蟹を茹でる

カニ @uminosachi_uni の雑記ブログです。好きなもののこと何でも。

ヒプノシスマイク税金10倍について本気で検討してみた

最近話題のヒプノシスマイクにはなんと「男性は税金が女性の10倍」というぶっ飛んだ斬新な設定があるらしく、いやいやそんな単純な人が2秒で適当に考えたディストピアみたいな設定……そんなん絶対暮らせなくなって暴動起こるやんけ……と軽く考えて否定してたんですけど(そもそもヒプノシスマイクの設定が全体的にぶっ飛んでるんで、あえてガバガバな設定にしてんのかなと思ってた)
いやいや本気できちんと検証してみないでガバガバと決めつけるのはどうなんかと思い、自分なりに検証してみることにしました。空想科学ならぬ空想税金計算です。
厳密なやり方ではないところもありますのでご了承ください。


「税金」は何を指すのか?

まず「税金」と言っても相続税やら固定資産税やら消費税やらいろいろありますね。
ただ「男性は女性の10倍」って言ってるところからして個人が払う税、そして生活に密着した日常的に払う税、代表格としては所得税か消費税のどっちかでしょうと思われる。そのふたつの中でも「安月給から支払った税金」みたいな表現があるので所得税のことを指してると見るのが妥当だと思う。

「10倍」っていったい所得税率何%か?

次に、所得税率について考えてみたい。現代の日本の所得税率は累進課税(課税所得が多いほど税率が高くなる)で、5%~45%である。

もしヒプノシスマイクの所得税制が女性は現代日本の据え置き、男性は現代日本の10倍だと仮定すると課税所得が4000万円以上の人は所得税率が450%になるので普通に年収を超えます。収支がマイナスになりますのでこれはありえないですね。
いちばんありそうなのは、女性の所得税現代日本の2割、男性の所得税現代日本の2倍ぐらい、っていう設定でしょうかね。これだと所得税の税収が現代日本の1割増。
もちろん現代日本所得税制とは全く異なる仕組みになってる可能性は十分にありますが、やはり現実の制度をベースにしたほうが考えやすいので、そう仮定させてもらいます。

所得税はいくらかかるのか?

女性にかかる所得税現代日本の2割、男性にかかる所得税が2倍だとすると、所得税はいくらになるのでしょうか。
まず、平成28年度の平均年収422万円を例に考えてみます。
念のため言っておくと、所得税は収入ではなく課税所得に所得税率をかけて、そこから税額控除を引いた額で決まります。なんで平均年収422万円の人は422万円の20%を持っていかれるわけではありません。カニは就職するまで勘違いしていて、戦々恐々としていました。

年収422万円の会社員の場合、給与所得控除は
422×20%+54 =138.4(万円)

他に基礎控除38万円、社会保険料控除が39歳以下東京の会社勤めで約61.7万円です。他にも扶養控除とか生命保険料控除とかあるんですけど、そのへん人それぞれになるので除外させてください。あくまで単身者を想定します。

ちなみに社会保険料の計算にはこちらのシミュレーターを使わせていただきました。
https://hokenstory.com/shakaihoken-simulation-salary-average-rank-list/

この場合課税所得は
422-(138.4+38+61.7)=183.9(万円)
になります。

この場合現代日本所得税制では税率5%、別途の控除額はなし。つまり所得税
183.9×5%=9.195(万円)
9万1950円となります。
この2割で1万8390円、2倍で18万3900円ですね。

つまり所得税に16万5510円の差が生まれることになります。年収の4%くらいの差ですね。12か月で割ると1万3793円なので、男女で年収が同じであれば月あたりの手取り額が1万3793円少なくなることになります。年収422万円だと手取りは30万円くらいになるはずなので、手取り30万円と手取り28万5000円くらいの差になります。

仮に年収が180万円だったら所得税に4万円くらいの差が生まれ、月の手取りが3500円くらい違うことになります。

逆に年収が2000万円だったら所得税がだいたい650万円くらい違ってきて、月の手取りは55万円くらい変わってきてしまいます。手取り150万円と手取り95万円くらいの差です。累進課税制なので、課税所得が大きくなるほど純額の差は増える。



うわあなんていうか……思ったよりリアルな数値だ……確実に不平等だけどクリティカルに生活が成り立たなくなる金額でないし、これだと暴動を起こそうとまではならなそうだ。ちなみに社会保険料が10倍だとたぶん死ねます。
そしてこの制度、低所得者の女性は大して恩恵を受けないんだよね。まあ月に数千円でもありがたい(逆に出費だときつい)のは確かだけど、それなら正規雇用の仕事が得られて年収そのものが向上したほうが効くに決まっている。中枢の高所得者たちが自分たちの支払う税金を大幅に減らすためのシステムとして機能している。実質としては、政府に近しい特定の高所得者層のみに対する減税政策なわけだ。ありそー。

住民税について

ここまで書いてから住民税を忘れてることを思い出したよ。住民税も所得税と同様(女性2割男性2倍)で考えると、年収422万円の場合約32万4000円の差となり、月でいうと2万7000円。所得税のと合わせると、手取りが4万1000円違うことになる。
ヒプノシスマイクの世界観が、男女の年収に差がない世の中ならば確実に不平等。そして当然やられてる側は不満だろう。


所得税10倍と賃金7割を比較してみる

現代日本において、フルタイム労働者の平均賃金には男女差がある。女性の平均賃金は男性の7割ほどだ。
もちろんフルタイム労働者なので短時間のパートさんを含まなくともこのくらい差がある。
これは女性が出産や育児などのためにキャリアを続けることが困難なことと、非正規雇用になってしまいやすいことが原因とされている。
長時間労働ができないと出世しにくいことや、女性の管理職の割合が少ないことも要因だろう。

厚生労働省の2016年の調査によると、女性の平均賃金は月額24万4600円で男性の約73%。逆算すると男性の平均賃金は月額33万5000円ほど
平均的な層を比較しても、月収に9万円以上もの差がある。
12倍すると女性の平均賃金(年収)は293万5200円、男性の平均賃金(年収)は402万円となる。実際にはここにボーナスが入ったりするので、そんで非正規雇用が多いってことはボーナスがもらえない人も多いってことなんで、平均年収にはもうちょっと差があると思われる。
こっから社会保険料所得税を引いた手取りは女性平均20万6000円、男性平均27万9000円となる。7万3000円の差である。

実は、所得税住民税が10倍であることより、賃金が7割であることのほうが、平均的な年収の人にとってはおおごとなのだ。
そう考えると、ヒプノシスマイクの世界の男性たちが、生活がたちゆかなくなる様子が描かれていないことも、暴動までは起こさないだろうことも、あながちおかしな描写ではないと思われる。

現代日本の人々も、もちろん女性管理職の登用とか非正規雇用者の立場の向上とか長時間労働の是正とか賃金格差の解消とかを求めてデモなどはしているが、そのために女性労働者が暴動まで起こしそうかって言われると「たぶん無さそう」って気がしませんか。

あとヒプマイクラスタで「ひふみとどっぽが同居してるのは、税金10倍のせいでどっぽの月収では一人暮らしが不可能だからでは……」って言うてる人見たけど、上記の計算にのっとるなら正社員の医療機器営業職の一人暮らしくらいは可能。なのでどっぽは自分の意志でひふみと同居しています!!!!!(大声)*1


賃金格差是正のための税制?

これは余談ですが
ヒプノシスマイクではそこそこ最近軍隊が解体されたってわかる描写があるらしく、ヒプノシスマイクファンの中にはそれを根拠に「女性が支配する社会は最近できたもの」と考えている人たちもいるようだ。
女性優位の歪んだ社会(?)のはずなのに男性が医者や警察になれていたり社会的に成功していたり、あんまり性差別の具体的な描写がないことに対して、「女性優位社会は最近できたので、その前に医者や警察になっていた人はそのまま仕事を続けているし、巷の人々には女性優位の世界観がまだ広まっていない」とする立場だ。おもしろい考察だなーと思う。



その考察を知ってひとつ考えたのが、じゃあそうなる前の社会はどんな風だったんだろう? ってことだ。それはけっこう大事な要素だ。革命が起こる前はどんな社会だったのか知りたい、というのは『1984年』でもけっこう切実な渇望だ。

ここからは完全にカニの空想でしかないんだけど、女性優位社会が確立される前の社会は、現実と同じような、女性のほうがフルタイム労働者の平均賃金が低い社会だったんじゃないだろうか。
であれば、「男女の平均賃金の平等が達成されるまでの暫定的な格差軽減政策」として、女性の所得税住民税の8割減と男性の所得税住民税の倍増を無理やりねじこめた可能性はある。それでもかなり無理やりな導入だったには決まっているけど。
ヒプノシスマイクの世界観、今のところそこまで殺伐としているように見えないし、男性が警察に留まれていたりパワハラハゲ課長が課長のままであれてることからしても、そこまで強硬的に暴力革命をしたわけではないと思う。男性を官職から一気に追い出すような権力はないはず。*2だから男性に不利な税制を導入するには、「一見正しそうな理屈」が必要だったと思う。

その「一見正しそうな理屈」として、女性の平均賃金が男性に比べて低いから、ってのはかなり有効だったかもしれない。所得税が2倍になってもなお男性のほうが平均賃金層の手取りは多いんだぞ! って言われたら多少、「そうかぁ……」ってなってしまう気がする。自分が正社員だったら特に。



だけど、そんな理屈でこんな税制を導入されてたまるかよと思う。お前らそんなこと言ってるけど、この政策、低所得の貧困層の女性には全然大して恩恵ねーじゃねーかよ!!!!! しかも低所得の男性にも負担行っちゃってるし。
だったらシンプルに高所得者層への所得税増と低所得者向けの免税・給付金政策のほうが誠実。そんで、必然的に高所得者には男性が多くて低所得者には女性が多いんだから、その政策でもある程度男女の格差是正には寄与できたんじゃねーの?

ていうか素直に男女の賃金格差そのものの解消を頑張れよ。政府が率先して男女の賃金格差の解消を本気で頑張ってくれよ!!!

結局この仕組みでいちばん得してんの、女性全体じゃなくて課税所得が4000万円超えるような一部の中枢の女だけじゃねーか。
ぜってえ政府のやつら、政府に近しい高所得者層に甘い蜜吸わせるためにこの税制導入したじゃん……



だからヒプマイ、税金10倍に反抗するとき、「女どもは全員俺たちからカネを搾取する悪者」みたいな描き方をしなかったらいいな。そうじゃなくて、聞こえのいい政策戦略を隠れ蓑に甘い蜜を吸う、一部特権階級の政治腐敗を打倒する方向になったらいいと思う。

そうなったとしたら、「女性優位の世界観のはずなのに、日常レベルでは男性蔑視や男性の地位の低さが全然描かれていない」という違和感が、伏線としてめちゃめちゃ活きてくる。
特権階級の打倒のために、中王区以外のディビジョンにいる女性と連帯できる可能性が出てくるのだ。もしも弱者女性との連帯まで視野に含めているなら、男性蔑視がないことはめちゃめちゃ有利にはたらく。



現状、ヒプマイはカジュアルにホモフォビアなセリフをキャラに言わせたり、このままではガバガバにしか見えない&今のところほとんど展開に活かされていない女性優位設定があったり、なんか税金と壁の設定が認知の極度に歪んだ人から見たレディースデーと女性専用車両なんじゃないかと思えてきたり、
大好きだけど心の底ではうっっすら信用してないまま見守っている。

だけど今後もし、あのキャラが自分のホモフォビアに気づいて真剣に向き合うようなできごとがあったりして、その上
「男女の賃金格差を埋めるための政策を、税金10倍でもなお平均賃金の女より手取りの多いお前たちが否定できるのか?」
格差是正までの応急策は必要だが、ならば高所得者だけが得する税制ではなく弱き者たちのための政策があるべきだ、中王区のやり方は間違っている」
みたいな真剣かつこれまでの違和感を一挙に納得させてくれる問題提起が出てきたらカニヒプノシスマイクに一生ついていくかもしれない。



うっっすら信用してないけど、めちゃめちゃ大好きだから、心の底で期待もしてしまうカニです。





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よかったら藤森慎吾のこともよろしくお願いします

*1:もちろんひふみと同居すれば生活費が浮くしご飯もおいしい、という計算はあるかもしれないが

*2:単なるガバガバ設定というのでなければ