蟹を茹でる

カニ( @uminosachi_uni )のブログです

お笑いマニア男性に好きなお笑い芸人を聞かれたときの対処法

好きなお笑い芸人を聞かれたときの対処法

お笑いが好きだ。

といってもテレビでお笑い番組を見たり、ときどきよしもとの劇場に見に行ったり、DVDを買ったりするくらい。
YouTubeであらゆるお笑い芸人のネタを見漁るとかM-1は3回戦以降全ネタ見てるとかそういうレベルではない。
たぶんマニアからしたら大したことないと思う。

だが、お笑い芸人のDVDを30枚くらい持っていて、ときどき劇場に出向くだけでも
普段お笑いをテレビ番組以外で見ない人にとっては「お笑い好きなやつ」なのだ。


それ以外の趣味もそんなにないので、誰かに趣味を聞かれたときはお笑い好きだと答える。

まあだいたい「そうなんだ~」とか「うちの娘or息子も好きなんだよ~」みたいなゆるーい雰囲気で会話が進んでいくのだが、
個人的にちょっと鬼門な返しが「好きなお笑い芸人だれ?」である。


素直に答えていいやつなのかそれは

わたしはお笑いが好きである。
一番好きなお笑い芸人は、オリエンタルラジオである。

武勇伝でデビューしたときから好きで、地方在住の子どもだったから東京へは行けなかったけど、自分の地元に来たときはネタを見に行った。
チャラ男がブームになったときは友達にプッシュしまくって「おとなしそうなカニにそんな一面が……」と意外がられた。
就活のESでは彼らの著書をテーマにした。一応ちゃんと通った。
RADIOFISHのライブも見に行って、音楽ライブがこんなにも楽しいことなのかと生まれて初めて知った。


だから確信を持ってオリエンタルラジオだと答えるのだが、そうするとたいがいキョトンとされる。
一瞬「?」って顔になる。

いやわからなくもないですよ?
「カレー好きなんだ。どういうカレーが好きなの?」
「◯◯ってお店のカレーラーメンがめちゃくちゃ美味しいんですよ」
「? そうなんだ!」

この、一瞬の「?」。

まあふつうカレー好きって聞いたらインドやネパール風のスパイスカレーだと思うよな、次点で欧風カレーだよな。
カレーラーメンを挙げてくるとか誰も思わないよな。
……なんでや!! カレーラーメンかて美味しいやろ!!


まあふつうお笑い好きって聞いたら実力派漫才師だと思うよな、次点で個性派コント師だよな。
何度も手を変え品を変えバズってるエンターテイナー系コンビが出てくるとは誰も思わないよな。
……なんでや!! オリエンタルラジオ面白いやろ!! あんな生き様が面白いコンビなかなかおらんやろ!!


そうなることはわかっていても「オリラジです」って答えたくなるのがファンの性質なのですが、
どうにかもっと話がスムーズに進む答えはないものか……


そんなにお笑いに詳しくない人にどう答えるか

最近だんだんわかってきたのだが、
そんなにお笑いに詳しくない(興味がない)人がわざわざ好きな芸人を聞いてくれる場合、だいたい2種類の意図のどっちかだ。
1つは、単にお笑い好きのこちらのために話題を広げようとしてくれてる。
もう1つは、家族や親しい友人にお笑い好きがいて、その話をしたい。


この場合、手堅い答えはM-1に何回か出てる実力派漫才師っぽい。
はっきり名前を出すなら、「和牛が好きです」と答えておくとほぼほぼ間違いない(個人の見解です)。

そんなにお笑いに興味ない人でも和牛なら名前は知ってるし、漫才しっかりやってるイメージを持ってる。
M-1でならネタ見たことあるよ! 面白いよね!」って人も数多い。


しかも面白いことに、そういう人相手だと「うちの娘or息子or親友も和牛のファンなんだよ~」ってなる確率が異様に高い。

純粋にネタが面白くてファンが多いのが最大の要因だろう。
しかも、お笑いに詳しくない人にも好きって言いやすい知名度・実績。(ちょっと毒があるネタもあれど)暴力や大声に頼らない品のあるネタ。
両親や友人にファン宣言するには本当にぴったりの人たち……


するとどうなるか。
和牛が好きと言っておくと、その人のなかでわたしは「我が子or親友と好きなお笑い芸人が一緒の人」として記憶されるのだ。
ちょっと親しみを持たれる。
やったね!



はじめはそんな親近感目的の不純な動機でもいいので、よかったら和牛のネタを見てください。なんかかわいいし……
たぶんYouTubeにも動画はいっぱいありそうですが、自分はこのサブスクのご時世にDVD集めるタイプです。


お笑いマニアっぽい人にどう答えるか

ライトな若いお笑いファンならわかってくれるかもしれないが、
世の中にはお笑い好きを品定めしてくる『通な』お笑いマニアが少数存在する。
彼らはこちらがどんなお笑い芸人が好きかによって、こちらの趣味のディープ度を勝手に判定してくださるのだ。


そしてそういう彼らは、「好きな芸人はオリラジです」と答えるお笑いファンをちょっと下に見てくる。
なんなの? バズってるからか? 斜に構えて大衆にウケるものを冷笑しているのか?

あと、彼らはなぜかNON STYLEが好きなファンのこともちょっと舐めている。これは本当に謎。
無冠でリズムネタのオリラジはまだしも、M-1チャンピオンになるほどの実力派漫才師なのに。

こうなると芸人自体で判断しているのではなく、「NON STYLEには女子高生のファンが多い=NON STYLEファンはお笑いにわか」みたいなファン層への偏見による判断な気もしてくる。


※もちろんそんな判定してこないお笑いファンのほうが多いです。


こういう品定めお笑いマニアへのベストな解答はおそらく

「あんまり詳しくはないんですけど、金属バットを最近はよく見てます」

ですね。これは確実にそうです。令和元年5月の時点では少なくともそうです。


まずお笑いマニアには金属バットが人気。なおかつマニア好みのネタの雰囲気があって、そこに目をつけてるだけで彼らはあなたに『何か』を感じ取る。

しかも最近地上波にちょっとずつ出始めてるくらいで知名度がちょうどいい。
これが千鳥だと知名度がありすぎて、「最近人気があるから言ってるだけの、バラエティ番組でしか観てないにわか」と思われる危険もありうるので。いろはに千鳥初回から全部見てるんですよ~とかなら別です。


重要なのが「あんまり詳しくないですけど」と「最近はよく見てます」。
これでネタを網羅してないことへの予防線を張れるし、しかもあえて下手に出ることでマニアのプライドをくすぐる。

大ファンです! と主張されると張り合いたくなるけれど、「最近興味があって……」と言われると沼に引き込みたくなるのが人間の性。

しかも、自分の大好きなことを人に教えてあげられるのってすごい快感。
人は自分の話をするときと、大好きなものの話をするときに脳が興奮するらしい。あまつさえそれを上の立場で教えることを許されるなんてもう、ドーパミンが止まらない。たぶん。てきとうに言っているけど……


お笑いマニアの先輩を気分よくする必要があるときには、先輩に口火を切らせる導入としてこの方法を使ってみたいと思う。




ちなみに、「自称お笑い通の彼らにそういう話をされるのは邪魔くさい、一方的に語らせたくない」というときには、ぜひ言ってほしい。

「武勇伝の頃からずっとオリエンタルラジオが好きなんです」と。

あなたとは好みの方向性が違いますよと伝えつつ、でも「今SNSでバズってる若手芸人をただ言ってるわけではなく、本当にオリラジのファン」であることもわかってもらえる。
上から目線で説教されるほどは舐められず、かといって同族だと認定されるほどでもない。

つまりこれは、「サンは森で、わたしはたたら場で暮らそう」というやつです。



もちろんそんな判定などしないファンのほうが多いでしょうし、しない人たちとならオリラジの話もけっこう盛り上がる気がします。
何しろ、彼らは常に動き続けていて、話題に事欠かないので。

RADIOFISH『No.55』のミュージックビデオが謎すぎる

まず一旦騙されたと思ってMVを最後まで見てほしい。

たぶん、見終わったときには人生で史上3番目くらいにきょとんとした顔になっていると思う。

とりあえず、あんなに狂喜しながらカレーをかき食らう子どもが見られる映像って貴重だと思うので(私は他に例を知らない)、それだけでも見てやってください。



初見時の雑感

えっどういうこと……? 地面にカレーの具材が? 誰が置いたの?
これはあれか、カレーマニアをおびき寄せるための罠とかそういう……?

少年が頭を押さえて苦しんでいる!
何かを思い出しそうなのか? それとも、カレーの誘惑に打ち勝とうとしているのか?



カレーライスボーイの表情ヤバすぎる、完全にカレーが非合法のものにしか見えないくらい恍惚としている



孤独な少年が背中を叩かれて振り返る。
「振り返ったら仲間たちが並んで笑っていて、自分がひとりではなかったことを知る」
っていうならミュージックビデオあるあるですけど、

いつの間にかトマトのまわりにプチトマトが増えてる……!

どういうこと!? プチトマトが仲間なの?
あれもしかしてトマトたちが子どもを生んだ的なことなの??

そんでジュースにしちゃうの!?
MVのストーリーが謎すぎて、少年のダンスのうまさと格好良い歌詞が全然入ってこない

まあ百聞は一見に如かず。見てください


解釈を試みた

まあこれだけだったら「シュールなMV作ったんだな」って思うのですが、このMVのディレクターを担当したスキルマスター・FISHBOYさんがこんなコメントを。

どういう生き方???

しかし、あのストイックで熱心で友達1億人のFISHBOYさんが言うからには、このMVには何か深ーいテーマが隠されている気がしてきた。

そこでなんとかしてこのMVから一貫したテーマを読み取れないかと、解釈を試みました。


最初は、少年の「カレーを拒んでトマトを貫く」*1選択が描かれているものとみて。

カレー=良い大学出て良い会社に入って家庭を築くような、手堅くて安泰な人生の象徴
トマト=ダンサーとしての、みずみずしいが主流からは外れた人生の象徴

こんな感じで食べ物を人生の選択に見立てて、
「様々な誘惑や普通の人生の可能性を断ち切り、ストイックに一意専心、ダンサーとしての道を歩んできた。そうするうちにダンスの豊かさを知り、自分の人生を味わって悪くないと思えた」

そんな感じのメッセージが込められてるのかなー、と初めは思った。


この解釈も素敵だし、この方向性で私よりもっと素敵な考察をしている人もたくさんいる。
たとえばこの呟き。めちゃめちゃエモい。


異なる解釈の可能性をさぐる

ただ「少年がトマトだけを選んだ」と考えると、ちょっとプチトマト大発生と最後のトマトジュースが引っ掛かった。
これはあくまで個人的感覚だけど、「少年が自分で選びとる」それまでのシーンと、ニュアンスがちょっとずれてる気がしたのだ。


最初のふたつのトマトは少年が自分で拾い上げて選びとっている。

一方でたくさんのプチトマトたちは、背中を叩かれて振り向くといつの間にか増えている。
誰が置いたのか、どこから来たのかは謎に包まれている。


また、せっかく得たトマトたちをそのまま味わうのではなく、粉砕してジュースにして飲むという表現は、少し遠回しな感じがした。
わざわざジュースにするということは、そこにメタファーとしての意味があるのでは?



そして考えてみて、たどり着いた。
あのMVを「少年がカレーよりトマトを選んだ」と考えるから引っ掛かるけど、
「トマトがカレーの仲間に入るより孤独を選んだ」と解釈すると、色々なことが(自分の中で)きれいにつながることに……!


MVの主人公、トマトだ……!


そうするとカレーは「ふつうの社会」の象徴だ。
会社があり近所付き合いがあり、そのしくみに組み込まれて安定して生きていけるような社会。
そこでは玉ねぎやじゃがいもや豚肉、にんじんたちが活躍している。

トマトには、そんなカレーの隠し味として、「ふつうの社会」の目立たない一員として生きていく道もあった。


しかしトマトはその誘惑を拒み、孤独に耐え、社会に組み込まれずに自分らしく生きることを決めた。

ふつうの社会の安定した生活を享受し、見せびらかしてくる人間たちになびきもせず。


そんなトマトが孤独に踊っていたとき、目の前にもうひとつのトマトが現れる。
トマトは信頼できる相棒を見つけて、トマトらしく生きていく自信を得る。

ときにはふたり歩道橋に並んで眼下の街を眺めながら、自分たちの生き方が正しいのか迷ったこともあった。
それでも一心にダンスを突き詰めてきた。


肩を叩かれてダンスをとめ、ふと周りを見渡してみると、そこにはたくさんのプチトマトがいた。
いつもダンスに真剣なトマトを慕い、後輩として生徒として、あるいはファンとしてついてきてくれた者たちだ。


トマトとプチトマトたちは、力を合わせて一丸となり、トマトジュースとなる。
そこにはカレーに負けない味わいと栄養があり、その渇きを満たしてくれた……



こんな感じで解釈していくと、「ダンスを極めていたらいつの間にかプチトマトが大発生していた」というシチュエーションもスッと入ってくるし(本当か?)、

最後のトマトジュースも、重要な意味を持ってくる。



あれは、料理としてのカレーと対比される、「完成品」としてのトマトジュースだと思う。


トマトジュースは、ほとんどトマトだけでつくることができる。
一方で、トマトひとつだけでは、絶対にあの量には届かない。

たくさんのトマトたちが力を合わせて初めてできる調理品が、トマトジュースなのだ。



志を同じくするたくさんの仲間たちが、一体化してひとつのものを作り上げる。
ひとりひとりの境目はなく溶け合っているが、トマトとしての良さは隠れることも紛れることもなく、はっきりと主張している。


きっとRADIOFISHにとってはこの『No.55』が、そしてこのMVが、トマトジュースなのであろう。

*1:RADIOFISH故事成語第2弾である。ちなみに第1弾は「3万円する不可抗力」です

《解答編》大富豪の一族が次々犠牲になるミステリと、相続税

前回http://bloodandsugar.hatenablog.com/entry/2019/02/11/155342
のつづき。この記事だけでも読めます


相続税ミステリはありうるか

一族が立て続けに亡くなったときの相続税

「3人が順番に亡くなって、そのたびに相続税払ってたら遺産なくなるんちゃう?」みたいなことを言っていましたが、これにはちゃんと対策がありました。

それが、相次相続控除です。
簡単に言うと、誰かが亡くなって、その遺産を継いだ人が10年以内に亡くなった場合、相続税の控除(税が安くなる)が受けられるよ! ということです。



おじいちゃんが亡くなり、おばあちゃんと子供たちが遺産相続
→おばあちゃんもその翌年に亡くなり、子供たちがその遺産を相続

例えばこういう例の場合、今回のおばあちゃんの遺産のうち、『おばあちゃんがおじいちゃんから相続したぶんの遺産』には実質、相続税がかからないことになる。
その部分はおじいちゃんから相続するときにもう税金払ってるから、二重取りするとかわいそうなので今回は取らない、みたいな感じ。


実際にはもっと計算は複雑で、前回の相続税額なども絡んできます。国税庁のサイトで詳しい説明が見られるので貼っておきます
No.4168 相次相続控除|国税庁



ミステリでいえば、たぶん殺される順番で税額の合計がそんなに変わることはなさそうです……
さすが国税庁、二重取りを防ぐ『相次相続控除』という救済策を用意しながらも、決して税金逃れには利用できなさそうな設計になっている……

考えてみればそうですよね、立て続けに家族が亡くなったとき、何度も税金とられたらあまりにもかわいそうだ。
事故で夫婦両方亡くなったなど、どっちが先に亡くなったのか判別できない場合もありうる。それで税額が変わるようでは困る。

しかも亡くなる順番で合計の税額変わる仕組みだと、お金目当ての殺人事件とか起こりかねないし……

というわけで、殺人の順番によって税金対策するミステリのアイデアは実現が無理そうです。
日本とは税制が違う、架空の国でのできごとにしてしまう、という抜け道もなくはないですが


ただし、この相次相続控除、10年以内となっていますが、控除額は毎年1割ずつ減っていきます。

つまり
「犯人は必ず今日、あなたを狙いに来る! なぜなら明日はお父さまの命日……税金の控除額が1割も減ってしまうからです!」
みたいな展開を入れることはできるな。

1年以内に家族全員を亡き者にしようとする犯人。
なぜなら税額を抑えたいから。
だいぶヤバいやつだな……。


借金のあるやつは先に狙われる

税額は順番により変わらないとはいえ、相続できる遺産の合計には、順番が絡んできそうです。

例えば、遺産100億のおじいちゃん→借金20億の四男
の順番だと、
四男が相続したおじいちゃんの遺産は、借金返済のために使われてなくなってしまいます。

犯人的には、先に四男を手にかけ、彼の借金を相続放棄してからおじいちゃんを狙ったほうが、最終的な遺産は多くなりそう。

同じような理由で、金遣いの荒そうな親族も早めに狙われる。なぜなら相続した遺産を使い込んで減らしそうだから。


大財閥の一族の皆さん、遺産争いミステリでなるべく最後まで生き残りたいときは、無借金経営と堅実な金回りをアピールしましょう。

犯人に後回しにされるので時間稼ぎができますし、
警察から「金目当てでお前がやったんだろ!」と疑いをかけられることも防げます。


逆にいうと、めちゃくちゃ借金あって金遣い荒いのに最後まで生き残ってるやつ、怪しいかもしれないです。


法定相続人になるために、罪のない子供を狙う悪

あと気をつけないといけないのは、子供がいる人です。

法的に遺産を相続する権利がある人のことを法定相続人というのですが、
誰が法定相続人になるかと、どのくらいの割合を相続する権利があるかは以下のように決まります

配偶者が半分
子供たちが半分を人数で分ける

  • 被相続人に子がおらず、父母(祖父母)がいる場合

配偶者が2/3
父母等が1/3を人数で分ける

  • 被相続人に子、父母等がおらず、兄弟姉妹がいる場合

配偶者が3/4
兄弟姉妹が1/4を人数で分ける


また、代襲相続という制度も重要。
これは、相続人となるべき人が既に亡くなっていたら、その子供が代わりに相続できる仕組み。

例えばおじいちゃんが亡くなったとき、息子が既に故人のときは、さらにその子供(つまりおじいちゃんの孫)が父の代わりに遺産を相続できるということです。

この代襲相続は子供への一方通行なので、「法定相続人になるはずの娘が既に亡くなっていた」という場合、その両親が娘の代わりに相続を受けることはできません。



このシステムは、ミステリにおける殺人事件の順番にかなり関わってきます。

例えば、次男夫婦とその子供が狙われた場合、
次男→妻→子供
の順番で犠牲になったとすると、

次男の遺産を妻と子が相続→妻の遺産を子が相続→子の遺産を法定相続人が相続
の流れになります。
このとき法定相続人になるのは子供の祖父母。
もし「父方の大富豪一族の祖父母はもう死んでるが、母方の祖父母は健在」だと、この遺産は母方の祖父母が相続することになります。


例えば犯人が長男なら、自分が次男の遺産を継げないこの状況は防ぎたい。
犯人が金の亡者なら、「次男の財産を全て自分のものとするために、その配偶者と子供を先に手にかける」という選択に出かねない。

遺産相続争いミステリ、怖すぎるな。金の計算のために罪のない子供を平気で……



逆に、その可能性に気づいた次男が、せめて妻と子の命だけでも守るために行動することもありうるかも。

「見ろ、俺は遺言を書いた。『財産は全て兄弟たちに遺贈する』……これで妻や娘を狙う理由はないだろう。犯人がこの中にいるなら、お願いだから彼女たちだけは助けてくれ……」
そういう展開を入れられるかも。


遺留分も重要

でも相続対策で殺人の順番を決めるサイコが犯人だと、「でも遺留分請求されたら困るじゃん」つって妻子殺してしまうような気もするな……つらい。


遺留分は、法定相続人に認められています。
遺留分を説明するときによくあるたとえは、「遺言書で愛人に全ての遺産をあげると書いてた」ような場合。

この場合でも、法定相続人が遺留分を訴えれば、遺産全体の1/2*1については、法定相続人たちが相続できます。

つまり、遺産の半分はほんとに愛人に持っていかれますが、残り半分は法定相続人の配偶者や子供たちで分けることができます。

遺留分は、法定相続人がきちんと訴えないと適用されないので、誰も何も文句を言わなければ、遺言書どおり愛人が遺産を全部もらえます。



先ほどの次男の遺言の件でも同じです。
もしも妻や娘が遺留分を訴えなければ、次男の遺産は本当に兄弟姉妹に渡ります。

一方で遺産分を訴えれば、遺言があっても次男の遺産の半分は妻と娘がもらう権利があります。


サイコ犯人の魔の手から妻と娘を守るためには、遺言を書くのはもちろん、「妻と娘は遺留分を請求しないだろう」と犯人に思わせる必要があります。


犯人、おまえは相続欠格者

もちろん、当たり前に当然のことですが、被相続人を殺害して有罪となった人間には、遺産相続の権利はありません
殺した相手の遺産を相続できたらもうメチャクチャですからね。

同様に、「同順位以上の相続人を殺した」場合も相続権を失います。次男の遺産を狙ってその妻や娘を殺した場合も、もちろん相続欠格者になります。


他に、被相続人が殺されたと知っても隠そうとしたり、被相続人に無理やり遺言を書かせたり、遺言を隠したり処分した場合も、相続欠格者になります。

絶対に、遺言を勝手に処分したりしないでください。



先ほどの、サイコ犯人から妻と娘を守るために、この相続欠格者のルールは逆手にとれるかもしれないな。

次男の書いた遺言を、一族の見ている前で妻と娘に燃やしてもらえば、妻と娘は相続権がなくなり、犯人に狙われる理由もなくなる。
たぶん……



以上です。
これは素人が国税庁のサイト等を見ながらまとめたものなので、
本当に相続のことで困りごとがあるときは、プロに相談してください。

あと、相続ミステリを書くためにこれを使いたい場合はご自由に。作品を教えてくださると、よけいに嬉しいですが。

*1:直系尊属である父母・祖父母のみが法定相続人のときは1/3

大富豪の一族が次々犠牲になるミステリと、相続税

時々ありません?
大富豪の一族が遺産相続争いの果て、ひとりずつ犠牲になっていって、「犯人はこの中にいる……!」ってなるタイプのミステリ。

パッと思い付く有名なのでいうと、『犬神家の一族』とか。『うみねこのなく頃に』とか。



あれ、相続税どうなってるんでしょうね?



だいたいああいうので話題になる一族、資産のたんまりある大富豪が多いし。*1

相続税の税率って、けっこう高いイメージがあるし。



例えば、資産100億円くらい持ってる大富豪のおじいさんが死ぬとするやん?
この遺産を妻と息子3人で分けるとき、だいたい半分くらい相続税で持っていかれるやん?

次に大富豪の妻が殺されて、妻が相続した遺産を息子3人で分けるときも、やっぱり半分くらい相続税で持っていかれそうやん?

今度は優しかった三男(独身で子供はいない)が凶刃に倒れ、その遺産を兄弟2人で分けた結果もちろん相続税が発生しそうやん?

さらに次男夫妻が犠牲になり、その子供たちに遺産が受け継がれ……



もうこの頃にはおじいさんの遺産、2割くらいになってるのとちゃうか?



一族連続殺人ミステリの犯人、いったいどうやって税金対策してるんでしょう。

だってああいうミステリってだいたい遺産目当てで犯行におよぶわけで、だとしたらちょっとでも多く財産を受けとりたいはず。
ましてや肉親を手にかけてまでやるのだから、相当お金がほしいはず。

ちょっとでも多く財産を受けとれる=ちょっとでも相続税を減らせる方法を、必死に考えたりしてるのではないか?



「財産の多い親父から殺したんじゃ、他のやつを殺したときに相続税を二重に取られる。まずは借金がある三男を排除して俺の取り分を増やそう」

「次男夫妻を先にやったんじゃ、その財産は子供たちに行っちまう。罪のない子供に手をかけるしかない」

みたいなこと、けっこう真剣に考えてるんじゃないか?
『よくわかる!かんたんな相続争い』みたいな本読みながら。



むしろ、そういうのをテーマにした、相続税ミステリがあってもいいんじゃないでしょうか。
「財産の少ないやつから殺されている! これはもしや……税金対策!」みたいな。

あったら私は読みたい。

そういうジャンル知ってたらぜったいに教えてください。コメントお待ちしています。



あと、このことについてちょっと国税庁のサイトとか調べたところ、色々なルールや特例があって面白そうだったので、
そのへんをまとめてまた書きたいと思います。

キーワードは「法定相続人」と「相次相続控除」です。
できれば、相続税ミステリを書きたい人(書いてくれる人)が資料として使える、わかりやすいものにしたい。





書きました。

*1:現実にはむしろ財産が少ない場合に相続争いは起こりやすいそうです

RADIOFISHの弟分・FAUSTのライブに行ってきた。なぜかLDHの凄さがわかった

FAUSTのファンの方と、FAUSTをちょっとでも気にしてくれる方へ捧ぐ

1月21日のライブの感想を今になって書くという。


FAUSTとは

RADIOFISHの弟分、5人組のダンスボーカルグループ。
公式サイトにはプロフィールもありますし、彼らが出るYouTubeチャンネルへのリンクもあります。

https://www.nakataatsuhiko.com/faust


FAUSTの1stライブ『BRAINWASH』

そんな彼らが初めて実施した単独ライブ*1が、
1月21日に下北沢で行われた『BRAINWASH』である。

ちなみに、ライブについてはファン有志の方々が、ライブレポをまとめて上げてくださっている。
FAUST初ワンマンライブ「BRAINWASH」感想レポート │ NKT記者部ブログ

大変丁寧でわかりやすくまとまっていて、
それでいてあの会場の熱量と空気感を保った、
とても素敵なレポートなので、ぜひ見てもらいたい。
ライブ動画へのリンクもあるのでそちらもぜひ!



さて、最初は自分もライブで見たことや、感じたことを実況する記事を書こうと思ったのですが、
先述の有志(NKT記者部さん)のレポートと同じ土俵に上れる気がしない。

何しろエピソード記憶が得意ではなく、そのうえ歌とダンスへの造詣が深くないものだから、

「ダンスがとにかくすごい格好よかった」「振り付けがクールだった」
「リーダーのDAIKIさん歌上手かった……」「最年少のしりゅぽん(SHIRYU)かわいい……」「JESSYくん悪魔教の神父かよ最高の衣装だな」「NAOTOくんのダイナミックなダンスやっぱり推せるな」

くらいしか覚えていない。
これではただファンが熱暴走しているだけである。
(そういう熱意に満ちあふれたブログもまた、その人にしか出せないきらめきがあり、価値があるものだが)

なので、自分はライブの内容から少し外れて、考えたことを書こうと思う。




FAUSTのライブに行ったら、なぜかLDHの凄さがわかった

LDHとは、EXILEE-girls三代目 J Soul Brothersなどが所属する芸能事務所である。
2017年までは、HIROさんが代表取締役社長を務めていた。



実は私、お恥ずかしいことにJ-POPに詳しくなく、EXILEトライブのことを全然わかっていなかった。
ギリ、三代目 J Soul Brothersの曲はドラマで何度も聞いたことがある、くらいの理解度。

EXILEトライブって、めちゃめちゃいるな。EXILEトライブになりたい若手ダンサーはさらにその100倍くらいいるんだろうな」
という、漠然とした認識をしていた。





そんななかで、なんとなく感じている疑問があった。
「どんどん新しいグループが増えていって、EXILEファンは覚えられるんだろうか?」

そして、
EXILEファンはきっと、若さよりもダンサーとボーカルの確かな技術とカリスマ性を求めているのでは? 若いグループが次々出てくる状況をどう捉えているんだろう?」
などと、余計な心配をしていた。



けれど今回、RADIOFISHの弟分であるFAUSTのパフォーマンスを見て、それらの疑問が解けた。



まずひとつめの疑問への答え。
新たなグループが出てきても、愛と興味があれば覚えられる。

考えてみれば当然ですね。人間興味があれば電車の音だけで車両の種類までわかるようになるのだ。
興味さえあれば、たくさんメンバーがいてもぐんぐん覚えていける。



しかも、FAUSTを追ってみてわかったのだけど、この、「新たに好きになったグループのメンバーを覚えていく」という過程、かなり楽しい。


最初はメンバーの顔と名前さえあやふやだった*2


それが、YouTubeの紹介動画で少しずつ彼らの性格を知り、
公式MVと配信音源で彼らの歌声と容姿を覚え、

RADIOFISHライブのオープニングアクトでダンスの迫力と、それぞれの躍りの個性を目撃し、
MCでのRADIOFISHとの絡みで、彼らのキャラクターや、お兄さんたちとの関係性をつかみ、

そうして少しずつ、彼らの全体像が見えてきた。
そうして彼らを知るたびに、どんどんFAUSTのことが好きになっていった。


「覚えられるかな?」じゃねえ、覚えるんだよ!
その覚える過程こそが、彼らをわかっていく過程こそが楽しくて、他にはない宝物なんだよ!


その喜びを味わわせてくれるFAUSTは、そしてRADIOFISHは凄いって思ったし、

もちろんそれをやり続けて、弟分を人気グループにし続けているLDHももっと凄い。
いやー、すごいなLDH





そして、ふたつめの疑問。
EXILEファンは、若さより技術やカリスマ性を求めているのでは? 若いグループが出てくることをどう思っているのか?」ということ。

しかしこの問い自体、「若さ」と「技術」を対立するものとして扱ってしまっている。
若くても、これから技術とカリスマ性のあるグループに育っていく可能性は十分にあるのに。

しかも、重大な問題点に気づいた。
たぶんこの問いは、弟分グループのターゲット層を、「年を重ねた兄貴分グループから、若い弟分グループに乗り換えるミーハーなファン」だと、勝手に想定しているから出てくる問いなのではないか?

でもそれは、不当なファン像だし、弟分グループのファンにとって失礼なのではないか? と。



実際には弟分グループのファンは、若いグループに「乗り換え」たりはしないと思う。
ファンが弟分を好きになるのは、彼らがただ「若い」からではないと思う。


弟分を好きになったからと言って、お兄さんたちへの愛や信頼がなくなるわけじゃない。

ファンが弟分を好きになるのは、お兄さんたちが好きだからこそだ。
RADIOFISHが大好きだからこそ、FAUSTのことを追ってみようと思った。


GENERATIONSを追うファンも、きっかけはEXILEが好きだからとか、
あるいは「LDHが売り出してるグループならきっと魅力的だろう」という信頼とか、そういう気持ちがあったんじゃないか。


いわゆる、「生産者の顔が見える野菜」みたいなものである。
「農家の田島さんが作ったフェンネル? フェンネル知らないけど、あの田島さんが丹精込めて作った野菜なら間違いない! よし、買って食べてみよう!
……おいしい!!! 好き!!!」
みたいなことである。


確立された技術とカリスマ性を持つお兄さんたちが推薦し、責任を持って選び、育てている弟分だからこそ、好きなのだ。



しかも、「はるか高みにいるお兄さんたちに育てられ、必死で食らいついて成長していく弟分たち」というこの構図がもう最高の極み。


FAUSTのダンスを見つめながら、「この最高にクールなダンス、へい様*3が振り付けしたんだ! 格好いい……」と、うっとりしたり、
へい様の難しい振り付けを必死で覚えた結果、夢にもへい様が出てきたKAITOの真面目すぎるエピソードを聞いたり、

FAUSTの1stライブを最後方で静かに見守っていた、へい様とSHiNくんの姿を見つけたり。

そういう、兄貴分との関係性が垣間見える瞬間が、私の思い出のなかできらきらと輝いている。


FAUSTは、そんな尊敬するお兄さんたちの期待に応えるように、すさまじい速度で成長していっている。

ライブでは、オープニングとラストの曲に、同じ曲『BRAINWASH』を披露したのだけど、
人はライブ中にここまで成長できるのか! 自分たちだけで舞台に立つ経験を踏むと、能力と個性がここまで開花するのか!
と驚くくらいに、ラストのパフォーマンスは迫力があって、のびやかで、華やかだった。



両グループのメンバー同士の関係性が見られるうえに、FAUSTのめくるめく成長が目撃できるうえに、

「若手を育てるお兄さんとしての、頼りになるスキマス」の一面までもが見られるのだ。
これが最高でなくて、一体何が最高だというのだ。



この、「若手をプロデュースすることで、成長過程をファンとともに見守ることができる」
「若手を育てることにより、お兄さんグループの新たな一面をもファンに見せることができる」
という価値をずっと前から最大限に活かしてたLDH、本当に凄すぎるなと思った。

すでに完成された兄貴分グループとともに、発展過程の弟分の成長を見届けることができるのだ。

グループのなかでは末っ子感のある、可愛がられてたメンバーでも、弟分に接するときは、途端に頼りになるお兄さんなのだ……美しいね……。



最後にもっかいおすすめのライブレポ貼るのでぜひ読んでほしい。
FAUST初ワンマンライブ「BRAINWASH」感想レポート │ NKT記者部ブログ

そしてライブ動画。
照明落とす演出なのにKAITOくんが蛍光イエローの服着てる(そして案の定めちゃくちゃ目を引く)のはご愛嬌。
最初ちょっと光り具合に笑っちゃうんだけど、それを差し引いても十分格好いいです。

*1:よく考えたら単独ライブってお笑いの言い方では? 音楽だと何て言うのかな。ワンマンライブか?

*2:しかもFAUSTは当初、メンバーにKAITOが2人もいる不思議な状況だった。現在は片方がjessyになったので解決している

*3:RADIOFISHのスキルマスター=ダンサーのリーダー

星座のことロマンチックだと思ってたけど違った

だいぶ前、明石市立天文科学館に遊びに行った。日本の標準子午線が設定されてることでおなじみの施設である。

そこで、あらゆる時計の歴史みたいな展示をしばらく眺めたあと、
私はたぶん生まれて初めて、プラネタリウムを見た。(もしかしたら幼稚園のとき1回行ったかもしれないけど、覚えてないのでノーカン)



Googleマップどころかコンパスもないような時代には、太陽と星だけが方角をつかむ目印だった。
昔の人々は、これらの星の配置を覚え、常に真北に座する北極星を道しるべにしていたらしい。



そんな、古代の人も見ただろう星空を見上げて。
私は思った。

ぜんっぜんどの星が北極星かわからん!!!!!



目の前一面に広がる満天の星。
肉眼で見える星は全部で8000を超えるという。そのうち半分は昼間の空に出ているので、晴れた一面の夜空には、だいたい4000の星が出ている。

その中から、星の配置と、輝度、色だけを頼りに、たったひとつの星を探すのである。



ナレーションで、プラネタリウムの職員さんの解説が入る。
北極星を探す場合、まず目印になる白鳥座を見つけてから辿っていくといいですよ」

まずその白鳥座を覚えて見つけられる気がせん。



当然、夜空には星を結ぶ線などない。
ただ空に点々と並んだ星たちだけを頼りに、白鳥座を見つけ出さないといけない。

そこから北極星を辿るにも、特定するヒントは位置と輝度のみ。ほとんどの星は形も色も、ほぼ変わらないからだ。



渋谷駅前で、「ハチ公像から6m北にいる」というヒントだけを頼りに、初対面の人と待ち合わせすることを想像してほしい。
しかも「白いシャツにネイビーのジャケット、ベージュのパンツでいます!」と言われてハチ公前に向かったら、そのへんの人全員同じ格好してた、という状況を想像してほしい。

もう絶望である。

見つけられる気がしない。



でも北極星を見つけられないと、道に迷って死ぬ。



星座って、なにかロマンチックなものだとずっと思っていた。
吟遊詩人が焚き火にあたりながら、子どもたちに星座にまつわるロマンチックな物語を語り聞かせる、
そんなイメージを漠然と抱いていた。

でも、たぶん全然違ったと思う。

きっと、旅人たちが、商人が、夜に遠くへ行くすべての人たちが、
迷わず目的地に向かえるように、家に無事たどり着けるように、
星の配置を覚えるために、必死で考えた文脈だったんだと思う。



それほぼ受験勉強の語呂合わせだな。

みんな、それを覚えることに、その後の人生が懸かっているのだ。

だから年号を語呂合わせで覚えるし、
古語の活用形を歌で覚えるし、
数学の公式に変なキャラクターつけて擬人化して覚えるし、
星の配置に物や人のかたちを見出し、星座に物語を結びつけて覚えるのだろう。



もしかしたら、「鳴くようぐいす平安京」だって、未来の人々にとってはめちゃくちゃ風流に聞こえるかもしれない。
試験のために年号を覚えるという行為が必要なくなれば、我々がなぜわざわざ語呂合わせを考えたかなんて、未来の人にはわからなくなるだろう。

「昔の人は平安京ができた年と、平安京の春の朗らかな美しさとを掛けて、『鳴くようぐいす平安京』と讃えました。風流ですね」
とか言われてるかもしれない。



受験生がなんとか知識を詰め込もうと、必死になって考えた語呂合わせも、
「数寄者が茶の湯仲間と考え出した趣深い言葉遊び」みたいなイメージでとらえられるかもしれない。





とにかく、Googleマップのある時代に生まれてよかった。

「文喫」はブックカフェへの逆襲かもしれない

今月11日、六本木の青山ブックセンター跡地に「文喫」がオープンしました。

出版取次の日本出版販売が経営する、新業態の本屋さん。
入場料1500円をとることや、内部に喫茶室やイベントスペースがあること、コーヒーと煎茶が飲み放題なことなどが話題になり、
ニュースにも多数取り上げられています。

日販/青山ブックセンター六本木店跡地に入場料1500円の本屋「文喫」(2018.12.10)|流通ニュース
↑これが詳しくて分かりやすかったです。写真見てるだけでわくわくするな


その「文喫」について、最近流行りのブックカフェとの関係性を考えてみたいと思います。




「文喫」はブックカフェへの逆襲か?

本屋さんの販売制度

まず、この話の背景である、書店の販売制度について。


書籍の流通は一般的に、『委託販売制度』が採用されています。
書店が版元(出版社)から預かった書籍を自店で販売し、売上から書店の取り分を引いた額を版元に渡す仕組み。

仕入れた(買い取った)商品を売るわけではなく、あくまで出版社から販売を委託されているだけ、商品を預かっているだけなので、
売れなかった分は一定期間内なら返品ができます。


そのため、書店は不良在庫を抱えるリスクや、仕入れた商品が売れずに損失を出すリスクがありません。*1

だからこそ、本屋さんは多種多様な本を(あまり売れそうにないニッチな本も含めて)並べることができるわけです。


ちなみに不良在庫リスクは出版社が背負っているよ!
書店で売れ残った本は全部返ってくるので、在庫を抱えるし制作費が赤字になります。*2




と、いうと書店がノーリスクで儲かるみたいに見えますが、そう上手くはいきません。
リスクが小さいものは、大体リターンも小さいので。


書籍売上の配分は、委託販売制度だとだいたい以下のよう。

出版社70:取次10:書店20

書籍を制作しリスクを背負う出版社が7割、
大小様々な出版社の本を全国の書店に配本する取次が1割、
実際に販売をする書店が2割です。


例えば、1000円の本が1冊売れたら、書店の取り分は200円。
ここから人件費などの販売管理費を捻出するので、純利益はかなり微々たる感じ。


ブックカフェはなぜ経営が成り立つのか

つまり、本は売れなくてもリスクがない代わりに、売れてもあまり儲からない。
本の売上で儲けようと思ったらめちゃめちゃ売らないといけない。*3

ちなみに飲食店だと原価率は約30%で、1000円のメニューが売れれば700円が手元に残ります。もちろんここから人件費などを色々支払う。


待てよ……
1000円の本が売れたら手元に残る分(粗利といいます)が200円で、
1000円の飲食物が売れたら手元に残る分は700円?
ものによるけど、ドリンクならもっと多い?


じゃあ、本よりドリンクを売ったほうがエエんとちゃうか?????


と、思ったのか
はたまた、「お客様に本との出会いを届けたい、ゆっくり本を読める場所を作りたい」という純粋な気持ちなのか
(たぶん後者だと思う! そう思う! そう思いたい!)

最近、おしゃれなブックカフェが増えている印象。


ブックカフェの特徴といえば、
コーヒーなどの飲み物や軽食・スイーツを楽しみながら、
おしゃれな書店内併設のカフェで、
まだ買ってない本を持ち込んでゆっくり読めること*4




ブックカフェを元々知っている人なら、
「あれやったら店内で読むだけ読んで、買わずに帰るんちゃう? 本売れへんくて儲からんのとちゃう?」と思っていた人もいるかもしれない。

どっこい仮にそうなっても、書店はちゃんと儲かる仕組みです。


例えばお客さんが、3000円分の文庫本をカフェで読破する。
もちろん長時間いるからドリンク(600円)を頼むし、ついでにケーキ(800円)でも食べていくとします。

本人は「3000円の本を1400円の出費でじっくり読みきれた!」と得した気分で帰っていきますし、
実は書店は3000円の本が売れるより、1400円の飲食物が売れたほうが儲かる

8000円の綺麗な画集が1冊売れるより、その画集目当てにドリンクを1杯飲みに来る人が4人いたほうが儲かる。
しかもお客さんたちは「8000円の画集をたったの600円で読めたぜ!」と喜ぶので、たぶんまた来る。


つまり、たとえ本当に本が売れなかったとしても、問題ないのです
出版社以外にはね!


ブックカフェは良い商売なのか

新品のさまざまな本を買わずにゆっくり読める、という特徴は、カフェにとって大きな強みです。
強みのあるカフェなら、たぶん人は少々ドリンクやスイーツが割高でもやって来るはずです。

ドトールならホットコーヒーSサイズが220円で飲める。
でも、同じコーヒーが猫カフェで600円で売っていても、猫好きは猫に会うためにドトールじゃなくて猫カフェを選ぶ。

単価が高めと知ったうえで、インスタ映えなお洒落カフェに行くのが楽しみな人がいる。
インスタ映えをバカにしている人でも、大好きなアニメのコラボカフェのためなら、限定おまけをコンプするために800円のドリンクや1500円超のフードを頼みまくる。


一方で、そういった付加価値をつけるにはコストもかかります。

高額なブランド猫を買う、猫全員分の予防接種代、餌代、猫砂、猫をお世話する人件費……

お洒落なカフェにするには内装やインテリアがお金をかけるポイントだし、席数をミチミチにするわけにもいかない。
有名アニメとコラボをするにはライセンス料がかかるし、グッズの製作には費用がかかり、余ったら在庫になってしまう。

初期投資してお客さん全然来なかったら大事件です。


翻って、ブックカフェ。

本はあくまで預かって、店内に陳列しているものです。買い取ったものではないわけです。
書店である以上、毎週新しい本が配本され、棚のラインナップは常に新鮮に保たれます。
読まれるだけで本が売れなくても、返品できるので費用は生じません。

その代わり本の売上ではあまり儲からず、ドリンクを売ったほうがよほど粗利が大きいです。



するとどうなるか。
本の売上で儲けるのは諦め、本はあくまでお客さんを引き寄せる魅力と割り切り、本に誘われてきた人々に茶をしばかせて利益を上げる
形態が、ブックカフェにとっては最適解になってしまいます。

(もうひとつの方向性もあるのですが後述)


でもこれ、出版社側から見るとなかなかの事態。
出版社がリスクを背負って、本を積極的に売ろうとしていないブックカフェのために、本を無償で貸与してるみたいな、
奇妙な状態になってしまっています。

たぶん「30人が読むだけで帰ってる! 読ませなければそのうち何人が買ったんでしょうか!?」とか考えてる気がします*5

本を買い取っている図書館でさえ敵視する関係者もいるので、たぶん相当もやもやしてたんじゃないかな。


「文喫」はブックカフェと何が違うのか

「文喫」も、ゆっくりお茶やコーヒーを飲みつつ本が読めることには変わりないです。
しかし、一般的なブックカフェとは大きく異なる点がふたつ。

  • 入場料を取ること
  • そこに並ぶ書籍が『買い切り』であること


特に重要なのは、書籍販売の形態が『委託販売』ではなく『買い切り』であること。

つまり、本が「文喫」に並んだ時点で、出版社は売上を上げられます。これならブックカフェに比べて、出版社の不満を軽減できます。

入場料を取ることから見ても、ブックカフェというよりは「気に入った本が買える私設図書館」というほうが近いのでは。


返品できないため毎週ラインナップが入れ替わるわけにはいきませんが、
その代わり置きたい書籍だけを、必要な部数だけ、書店の責任で仕入れることができます。

アートや人文など、強みとしたい分野に特化した品揃えが可能になります。

また、買い切りは書店が売れ残りのリスクを背負う分、売上の取り分は委託販売のときより多めになるのが通例。



魅力的な場所をつくり、入場料を主軸としつつ、リスクをとって書籍の売上でもしっかり利益を上げる。
買い切りによって出版社にも利益を配分する。

この「文喫」の新しい経営戦略が、「本を売っても書店が儲からない」問題に対する、新しい答えになってほしいと思います。

*1:もちろん商品が売れなければ利益も出ませんが

*2:マンガ『重版出来』で経理が初版部数減らしたがったり、重版かけたがらないのもそのせいだと思います

*3:「本屋での万引きは致命傷」と言われるのもこの販売制度による。売れ残りはノーリスクだが盗まれたら単価の8割を払わねばならないので、1冊盗まれただけで4冊ぶんの儲けがパーになる

*4:もちろん、買った本のみ持ち込めるカフェがついてる書店もありますが

*5:あくまで想像です。でも図書館に対してそういうこと言う人はいるので、たぶんブックカフェにもいるはず