蟹を茹でる

カニ @uminosachi_uni の雑記ブログです。好きなもののこと何でも。

《解答編》大富豪の一族が次々犠牲になるミステリと、相続税

前回http://bloodandsugar.hatenablog.com/entry/2019/02/11/155342
のつづき。この記事だけでも読めます


相続税ミステリはありうるか

一族が立て続けに亡くなったときの相続税

「3人が順番に亡くなって、そのたびに相続税払ってたら遺産なくなるんちゃう?」みたいなことを言っていましたが、これにはちゃんと対策がありました。

それが、相次相続控除です。
簡単に言うと、誰かが亡くなって、その遺産を継いだ人が10年以内に亡くなった場合、相続税の控除(税が安くなる)が受けられるよ! ということです。



おじいちゃんが亡くなり、おばあちゃんと子供たちが遺産相続
→おばあちゃんもその翌年に亡くなり、子供たちがその遺産を相続

例えばこういう例の場合、今回のおばあちゃんの遺産のうち、『おばあちゃんがおじいちゃんから相続したぶんの遺産』には実質、相続税がかからないことになる。
その部分はおじいちゃんから相続するときにもう税金払ってるから、二重取りするとかわいそうなので今回は取らない、みたいな感じ。


実際にはもっと計算は複雑で、前回の相続税額なども絡んできます。国税庁のサイトで詳しい説明が見られるので貼っておきます
No.4168 相次相続控除|国税庁



ミステリでいえば、たぶん殺される順番で税額の合計がそんなに変わることはなさそうです……
さすが国税庁、二重取りを防ぐ『相次相続控除』という救済策を用意しながらも、決して税金逃れには利用できなさそうな設計になっている……

考えてみればそうですよね、立て続けに家族が亡くなったとき、何度も税金とられたらあまりにもかわいそうだ。
事故で夫婦両方亡くなったなど、どっちが先に亡くなったのか判別できない場合もありうる。それで税額が変わるようでは困る。

しかも亡くなる順番で合計の税額変わる仕組みだと、お金目当ての殺人事件とか起こりかねないし……

というわけで、殺人の順番によって税金対策するミステリのアイデアは実現が無理そうです。
日本とは税制が違う、架空の国でのできごとにしてしまう、という抜け道もなくはないですが


ただし、この相次相続控除、10年以内となっていますが、控除額は毎年1割ずつ減っていきます。

つまり
「犯人は必ず今日、あなたを狙いに来る! なぜなら明日はお父さまの命日……税金の控除額が1割も減ってしまうからです!」
みたいな展開を入れることはできるな。

1年以内に家族全員を亡き者にしようとする犯人。
なぜなら税額を抑えたいから。
だいぶヤバいやつだな……。


借金のあるやつは先に狙われる

税額は順番により変わらないとはいえ、相続できる遺産の合計には、順番が絡んできそうです。

例えば、遺産100億のおじいちゃん→借金20億の四男
の順番だと、
四男が相続したおじいちゃんの遺産は、借金返済のために使われてなくなってしまいます。

犯人的には、先に四男を手にかけ、彼の借金を相続放棄してからおじいちゃんを狙ったほうが、最終的な遺産は多くなりそう。

同じような理由で、金遣いの荒そうな親族も早めに狙われる。なぜなら相続した遺産を使い込んで減らしそうだから。


大財閥の一族の皆さん、遺産争いミステリでなるべく最後まで生き残りたいときは、無借金経営と堅実な金回りをアピールしましょう。

犯人に後回しにされるので時間稼ぎができますし、
警察から「金目当てでお前がやったんだろ!」と疑いをかけられることも防げます。


逆にいうと、めちゃくちゃ借金あって金遣い荒いのに最後まで生き残ってるやつ、怪しいかもしれないです。


法定相続人になるために、罪のない子供を狙う悪

あと気をつけないといけないのは、子供がいる人です。

法的に遺産を相続する権利がある人のことを法定相続人というのですが、
誰が法定相続人になるかと、どのくらいの割合を相続する権利があるかは以下のように決まります

配偶者が半分
子供たちが半分を人数で分ける

  • 被相続人に子がおらず、父母(祖父母)がいる場合

配偶者が2/3
父母等が1/3を人数で分ける

  • 被相続人に子、父母等がおらず、兄弟姉妹がいる場合

配偶者が3/4
兄弟姉妹が1/4を人数で分ける


また、代襲相続という制度も重要。
これは、相続人となるべき人が既に亡くなっていたら、その子供が代わりに相続できる仕組み。

例えばおじいちゃんが亡くなったとき、息子が既に故人のときは、さらにその子供(つまりおじいちゃんの孫)が父の代わりに遺産を相続できるということです。

この代襲相続は子供への一方通行なので、「法定相続人になるはずの娘が既に亡くなっていた」という場合、その両親が娘の代わりに相続を受けることはできません。



このシステムは、ミステリにおける殺人事件の順番にかなり関わってきます。

例えば、次男夫婦とその子供が狙われた場合、
次男→妻→子供
の順番で犠牲になったとすると、

次男の遺産を妻と子が相続→妻の遺産を子が相続→子の遺産を法定相続人が相続
の流れになります。
このとき法定相続人になるのは子供の祖父母。
もし「父方の大富豪一族の祖父母はもう死んでるが、母方の祖父母は健在」だと、この遺産は母方の祖父母が相続することになります。


例えば犯人が長男なら、自分が次男の遺産を継げないこの状況は防ぎたい。
犯人が金の亡者なら、「次男の財産を全て自分のものとするために、その配偶者と子供を先に手にかける」という選択に出かねない。

遺産相続争いミステリ、怖すぎるな。金の計算のために罪のない子供を平気で……



逆に、その可能性に気づいた次男が、せめて妻と子の命だけでも守るために行動することもありうるかも。

「見ろ、俺は遺言を書いた。『財産は全て兄弟たちに遺贈する』……これで妻や娘を狙う理由はないだろう。犯人がこの中にいるなら、お願いだから彼女たちだけは助けてくれ……」
そういう展開を入れられるかも。


遺留分も重要

でも相続対策で殺人の順番を決めるサイコが犯人だと、「でも遺留分請求されたら困るじゃん」つって妻子殺してしまうような気もするな……つらい。


遺留分は、法定相続人に認められています。
遺留分を説明するときによくあるたとえは、「遺言書で愛人に全ての遺産をあげると書いてた」ような場合。

この場合でも、法定相続人が遺留分を訴えれば、遺産全体の1/2*1については、法定相続人たちが相続できます。

つまり、遺産の半分はほんとに愛人に持っていかれますが、残り半分は法定相続人の配偶者や子供たちで分けることができます。

遺留分は、法定相続人がきちんと訴えないと適用されないので、誰も何も文句を言わなければ、遺言書どおり愛人が遺産を全部もらえます。



先ほどの次男の遺言の件でも同じです。
もしも妻や娘が遺留分を訴えなければ、次男の遺産は本当に兄弟姉妹に渡ります。

一方で遺産分を訴えれば、遺言があっても次男の遺産の半分は妻と娘がもらう権利があります。


サイコ犯人の魔の手から妻と娘を守るためには、遺言を書くのはもちろん、「妻と娘は遺留分を請求しないだろう」と犯人に思わせる必要があります。


犯人、おまえは相続欠格者

もちろん、当たり前に当然のことですが、被相続人を殺害して有罪となった人間には、遺産相続の権利はありません
殺した相手の遺産を相続できたらもうメチャクチャですからね。

同様に、「同順位以上の相続人を殺した」場合も相続権を失います。次男の遺産を狙ってその妻や娘を殺した場合も、もちろん相続欠格者になります。


他に、被相続人が殺されたと知っても隠そうとしたり、被相続人に無理やり遺言を書かせたり、遺言を隠したり処分した場合も、相続欠格者になります。

絶対に、遺言を勝手に処分したりしないでください。



先ほどの、サイコ犯人から妻と娘を守るために、この相続欠格者のルールは逆手にとれるかもしれないな。

次男の書いた遺言を、一族の見ている前で妻と娘に燃やしてもらえば、妻と娘は相続権がなくなり、犯人に狙われる理由もなくなる。
たぶん……



以上です。
これは素人が国税庁のサイト等を見ながらまとめたものなので、
本当に相続のことで困りごとがあるときは、プロに相談してください。

あと、相続ミステリを書くためにこれを使いたい場合はご自由に。作品を教えてくださると、よけいに嬉しいですが。

*1:直系尊属である父母・祖父母のみが法定相続人のときは1/3