堅い内容は扱ってない
- 若干ビッグマウスなところがある
→これは好みによります。アツい文章がすごく苦手な人には好みじゃないかも。逆に、大げさでも楽しくて実用的なほうがいい、って人にはメリットです。
- 具体的な内容がまえがきだけではわからない
これはけっこう重要なポイント。
「プレゼンテーション」についての、わかりやすくて実践的な本だということはわかった(30分で読破できるらしい)。
でも、「1~3章では基礎を、4章では時事問題を(以下略)」型のまえがきとは違って、具体的に何が書いてあるのかは、ここから読み取れない。
プレゼンテーションの基礎的な方法論なのか、上達するコツなのか、プレゼンについてのエッセイなのか。あるいはプレゼンの実例を挙げたり、実際にやった工夫やテクニック・練習法などを書いてたりするのか。
実は具体的な内容については、Amazonの内容紹介のほうがわかりやすかったです。*2
「この商品について」欄の「説明」部分をクリックすると内容紹介が開けます。
- 作者:中田 敦彦
- 発売日: 2018/09/19
- メディア: 大型本
※念のため言っておきますと、もしこれを読んだあなたが本を買ってくれても、カニ🦀には1円も入りません。宣伝してくれと頼まれてもいません。
ファンなので勝手に宣伝しています。
でも買ってくれたら推しが喜ぶ、推しが喜ぶとカニが喜ぶ。そういうシステムになっております。
ありがとうございました。
最後にもう1回、前書き全文へのリンクを。
https://ameblo.jp/nktathk/entry-12398850361.html