蟹を茹でる

カニ @uminosachi_uni の雑記ブログです。好きなもののこと何でも。

人間の本性が出るとかすぐ言うやつ何やねん

ただの日記です。

水曜日のダウンタウン」で、鉄塔システム説を見た。
芸人が倉庫の中の鉄檻に閉じ込められて、身代わりの芸人を用意しないと出られない、という企画。騙されて連れて来られた芸人たちは、なんとか身代わりを用意しようと、携帯で知り合いの芸人を誘き出す。
元ネタはジョジョらしい。
めちゃくちゃ怖い企画ですね。

人間が追い込まれた状態で苦闘する姿って、安全なとこにいる他者から見ると滑稽なことあるよね。
まあそれはわからないこともない。実際フィクションではそういうやつ多い。貧乏人たちがひとところに集められてバトルロワイヤル的なことをさせられて、金持ちたちが闇のパーティーで賭けをするみたいなやつ。なんかイメージの中にありませんかそういう光景。バトルの内容は武力による殺し合いなこともあれば、騙し合いによる知能戦なこともある。

そういうやつが端から見てるぶんには面白いことは認めるし、「水ダウ」の企画は攻めてることも多いし、今回の出演者の芸人たちは完全にテレビの企画だと勘づいてて罠にはまっていってる感じだったし。
だから番組の企画自体を非難するつもりはない。
(ぶっちゃけ女芸人の家に知らない男が潜んでる企画のときは怖すぎて無理だった。せめて潜む人物が女性スタッフだったら多少印象が違ったと思う)

でも、ああいうの見て、素直に「かわいそう」って言う人の気持ちもわりとわかる。
だって実際かわいそうだもん。完全にかわいそうとしか言い様のない状況に追い込まれているもん。
『その人が置かれた状況』に重きを置くなら、絶対に「かわいそう」が感想としては正解なんですよね。それはわりと共感的な人間として真っ当な態度だとも思う。
お笑い芸人としてはテレビに出れて嬉しい、みたいな個人の特性に由来するプラス要素はあるにしても、状況を客観的に見たらマイナス要素しかない。檻に閉じ込められて、ひとりきりにされるのはヒトにとってストレスだし。持ち物取り上げられるから、やることなくて苦痛だろうし、虫がたくさん出るような悪い環境だし。
そういう状況に人を追いたてて娯楽とするのは悪趣味じゃないか、って指摘は的を射てると思う。
ていうか虫は退治しとけよ。

もしもそういう指摘に反論するなら、「あれはやらせっぽい感じだから……」になってしまうかな。芸人たちはテレビに出れて実際はおいしいとか、閉じ込められた人も薄々そのうち出られることは察してるから大丈夫とか、身代わりで檻に入る芸人も何が起こるか大体予想はついてたはずだとか、芸人同士だから騙し合ってもおあいこだろうとか……。とにかくあの企画にはリアリティーはない、普遍性もない、芸人だから成立しているシステムでしかない、みんなわかっててやってるはずだ、という点を推していくべきかな。
本当に実行したら犯罪だ。
一応、番組側もそれをわかってて、あえてリアリティーをなくしてるのかなって感じの作りだった。
最初に犠牲になる芸人は、ロケだと言われて強制的に連れて行かれ閉じ込められる(連れ去られるのが番組の企画だと分かっている)から、家に知らない男がいる企画とは異なる。何が始まるかわからない不快感や恐怖感は当然あっただろうけど、命の危険までは感じてなかったと思う。当然それでもよくないという意見はあるだろうけど。

檻のつくりはあからさまに『これはねえ……罠ですよ!!!』感があるから、たぶん普通の人は中には入らない。実際、売れっ子芸人は倉庫まで来たけど、怪しんで入らずに引き返した。「怪しんで」と言ってるけど他の芸人もあんな露骨な罠怪しんでないはずはないので、つまりは他の芸人は檻に入れられる恐怖感と不快感よりも、テレビに出れることを取ったというべきだろう。
あれが倉庫入ったら即閉じ込められる、全然ぱっと見罠だとわからなくて回避しようがない、テレビの企画だとわからない、って感じだったらもっと酷いと思う。
だから最後、倉庫に入ってきたある芸人が、目出し帽の男に無理やり引きずられてたシーンだけはリアルで本当に怖かった。「何!? 何だよ!」みたいなこと言ってるうちは、あえて大きくリアクションしてんだな、と思うのだけど。
本当に状況がわからなくて、本物の暴漢に襲われたと思ってる人間って、まず「ごめんなさい! ごめんなさい!」って謝るんだね……。あのリアクションだけは本物の恐怖を感じさせてぞわぞわしたな……。



かわいそうだって意見に反論してる人の中に、こういうことを言ってる人もいた。
「あれは芸人たちの腐った本性を明らかにする企画なんだから、そいつらに同情するのは間違ってますよ」

これにはかなりの衝撃を受けた。
同情するのが間違ってるってことはなくない?
つまりその人は、鉄塔システムでみられる騙し合いを「芸人たちの本性」だと思ってる。企画に巻き込まれて檻に閉じ込められて、他の人を裏切らされた芸人たちを見て、やつらの腐った本性が明らかになったと感じてる。他の芸人を裏切ったのは本人の自由意思で、そんな卑怯なことをするやつらに同情するのは間違ってる、というわけだな。

私には全くない見方だった。ていうか芸人たち、あんまり企画説明もされずに突然巻き込まれ、それでも番組の期待に添って、必死に友達の芸人に電話かけて、呼び出す方法を考えてるし。これ絶対罠だろって感じなのに、前の住人の言う通り素直に檻に入るし。番組のためにめちゃくちゃ頑張ってるじゃんね。お疲れ様だよね。

自然界には絶対存在しないシステムの中での、芸人たちだからこそ起こる反応を「本性」呼ばわりするの、かなりトリッキーな発想だと思う。
毒キノコ食べちゃって言動がめちゃくちゃな人に「いつもはまともな振りしてるが、これがこいつの本性だ!」って言ってるのと変わらなくない? 酔っぱらって言動めちゃくちゃな人を見て笑う気持ちはわかるけど、それを「人間の本性」って呼ぶのは穿ちすぎな気がします。
あんな特殊な状況で見られる反応が本性なわけないだろ! 動物行動学者が何のために大変な思いしてジャングルの奥地までフィールドワークに行くと思ってるんだ! 動物たちが本来いるべき自然な環境での行動を観察するためだぞ。

まあ、特殊な状況で番組のために卑怯なことをする芸人たちを、安全なところから見て「これがこいつらの本性だ!」とか言ってる人の本性こそ、このシステムで明らかになったかもしれないですね。その人たちはただテレビを見ているだけの、自然な環境にあってそういう言動をしてるわけですし。あんな行為を「人間の本性」とストレートに思ってしまえる本性をしてるんでしょう。などと意地悪を言ってみる。私も大概性悪です。


企画を見て「かわいそう」と言う人たちは、芸人が置かれた状況に注目してるわけです。特殊な状況に置かれたら、状況の効果に強いられて、人はああいう行動をとるしかなくなる。不快で怖い思いをさせた上、非道な行動を強制するのはかわいそうだ。と思っているんじゃないかな。
一方企画を見て「これが芸人の本性」と思う人たちは、起きたことの責任を芸人個人の特性に帰属してるわけです。状況など関係なく、本性がああいう風だからああいう行動を取ったのだ。他の場面でも自分の得になるなら人を裏切るはずだ。裏返せば、本性が正しい人間は檻に閉じ込められても決して身代わりを差し出したりしない。と思っているのかも。

原因を避けられない環境のせいにしがちか、個人の自己責任にしがちか。こういう思考には人によって個性が出て面白いですね。
ちなみにですが、一般的に人は自分が起こした失敗を運や環境など外部要因のせいにしがちで、他者が起こした失敗を本人の責任など内部要因のせいにしがちだそうです。これを帰属バイアスと言います。
なので、他人が起こした卑怯な行為を状況のせいだと考える人は、自分の行為も外部要因のせいにしがちかもしれない(私はそういうタイプだが他の人もそうだとは言えない)。かといって他人の行為を本人の特性だと考える人が、自分の行為を自分のせいだと考えるかというと、怪しい。
「何でも状況のせいにしがち」と、「何でも本人のせいにしがち」の間には、「他人の行為は本人のせいにするが、自分の行為は状況のせいにしがち」という大きな川が流れているから……。

もちろん、番組を見ながら「へー、突然友達に『事情は言えないけど助けて、とにかく来て』って言われて本当に来る芸人さん結構いるんだな。すごいや」とかのんきに思ってた私がどうこう言えることではないのはわかってます。